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花蘇芳の過去 5 

書き忘れていましたが、久坂とはもちろん久坂玄随のことです。

「早くここを出る用意をしよう」


そういって、竜胆が立ち上がったときだった。


ドンドンドン、ダァン


いきなり、玄関のほうから扉を破る音が聞こえてきた。

いきなりのことであったがさすがは忍び。

竜胆は落ち着いていた。


「さすがに早い、か。急いでここを出るぞ」


「あなた…。ゆ、柚子は今どこに?」


血の気が引いた顔をしながら皐はこわごわ声を放つ。

長州藩の追っ手と思われる人間が今まさに侵入してきたというのに柚子の姿がない。

はっと気づいた竜胆はさすがに動揺を隠せない。


「皐、お前は先に逃げておけ、俺も柚子を見つけたら―――――」


「柚子ちゃんっていうんだ。この子」


不意に現れた相手に殺気を放つ竜胆。

しかしその男が抱いていたのは…。


「柚子っ!!」


ぐったりとした柚子だった。


「そんなに焦んないでよ。竜胆サン。気絶してるだけだよ」


そういいながら久坂は柚子の頬をつつく。


「貴様ら、またそのような幼子を盾とするのか」


怒りを震わせながら竜胆は叫ぶ。

しかし、黒装束の二人は気にも留めないように言い続ける。


「ふっ。何とでも言えばいいですよ。維新のための犠牲なら致しかたありません」


ヒュン――


殺気を込めたクナイを竜胆は二人に投げつけた。が。


カラン…


しかし、読めていたかのように軽々とよけられてしまった。


「そうですか、あなたは長州に戻るつもりはないのですね」


唐突に吉田は話を切り出した。それは、冷酷な声で。

それに対し竜胆も負けじと反論する。


「当たり前だ」


そのときだった。


ザァン――――


「そうですか。残念です」


そう言い放つ吉田の刀は竜胆を貫いていた。


「いやぁぁあああああ」


その瞬間かん高い皐の悲鳴がこだました。

逃げようとしていた矢先に二人が現れたので緊迫した空気の中皐はその場に残っていたのだった。

皐の目の目の前で斬られた竜胆の血が目の前で散る。

それはまるで、狂い咲きの桜のように。


「はぁ、っはぁ。っく。だ、だいじょう、ぶだ。皐」


皐の悲鳴に何とか声を絞り出す竜胆。

しかしその顔は真っ青で今にも倒れてしまいそうだ。

これ以上戦えそうにはまるで見えない。

そのことを悟ったのか竜胆はポツリと、


「皐。はや、く、にげろ」


そのときだった。


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