花蘇芳の過去 4
少々長くなりました…。
竜胆と皐が、話し合っている頃柚子は一人庭に出ていた。
そこにあるのは、一本の桜の木。
今の季節は、夏。桜の木は、今は青々とした葉を生い茂らせている。
そんな木の幹にポツリと的が立てかけてあった。
「悩んだときは、これが一番!」
そういって懐から取り出したのはクナイ。
柚子は、一呼吸置き的に狙いを定めた。
シュッ。
クナイは見事に的に刺さった―――はずだったが。
カラン…
最初は見事にまっすぐ飛んだクナイも柚子の力では的に届く前に地面に落ちてしまった。
的から柚子までの距離は十尺ほど離れていた。
そのため、柚子の力では到底届くはずがなかった。
が。
「くっそ…。父上なら簡単に届くのに。もっかいやってみよ。次こそは」
(あてる!!)
そんな気持ちを胸に抱きながらもう一度投げる柚子。
シュッ…、カラン。
しかし、やはり届くはずも無く、それでも諦めずに数十回投げ終わったときだった。
「はぁ、はぁ。ぜんぜんだめじゃん。こんなんじゃ、父上や母上のお役に立てない…」
さすがの柚子も疲れて幹にもたれかかる。
ヒュウ…
大きな桜の木下は真夏でも暑さをやわらげてくれる木陰ができている。
その影に吹く風に涼みながら休んでいるときだった。
ゾクッ―――――
背中に悪寒が走る。
柚子は、この世のものとは思えないほどの視線を感じた。
(誰かが、ここにいる。見られてる)
さっとそんな考えが柚子の頭によぎった。
本来、忍びの暮らす場所など他人にばれてはいけない、ばれているはずがない。
仕事が終わってからも狙われる可能性がある以上、大体は人里慣れた場所で暮らしているからだ。
(それなのに、何で殺気が…)
いろんなことを考えているうちに徐々に背後からその殺気を放つ主は近づいてきている。
柚子の持つクナイの手に力が入る。
(近づいてきたときなら、はずさない)
すでに、柚子の頭の中には近づいてくる一人の相手を殺ることにしか頭が回っていなかった。
大丈夫、小さくつぶやいて近づく相手に振り向きクナイを投げようとしたときだった。
ストン
「うぅ…」
小さくうめきその場に倒れこんだのは柚子だった。
後ろの殺気を放つ相手に気を取られ、自分の斜め後ろから近づく男にはまったく気づいていなかったのだ。
柚子に、当て身を食らわした男がつぶやく。
「竜胆も、こんな餓鬼が居たんですね。使えますかね…。どう思いますか?」
その男の問いにもう一人の男がしゃべりだす。
「こんな餓鬼まで使うのか?稔麿?」
ふっ、と笑いながら言う男に利麿こと、吉田こと吉田稔麿答える。
「えぇ、使えるものは何でも使う。それが私でしょう。久坂さん」
それもそうか、とつぶやきながら二人は竜胆と皐のいる家へ向かっていく。
黒装束をまとった二人が、今宵行うことは…。
これは、竜胆と皐が話し終わるわずか前の事だった。