第十四話
ヒュウ―――
夏も終わり秋の紅葉に色付き出す壬生寺に一足先に居るのは柚子であった。
しかし、柚子はこれから沖田との戦いというのにどこか浮かない顔だった。
「『ただの人斬り』っか」
小さな小さな声で柚子はつぶやいた。
昨日、吉田に言われた言葉を思い出していたのである。
柚子の心は揺れていた。
「あたしは、何のために人を斬っているんだろう…。仇のため、そう思ってたのに」
確かに、柚子が今まで斬ってきた相手に敵討ち居なかった。
どうして分かるのか。それは、相手に傷が無かったからである。
幼いころ、両親が相手に一矢報いた傷。それが、右手のにある傷である。
柚子が確認するのは、いつも殺した後だった。
「でも、吉田先生の命令どおり動かなきゃまたあたしは一人になる…」
柚子にとって、一人。つまり孤独とは死に値するもの。
幼くして、両親をなくした柚子が吉田に拾われる間経験した孤独。
一人で食べるものもすむところも無い柚子に大人たちは見てみぬふりだった。
(孤独ハイヤダ)
泥水をすすって生きていた柚子を拾った吉田は自分にとって心のよりどころだった。
冷たい人間だが、それでも孤独に浸る柚子を拾って今まで育ててくれている。
吉田の命令は柚子にとって必ずやり遂げなければいけないものだった。
が。
「それでも、関係の無い人間は斬れないよ」
吉田の口調からするにいずれ自分は女子供を殺すことになる。
そう、柚子の直感が告げていた。
今までは、仇の可能性があったから殺していた。
それは、ただの自己満足。人斬りは人斬り。
分かっていたつもりだった。
それでも、自分がただの人きりとは認めたくなかった。
しかし、吉田の命令に背くのもできない。自分の恩が吉田を裏切るのを許せなかった。
「あたしは…。どうしたらいいんだろ」
サァァァ―――
「何か、悩み事ですか?柚子さん」