34話 魔人の伝説編 (9)
ちょっと長いです。
青田之郎。
彼の身体は、これまでの研究の粋が詰め込まれた究極体の成功例だと言えた。
単に血液や魔力、マナメタルに適応しただけでは無い。
それだけでは説明出来ない奇跡が多々起こり之郎は実験を生き残り完成体と成った言える。
そんな之郎の体は異常を正常を是として生存していた。
増殖した細胞は即座に傷を再生し、その傷から細胞は学習し進化する。
神経はそのままに常に生成と分解が体内で起こり免疫力や魔物由来の遺伝子が之郎を生かそうと弱点を克服させてゆく。
◆
あの日の之郎とリョウスケ達の戦闘で之郎の腕等の体細胞は幾度と無く弾け飛び再生をしたが、その肉片はサンプルとして兵士が回収、そして戦闘時の映像はデータとしてリアルタイムでもバト・バトラル達、研究員が観察していた。
そして之郎が倒れた際は勿論の事、毎夜にも異常がないかの確認や治療や再施術や移植や改造などが行われていた。
そんな彼の監視を任されているニック・チョッパーが之郎への接触を最低限に抑えてスタンドプレーな行動をしていると部下や自身の部下からもバトラルは報告を受けるも笑っていない眼球で口角を上げると、その報告データをゴミ箱に捨てると明かりを消して出ていった。
◆
之郎は勿論、他の者達へのイジメも無くなり数日。
之郎はやはりハーレルの演説後から以前にも増して遠巻きにされ戦闘訓練は1人になっていた。
そのため休みがちになっていたが時折、蕾水が相手をするも之郎は遠慮し表立っては彼女に迷惑になると言うも逆に之郎が蕾水に嗜めらる場面さえ見られるようになる。
そんな何とも言えない、しかし血腥いというような出来事も起きない平和な日々が続いていた。
昼食を食べるために自室に戻り、之郎はウィリアムへの部屋に向かうとしていた時。
曲がり角の先から兵士達の話し声がして立ち止まる。
彼等の会話の内容で息を殺すと聞き耳を立てるのだった。
「それにしても余程の事でも無いとこんな高給にはなりませんよね?」
「なんだお前、新人か?
何ヶ月だ?」
「はい。まぁ、1ヶ月程度ですけど。」
「そうか、なら知らないのも頷けるか………教えてやる。
ここにいる奴らは見た目こそ俺らと同じだが中身はバケモンだよ。」
「化け物………ですか?」
「おう、内緒にしろよ。
なんでも、もう何年も別の世界の人間を実験に大昔の古代の……いや初代つったかな?
まぁ古い勇者の血やら、一部にはエルフやら何やらの魔力だか心臓だって話しも有るんだがを人体実験で不死の軍団を作ろうとしてんだとよ」
「そっ、それって本当なんですか!?」
「知るかよ、でも噂だがな。
俺ぁホントだって言ってた先輩が次の日には死んでたからな。
大っぴらに吹聴すんなよ。
お前もそうは成り無くないだろ?」
盗み聞きはそこで止めて立ち去る。
定かでは無い情報源では有るが之郎は思考がグチャ混ぜになる。
初代なのか古代なのか知らない始めて聞いた単語の羅列には勇者の血やエルフ等の或いは両方の魔力を投与という事だった。
その怪しげな言葉達が頭の中で動き回って之郎は自室で気持ち悪くなり感情とが逆流したように吐いてしまっていた。
そこに足音が近づいてくる。
掛けられた声に振り向く、心配するでも無く呆れと確かな見下しの目線を見せる人物に之郎は、よ〜く見覚えがあった。
目覚めた初日のあの日、之郎を蹴り落とした男。
訓練ではボコボコに殴られ笑いながら拳銃で撃たれた。
それさえ異常な再生能力で治癒してしまう。
その男は部下にニック教官と呼ばれ、この施設の実質的なトップらしく大体の事は許されていた。
「ハーレルの流した噂でどうなったかと見に来てみれば。
やはり軟弱だな。
使いもんにも成らん!」
そう言い捨てると蹴ってドカドカと去ってゆく。
結局この日、之郎はウィリアムの部屋に行く事は出来ずじまいに終わる。
あの日から少しして、之郎の頭の中の角にあった1つの小さな違和感・異変が解消される。
それは鷲尾リョウスケ達の存在だった。
あの出来事から鷲尾達の姿が無い事にあった。
蕾や之郎の隠れた支持者達が集めた情報では、あの日以降サム・リョウスケ・ハオが行方を晦まし治療室運びと成った中からも数人が消え、それから数日してジョン・ブラウンも消えた言うのだ。
噂では、この訓練施設から逃げだしたらしいと聞き之郎は彼等が逃げ出すとは思えず何か異体の知れない何かを感じて行動を開始を早めようと動き出した。
噂騒動は日に日に噂に噂を呼ぶも、ある日パタッと聞かなくなる。
その調査に向かっていた蕾達が之郎の部屋に帰って来る。
そこには知らない人物等が混じっていた。
「どうもシロー君!
僕は君たちの1期前に召喚されたアードだ。
宜しく!
一様は先輩ってことになるけど僕らは君のファンでもあるからね!
気軽にアードと呼んでくれると嬉しいよ!」
三十代・男性・キラキラ陽キャ・イケメンに純粋な気持ちを向けられて更に握手を求められて灰になりそうにだったがワンアクション遅れるも手を出し、一息するも後にも控えているのが見えて之郎は石になるのだった。
◆
「私はコゼット、でも父が日本人だったの。
だから月城キョーコって名前もあるのよ!
まぁ、みんなはコゼットって呼ぶんだけだね!」
「俺はベンだ。
君が俺たちの希望だと思ってる!」
それから何人かと自己紹介をして彼等のリーダーなのかアードが状況等を全員に話す流れになる。
今、之郎の部屋には之郎派と呼ばれる者達が集まっていた。
之郎と同期からはそれこそ少なかったが1つ上、之郎達より先に召喚された中から彼を支持する者達が多くアードの呼びかけで集められていた。
理路整然とした人とは、こんな人なんだろうな〜とひっそりと思うのだった。
「まず行方不明者についてだが、どうやらこの訓練所では長年少なくない数が消えている。
それも2度と戻ってくる事は無いらしい。
僕も先輩から聞いた話しなんだが、どうやら研究員達とは別の何からしい。」
「それは王国って事ですか?」
何度か見たことのある顔の人物が質問をする。
どうやら之郎の同期の青年のようだ。
「それが最も多い意見だと思う。
でも僕は違うと思うんだ。」
アードの回答に、一同がザワつく
アードは続けて自分の考えを発する。
その自信溢れる立ち姿に之郎は尊敬の念を僅かにだが覚えようとしていた。
「ハーラルだ!!
ハーラルは何度も戦場を生き抜き、戦果も上げている。
国の信用を勝ち持っている。
僕らをを誘拐拉致して此処とは異なる実験をしていても不思議じゃないさ!」
アードの言葉に彼の連れ以外、初めて今日会った者達は賛成の声や納得するように拍手等を送る。
そこで之郎は以前から気になっていた事を問うてみた。
「ここはいつから在るんですか?」
「分からない。
少なくとも10年以上、20年位と僕らは予想してる。」
「そんなにですか!?」
「あぁ、僕も先輩から意思を継いだ身だ。
その先輩は僕らより1つ前に召喚されてた。
1年前位だ。戦場で死んだと聞かされましたよ。
生きてきたのはハーラルだけ。
ハーラル達は僕達以上の情報を持ち。
優遇され暗躍しているよ。
じゃなきゃ何度もこんな地獄に戻ってこない。」
その後は、それぞれがアード達の知っている情報の擦り合わせの等のあと最後にと付け加えてコゼットが今回の噂話について説明を始める。
「国とつながっているハーラルが噂を鎮火したと睨んでいるわ。
今回行方不明者が数人、確認出来ていない人もいるかも知れない。
この騒動が起きたら次は早くて1年。
犯人が個人だとしても国だとしても今までの統計的に犯人は慎重みたいだから!
それでも用心に越した事は無いから今後は出来るだけ1人に成らないように。
私達はシロー派閥よ!」
「「「おう!!」」」
いつの間にか派閥の旗にされていて恥ずかしくなり各々で行動を開始して出ていく者や残っている彼等を見ていると蕾水が之郎に肘でタンタンっとすると小声で話し出す。
「遅れてすまなかった。」
「えっ?」
「アード達の事だ。
前々から君に会いたいと連絡を受けていてな。
今回の事で私達は情報戦で負けていた。
良い機会だからと招いてしまったんだ。
勝ってなような形になってすまない。」
「勝ってだなんて……謝らないで下さい。
多少はビックリして、ビックリする事の連続ですけど伊駒さんが悪い訳じゃないんですから!」
「そうか?
彼等は私達の……君の支援者になりたいらしい。」
「言い直さなくても僕は伊駒さんも、なか‥‥‥‥仲間だと思ってますよ!」
「そっそうか。
こっほん。でだ!
彼等を完全に信用してはいけないぞ」
「分かってますよ。
僕は自分も信用出来てないですから」
「なんだそれは」
「すみません。
でも確かに情報だけが全てじゃ無いですよね」
「ん?何のことだ?」
「いえ、なんでも」
そこにアード達がやってくる。
笑顔で握手を求め、それに応じると満足そうにしている。
「シローくん!
今日はそろそろ、お暇するよ。
とても楽しい時間になった。ありがとう!」
「いえ、こちらこそ情報提供感謝します。
今後とも宜しくお願いします。」
「そんな他人行儀な!
僕達は謂わば同志だ、仲良くしようよ。
って今日で直ぐは無理か!
親好はゆっくりのが良いよね!
じゃ、もういくよ。」
アードの後ろからコゼット達に時間を教えられたようで手を振って部屋から出てゆくのを見届けると隣で、一緒に見送っていた彼女が仕事モードの表情にして唇を振動させる。
「皆を誘導しているようにも感じた。
そして君からの信用を得ようとしているように見えた。
それこそ露骨な程にな。」
「同年代で某有名大学出の上司に呼ばれた時と同じ気持ちになりました。
思想競争には関わりたくなんですけどね。」
「ふっ君らしいな。
アード、している事はハーラルと変わらんな。
逃走作戦の事はまだ、言わない方向で進めようか」
「もっと早く伊駒さんに会えてたら僕は違ったのかも知れませんね」
「なんだいきなり?
だが、そうだな。私もあっちの世界で青田君に会ったいたら‥‥‥‥どうだろうな。
言っても仕方がない気もするが………多分、いや止めておこう。
女が何もかも喋り過ぎても何だしな。
秘密にしておこかな」
「そんな急に女の子になられましても。
シーじゃないですよシーって!」
「いいじゃないか!
ミステリアスだろ、こういうのやってみたかったんだ!!
でも君の事が気にはなるんじゃないか?
内緒だけどな!」
『ほぼ答え言ってんじゃないすか』
照れくさいような気まずいような甘酸っぱい初恋のような儚く散りそうな感情に之郎は息を吸って上を見上げる。
見てるのは石色の天井だった。
◆
◆
◆
サム・マルティンが殺害された直後の事。
「サムの野郎、威張っていた割に能力は単純なのか。
使えんな。
しかしB細胞には変わりないか。」
血濡れの腕を噛み貪っている軍服の男に震えた声が掛けられる。
鷲尾リョウスケは、その現場にいた。
「あんた何やってんだニック教官!?」
「ん?
俺としたことが目撃者を作るとはな。
食事に集中しすぎたか」
「はぁ何言って!?
おい、アンタまさかサムさんを食ってんのか!?
何してんだよ、アンタは俺達の味方じゃ無かったのか!?」
「はぁ?
口の聞き方がなってねぇ〜な、おい!
にしてもハッ!
俺は誰の味方でもねぇ。
違うな……俺は俺の味方だな!
1日に行方不明が2人は目立つんだよな。
しょ〜がねぇか!」
「アンタ、イカれてん───」
その日、怪獣のような咆哮が夜の空に響き多くの者が聞いたと言う。
魔人編、終了まで毎日更新続きます。




