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33話 魔人の伝説編 (8)

 之郎の宛行あてがわれている部屋にハーレル・ハートが現れるとウィリアムも去ってしまった。

それから之郎は蕾水と気まずい空気の中、他愛ない話が2人の間でチラホラと続いていた。


「OLだったんですか?

って古い言い方ですね。

キャリアウーマンとかですかね。」


「どうかな普通に女性社員で良いんではないかな?」


「そうですね、でもそんな役職だったとは……。

僕もサラリ………男性社員なん、……でした。」


「あぁ知っているよ。

始めて君を見た時、君は土埃まみれのスーツ姿だったからね。」


「見てたんですか!?」


「っ!?

ほ、…………偶々、偶々だよ!

じゃあ、もう帰るかな?

安静にしてるんだよ青田君!」


 早足に帰ろうとする蕾水に之郎はポカーンとするしか無かった。



 それから数日後。

之郎達の居る訓練施設の状況は、一変していた。

あの日、之郎の部屋に入ってきたハーレル・ハートはウィリアムとの間に禍根を見せたが、その理由の、一端を之郎は直ぐに知る事になる。


 ハーレルは之郎と同時期に召喚された者達に之郎が能力を暴走させ1人の女性リンダ・ネルソンを殺害した事。

そして彼を虐めていた鷲尾達も半殺しにしたと流布、演説をしたからだった。

一部の事実を混ぜた嘘は瞬くに広まってゆく。

この事に1番憤慨を覚えたのは之郎では無く蕾水だった。

親友の死の真相を曲げられ、その名誉を、遺体からだを守ってくれた恩人に冤罪を掛けたハーレルの許されざる行為に嫌悪感を隠せなかったからだ。

抗議に行った先で蕾水と之郎を迎えた視線は酷い物だった。

その人垣を分けて現れたハーレルは2人だけにしか聞こえない声で口を開いた。


「真実はどうでもいいんだ。

大事なのは1を犠牲にしてでも10を守るという意思の強さだよ。

僕は君と言う1を生贄に彼等(10)を救う。

これが僕の使命だ。

(10)を味方にぼくは正義を成してきた。

悪いね、必要悪は必要だからさ!」


 之郎は孤立する事になる。

だがそれは何ら問題では無い。

何故なら以前とあまり変わらないからだ。

違うのは遠目からの視線の毛色が関わらないに越したことな無いから人殺し・軽蔑等の犯罪者に向ける類の物になった位の事だ。

之郎は落ち込みはした者の身近に自身より自分の事のように怒りを見せる蕾水が居た事で地球の頃のようにはならなかった。

なんならこの異世界に来てから感情的な起伏に違和感を抱いている位だった。


 しかし大勢が之郎を無視する中でホンの少数では有るが彼を英雄視する者達が居た。

それは之郎同様にサムの派閥の者や鷲尾達に嫌がらせやイジメを受けていた者達だった。

彼等彼女らは恐る恐る、蕾水とコンタクトを取る事で件の事実を知る事で之郎達に協力する事を約束すると言ってくれた。


「あのナルシストめ!

自分の仲間も数人、ここに連れてきているぞ!

何期上だと思っているんだっ!

戦争帰りなのだから奴らこそ真の人殺しではないか!

之郎は1人として殺していないと言うのに!」


「暴力を振るったのは本当ですからね」


「なにをヌルい事を言っているんだ、これでは奴らにされるがままだぞ!」


 ぷりぷりと地団駄を踏みそうにしていた蕾水が急に静かになる。

すると之郎から数歩、距離を取ってから机にスルーと指を滑らせたり忙しなく謎の行動を取り出す。

それを不思議そうに見ていた之郎だが、ふと思う。


『あれ?そういえば呼び捨てにされたような?』


 そう過ると蕾水の顔が赤い気がしたが、よく見えないので気の所為かな〜とも考えていた。

そこに何かに耐えかねた蕾水が大声で切り出す。


「それにしても奴は間違ってばかりだなッ!!!」


「はい?」


「分からないのかい?

青田君!

奴、ハーレルは10を守るために1を捨てると言った。

だが、君は1を守り10を倒した男だぞ!

それに1人で立ち向かう事が出来る強さを持つ君だぞ!

必要悪?笑わせるな!

正義だと嘯き正当性等と言う大勢を味方にしている奴に必要正義こそいらないと唾を吐きかけてやれ!」


「伊駒さん…………品がなさすぎます。」


「‥‥‥‥君は私のお母さんか!!」


「でもそうですね。

奴を、その他大勢を気にしても仕方ないですしね。」


「そうだろう?

見返してやろうじゃないか!」


 その蕾水の言葉に之郎は、一瞬だけ雷に撃たれたような顔をする。


『リンダさんを助けられなかった。

間に合わなかった僕にはそんな権利はないのにな。

でも…………夢物語みたいに僕達の心を……。

希望のように保っていさせてくれたこの計画を彼女に告げる事で。

それを成功させる事を贖罪としよう。』


「ん?

どうした?」


「いえ、そうですね。

それで、ですね。

実は僕とウィルで建てていた作戦を話すのを忘れていたと思いまして……………。」


「ほう。

何か男子同士で何か秘密の話をしていたようだが、遂に打ち明けてくれるか!」


「そんな大層な物じゃないですけど、はい………打ち明けます。

僕とウィル、ウィリアムは脱出を模索してました。」


「そうか脱走計画か!

良かった。」


「良かった?」


「いや何!

えっちな、、破廉恥な覗き的な何かだと思っていてな!

………すまない。

うん、脱出脱走作戦計画ね、面白いな!」


「……………、ここにきて伊駒さんの化けの皮が剥がれてきてますよね。」


「ば、化けの!?

化けの皮!!

なんて失礼なんだ青田君は!!

こんな美人を捕まえて化けの皮だなんて!」


「その言動こそが、まさになんですけど。

と言うか美人だからって。

自分で自分の事、美人って!」


「あーーーーもう、うるさいうるさい!」

それで計画のあらまし、いや、これまでの計画を教えてくれないか」



「ふむふむ。

成程な……………それなりに考えてはいるようだが、その際の調べが浅いな。」


 蕾水の顔が、さっきまでのモノから仕事モードに切り替わり上司然としているなと感心している之郎を他所に蕾水は正確に指摘してゆく。


「そもそも、この国の目的・そこから来る何故私たちがこんな非人道的な実験のモルモットにされているかの行動から予測も立てておいて損はない。

兵士達は私達の人権を無視した、と言うよりは人として見ていないだろう。

実験のマウスや家畜として扱っている節がある。

………因って企画としては没だな。

しかし内容を精査、改良して再提出してくれたら私もこの話に乗ろう、と言うよりその積りで話してくれたのだろう?」


 どうやら彼女の御眼鏡に適ったようだ。

呆気に取られそうになり慌てて疑問をクチにする。


「どうしてこんなにしてくれるんですか?」


「なに、元から青田之郎くん。

君に興味が有ったんだよ………それだけさ!

勘違いしないでくれたまえよっ!!

………コホン!

それと秘密は多いとバレる可能性が高くなる。

逃げる以上、他の者は助けられない。

少ない方が捕まる可能性が低くなるからだ。

逃げるのに多いと見つかる可能性は高くなるが、その分、犠牲を払えば助かるのは自分だ、草食動物はそうして数を増やしているからね。

之郎くん、君はどうする?」


 その問いに之郎は何と答えたらいいかが分からなかった。

又、あの日以降、ウィリアムは自分の部屋から出てこなくなり之郎達とも会っていない………………。


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