36話 魔人の伝説編 (11)
例に因ってちょっと長いです。
3日目
召喚された被験者達は訓練施設内での行動を制限するタグ・リストバンドが装着されていた。
しかし之郎は先の戦闘でタグを消失したため戦火に投入される際と同じように身体に所謂、バーコードのような紋様を施される。
又、同じように先のミサイルで気絶し回収された之郎と同期の被験者達にも同様の施術が完了させる。
QRコードのような物とバーコードが混ざった独自の魔法陣には位置情報や生体情報から個人等を識別する効果があった。
◆
抜き打ちの形で旧友で有り今は部下でもあるバド・バトラル会いに視察で訪れたカービー・R・エリオット軍事卿と国王は異変に気付きニック・チョッパーの越権行為が露見する事態に遭遇する。
逸脱した命令違反、軍の無断私用に死亡者多数と直ちに王命は発動された。
実験体を停止されるために使用したミサイルに因る死者等々。
地位の剥奪、不名誉除隊処分つまり懲戒免職は拘束した場で降された。
即には降格処分後として暫くしてから懲戒免職、解雇となると訓練施設に輸送中に語られる。
しかしニックは抵抗、国王を守りカービィーは手傷を負いニックの逃走を許してしまう。
ニックはその際に異形の姿に変身、ニック自身が、どうやったのか被験者達と同じネオ計画の|能力(施術)をしている事が発覚する。
「軍人とネオ計画の融合か……………。」
その時、カービィはボソリと残すのだった。
◆
治療室に運ばれた之郎達は、まだ目を覚ましていなかった。
隔離された之郎は異物が身体に刺さったり入った状態で再生と破壊を繰り返したため緊急の切除手術が行われ、その後は何度目かになる改良実験がされていた時だった。
訓練施設が爆発し全体が激しく揺れる。
それは実験室の在る地下にも及んだ。
「あとはコアだけと言う時にッ!!」
監視システムから状況を把握したバド達、研究員は之郎の改造を中断を余儀なくされ中途半端なままに縫合を急ぐ。
この続きを後日にして完全に閉じ終わった瞬間だった。
ニック達が研究室の防護システムを破壊して乗り込んで現れる。
侵入すると同時に射殺される研究員達と、わざと残されるバドだけが生存する。
制圧したニックは眠っている被験者達を運び出すように命令すると生き残っていた研究員達を見つけては射殺しては何かを探す素振りを見せる。
痺れを切らしたのか、ニックは拳銃を向けてバドに近づいてゆく。
少しして交渉決裂だなと怒りを隠さずに告げると発砲音が響き膝を着くバド・バトラルの姿があった。
◆
「残党を刈るぞ!!」
苛付くニックと部下達の去った研究室には生存者は殆ど残って居なかった。
致命傷のバド1人のみに研究員は全滅し被験者達はニックが有能と判断した者以外は眠ったまま取り残されるか、そのまま殺されていた。
這いながら血色の道を作った先に辿り着くと銀色の棚を開け出すと遺体安置所のようなロッカーから棺桶のような物に眠った之郎が居り、横のボタンやレバーをバドが苦しみながら押すと箱の蓋が噴射され之郎が目覚め始める。
「起きたかのぅ。
久し振りじゃな。
直ぐ逝くけどのぅ、ホォホッホホッホ、うぅ………。」
「貴方は………?」
「監視映像で全部見とったぞ」
「……誰なんだ?」
『体が重たい?まるで全身が鉛みたいに………。』
目の前で苦しんでいる人物が誰なのか此処が何処なのかも分からず重い上半身を起こす。
「覚えとらんのか!?」
『覚えてない?
この人を?
………この人は?
っていうか此処は?
僕はあの後、どうなったんだ?』
『まさか全部忘れているとはね。』
『お前は!?』
『そう……これまでの事は嘘でも何でもない。
現実だ……………思い出させてやるよ。』
『何を言って………。
ッあ!?
だっ……がっ!?
あ、あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー………………。
あれは夢じゃなかったんだ。』
『思い出した?
でも楽しかっただろ?
お前が僕が深層心理に記憶の奥底に隠した。
夢だと思っていたのは隠そうとした紛れも無い自分が犯した現実だ。
重いだろ?』
『僕が……?』
「僕が……………?」
今は赤く濡れていないはずの両の掌を見る。
之郎の様子に何も言わなかったバドが血を壁に垂らしながら立ち上がる。
「思い出せ。
あの時、ワシはなんて言った?
お前はなんと思った?」
───あの時、それは之郎が召喚されバド等に改造された初日の事───
之郎は暴走し研究員達を殺した。
大勢の人の命を奪い訳も分からずに殺した。
人殺しを初めて犯した日。
だがバドは殺した事を咎めない。
何故ならバド等も悪事だと分かって之郎等を人体実験していたからだ。
これまでも過去に被験者達の暴走や失敗等で研究員達にも死者は少ない数が出ている。
それを加味しても此処は地球とは倫理観等や生死観も違う異なる世界、バドは殺した殺されたで責めはしない。
今、バドが之郎に問い掛ける。
問い質す、その意味は何とするのか?
「恐怖か?違うだろう。」
恐怖?
そんな生温い物じゃない。
あの時、感じた感情は!!
「激情‥‥‥‥。」
「そうだ、強い憎悪!
怒り、殺意、怨念!!
その想いに身を委ねよ。
理性?そんな物は必要も無いぃ!
かなぐり捨てた先に何を見た!!
何を見たい!!
何を目にして何を手にする!!!」
之郎の心臓が跳ねる。
しかし後方から弱々しくも、それでいて強い感情の乗った声が之郎の鼓膜を揺らす。
「止せっ!!」
それは伊駒 蕾水の声だった。
後ろから蕾水に抱きしめられ之郎の足元から溢れていた魔力が離散する。
振り向けば運ばれた台の上から血を流していた脇腹から垂れた血痕が之郎を目指して残っていた。
玉のような汗を垂らしながら声を張り上げた蕾水は今にも死にそうな程、弱々しく顔が白い。
必死だったのか無我夢中でなのか、改造された彼女の抱擁はとても強く傷を負う見た目とは裏腹に之郎を蛇のように固く抱き締める。
そんな彼女の之郎を思っての行動がロマンチックとは遠く、それでいて自身さえ顧みず強い意思。
心の強さと勇気の、お陰で今、正気に戻れている事実をガッチリと意識している自分に気付き、そんな彼女の存在に安堵していた。
◆
「生きておったのか?」
驚愕するバドは力弱く壁を背に尻もちを着く。
「之郎くん、無事だったか?」
蹌踉めき之郎と、一緒に蕾水はその場に座り込む。
蕾水は、一瞬痛い表情をすると左腹が再生され血を止める。
「伊駒さんッ!!」
「良かった。
あのまま君が飲まれれば2度と戻って来れない気がしてな。」
「僕より伊駒さんが!!」
「大丈夫だ。
心臓からズレていたらしくてな。
少し前から目は覚めていたんだ。熱海で動けなかったんだが君の様子が可怪しくなったからな。
あの時のようになる気がしてな!」
「ふむ。あれは暴走では無いぞ。
寧ろ同調や融合に近く、されど進化………と言っても分からんか。」
「これまでの会話、その口振りからも貴方は私達を改造した張本人だな。」
「そうじゃよ。
お主は……確か…………βタイプを施したのを覚え取るがレベル1未満か………?
まぁこの際だしのぉ、何が知りたい?」
「僕達を元に戻して下さい!
それだけです!!」
「無理だわ〜ぃ。
考えた事もない、それにじゃぞ!
今こうやって、お主らが生きてるのが奇跡に等しい上で生きておるんだ。
仮に元に戻そうとすると、その過程で死ぬぞぃ!」
「「っ!?」」
「高確率でじゃぞ?
死にたくはなかろう?
それに今の、その肉体で何か?
不自由も無かろう?
なかろう。
以前よりも頑丈で強固、パワフルだ。
今更、只の人間に戻って何とする?」
「マッドサイエンティスト………。」
ポロッと付いて出た言葉にバドは青い顔と荒い呼吸からニカッと、一転して鋭い目を輝かせる。
「なんと?
まさにワシのためにあるような相応しい言葉じゃないかぃ?
気分が良い冥土のついでじゃ。
洗いざらい教えてやろう!」
その勢いに着いて行けず唖然とする2人にバドは捲し立てた。
「よいか?
被験者等に出される食事には、お主らの身体能力を抑制する安定剤や魔力増強成分等に依存させる仕掛けがされとった。
この混乱に乗じて逃げるんじゃろし気を付けいよ。
まぁシロー、お主だけは摂取量の規定を超えた投与に人体実験。
濃度や色々試してたし安定剤はそもそも与えとらんかったけどな」
高笑いされて之郎も蕾水の両方が衝撃の事実に笑える訳も無く。
本当にこの世界での人権、人扱いされていない現実に感情が爆発しそうになる。
「あとな、さっきまでの直前な、あの馬鹿に襲撃されるまでにな、お主の全身の骨をだな〜最近別大陸で発見された新素材のネオLチタンってのに変質させたからな!
これがまた凄くてのぉ〜
何が凄いって凄まじく強度と───」
さっきから高揚した様子で楽しそうに話す瀕死の老人の言葉をソレ以上、聞きたくないと許容を超えて之郎は本当に自分が、もう人間では無いと告げられるその言葉の1つ1つに後戻り等出来ないのだと今になって直視されられているようでスッと心に穴が空いた思いだった。
『なら殺すか?
嫌なのか?
ならどうすんだよ────────────────────────ふっ。
僕らしいな!』
◆
見下ろすマッドサイエンティストな老人は今にも死にそうで自分達を人、成らざるモノに変えたはずの巨悪である張本人は小さく見えた。
「ここで貴方を殺しても」
「之郎くん!?」
「分かってます。
僕は貴方を許しません。」
「ほ〜う?なら───」
「だから殺しません。
このまま死にゆく貴方を助けず殺しもせず、何もしません。」
「「なっ?」」
「僕は善人じゃ無いんです。
それにこの手で同じ日本人、地球人を殺しました。
貴方を放置して失血死させます。」
「ほっほっほっ、面白いのう!」
「伊駒さん、失望しましたか?」
「いっいや、この男は私達に否人道的な所業を。
それこそ私達の想像出来ない以上の事をしているんだろう。
正直、君がこれ以上、手を染めて欲しくないと必要に無いに越した事はないと思ってはいる。
………だが良いのか?」
「えっ?」
「私達、私や君を変えたのは彼なんだぞ?
君は……………。」
『………君は優し過ぎる。
己の所業に堪えられるのか?』
「そうじゃぞ?
このワシじゃぞ?
ワシを殺さんと、もし生き延びでもしたらこの研究をするぞい!
確実に殺しでもすれば引き継ぐ者が現れるとしてもじゃ!
何年・何百年後と先延ばしに出来るんだぞ!」
自分を殺せと瀕死の人物に要求されるとは来る所まで来たなと自分の人生に笑いそうになる。
そうかと、このマッドサイエンティストを殺したとしても何年後かに同じように、この研究が再開されるかも知れないのかと之郎達を召喚した、この国という物に考えが至らなかった自分に苛立ちを覚える。
この国を睨むように空を見上げようとして天上に視線が、ぶつかる。
そんな、ちょっとした事に苦笑いながら之郎はクチを開いた。
「そうだと思います。
それでも……少しの間は僕は、これ以上の犠牲者を出したくない。」
「君はそういう奴なんだな。
本当に……………。」
「はい、すみません。」
「な、何故、何故じゃ!?
殺せッ殺せーーーーーーーワシを!!」
「【肥巨-腕化-】っ!!」
「っ!?
右腕だけを魔人化じゃっと!!」
素足でタイルを歩きバドに近づくとバドの横を掠めるように手の甲で払い除ける。
台や実験器具らを壊すと次々に机や棚と段々に有るテレビのような物等も破壊してゆく。
「生きましょう」
「あっあぁ。」
「すみません、貴方を殺せません。
やっぱり………………野垂れ死んで下さい。
これが僕の出来る復讐です。」
「そうか!
これがワシに、ワシの最期か!?
ハッハッハハハハヒッヒヒヒーー!
気張れよ……………。」
ひとしきり笑ったバドは階段を登り誰も居なくなった廃墟然とした研究室で限界を当に超えていた体にムチを打つのを止めて力無く背を預けていた壁に頬をスッと落とし枕に聞こえてくる階段を上がる之郎達の足音を子守唄に眠るように息絶えた。




