第九話
「あぁ?いったい何なんだ。突然笑い出しやがって」
土方は、まじめ中をから鬼のような顔をして沖田に問いかけた。が、まったく沖田は気にもせず、
「『男』ですか。ハハハ。土方さんでも読み違えたりするんですね。
花蘇芳さんは女性ですよ、女性」
「はぁ?お、女だと?そんなやつに総司は怪我させられて俺たちも手を焼いてたってのか…」
土方は、血相を変えて、そしてあきれて沖田に聞いた。
だが、沖田はまだ笑いをこらえきれずに、
「ふふふ。そうですよ。柚子さん、日高柚子さんって言うんですって。
自ら名乗ってくれましたよ。
それに、吉田先生がどうのこうのって言ってましたから多分長州に雇われているんでしょう」
その言葉に、さすがの土方も口をぽっかりと開いていた。
「はぁぁぁぁ?そんなことまで言ったのか…。馬鹿なのか?そいつは。
それとも、見つかっても負けねぇっつう自身でもあんのか?」
そういうと、土方はまた、ため息をつき天井に向かって、
「山崎、居るだろう。今の話は聞いていたと思うが花蘇芳、もとい日高柚子について探ってほしい」
すると、天井のほうから、
「承知。ほかにご用件は?」
という声が聞こえてきた。
その声にさすがの沖田も驚いて目をぱちくりさせている。
「うわぁ、よく分かりましたね。土方さん。ぜんぜん気がつきませんでしたよ。
さすがですねぇ。お二人とも」
沖田の関心に見向きもせず土方は続けた。
「そうだな、花蘇芳の花についても調べてくれないか。
どうして花蘇芳の花なのか。すこし気になる」
「承知。それでは、すぐにでも」
そういうと、声の主の気配は遠ざかって行った。
「それにしても、山崎さんが居るのぜんぜん気がつきませんでしたよ」
沖田はまだ、山崎に関心しているようだった。
新撰組でも特に視線をくぐってきた沖田にとって気配に気づかないと言うことは死の危機にもつながる。
「さすがのお前でも気づかなかったか。まぁ、無理はねぇな。あいつもだてに監察をやってねぇってこった」
監察。
簡単に言えば新撰組の情報収集係の様なものだ。
その中でも、山崎烝は土方からの信頼も厚い。
「さぁってと」
そういうと、沖田は腰を上げ土方の部屋から立ち去った。
「おい。総司。無茶すんじゃねぇぞ」
すると、沖田は優しく、はい。といいながら出て行った。