第一話
柚子のイメージは元気で明るい子ですかね?
そんな感じで見てやってください。
時は、幕末。乱世の時代。
ひとりの人斬りが京に舞い降りた。
その名は、花蘇芳。
その姿を見たもので生きているものは誰一人としていない。
ならば、なぜその名が広まったのか。
それは、事前に人斬りを予告するからだ。
斬る相手に文を送る。その中に、花蘇芳の花が入っているのだ。
その情報だけが京の町に広まり京の人間の話題は毎日それで持ちきりだった。
「ねぇ、ちょっと。聞いた?また出たらしいわよ。人斬り、花蘇芳」
「いやぁねぇ。あたしらもいつ殺されるか、ひやひやするよ」
「あっはっは。あんたが?ありえないわよ。ただの、甘味処じゃない。よっぽどの浪士でもない限り
花蘇芳には、斬られないようだしねぇ」
そんな会話が、町のいたるところで話されていた。
「女将さん。お団子、もうふた皿追加ね」
「はいはい。それにしても、あんたよく食べるねぇ」
見ると、机の上には数え切れないほどの空いた皿が重ねられていた。
「にゃはは。よく言われるんだよねぇ。でもここのお団子。すっごくおいしいよ」
少女が満足そうに言うと、甘味処の女将さんも立ち話をやめてうれしそうに仕事に戻っていった。
「『花蘇芳』っかあ。有名になってきたなぁ。あたしも。さぁ、今日も仕事が入ってるし頑張ろう」
少女の小さな呟きは周りにいる人々には、誰一人も聞こえてはいない。
そう、この彼女こそが人斬り花蘇芳。
そんなことは、誰一人気づかず、
「あいよ、あんたの食いっぷりに白玉もおまけだよ」
そういって、女将さんは机にお皿を置いた。
「わ~い。ありがとぉ。やったあ」
おいしそうに食べる彼女の姿は、誰がどう見てもあどけなさの残るただの少女だった。