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32話 魔人の伝説編 (7)

 この世界では魔法を行使しようとすると必ず魔法陣が出現する。

しかし之郎達、人体実験の適応者は体内にマナメタルを有しているため魔法陣発動は見られない。


 人体変化は勿論、疑似的な魔法行使をしても体内のマナメタルを介して魔法発動を行っているので魔法陣は現れない。

それはまるで変化する彼等の姿の一部と同じように魔物の魔法行使プロセスと似ていた。




「あの日本人、許さねぇ!

絶対にぶっ殺してやる!!」


 壁に血の手形や肩を引き摺りながらサム・マルティンは怨嗟を吐きながら倉庫から遠くへ遠くへと歩みを進める。

そこに影が差す。

サムは訝しみながら振り向く。


きょうか────」


 最後まで言い終わる前に白い壁にサムは染みを増やすのだった。


 

 リンダ・ネルソンの遺体は無事に回収された。

之郎が守るように前に立ち倉庫を持ち上げ、倒れた際にも彼が前に倒れたため彼女に被せた上着に塵や破片が軽く当たった位の軽い被害しか無かったからだ。


 そして怪我を負った者こそいまが死傷者は奇跡的に……………実験適応者ゆえに必然的にゼロだった。

そして翌日の昼頃。


毎回いつもの天井を視界に目を覚ます。

ベッドの左右には伊駒 蕾水とウィリアム・ローガンスの2人の姿があった。


「伊駒さん……ッ!?」


 そう声を出して声が枯れたように出る。


「ガラガラじゃないか。

ほら。」


 差し出された水を飲み干し、ハッと息を吐く。

そして先程言おうとした言葉を蕾水の目を見ながら告げる。


「伊駒さん!

申し訳有りません!!!」


「どうしたんだよシロー!」


「ウィル、僕は…………。」


「リンダの事か?」


 切り出したのは蕾水からだった。

その顔は之郎の事を怒ってもいなければ恨んでいない。

ただただ、心配する1人の少女の表情だ。


「僕はリンダさんを助けられなかった。」


「君は、………君は助けに行ったじゃないか。

それだけで偉いし凄いと思うけどな。」


「それでも!?」


「うん、確かに死んで…………。

亡くなってしまった、でもそれは君のせいじゃない。

悪いのは殺した奴らだ。

違うかい?」


「そうそう!

僕らもシローも完全無欠のスーパーマンヒーローじゃないんだからね!」


「不謹慎だよウィル…………。」


「元気付けようと思ったんだけど、僕が悪かったよ。

伊駒、シロー!

でもシローが最後まで守るように立ち回ってたいたのを僕も伊駒も知ってるだぜ」



「それよりも君だ、青田君!

すまなかった!」


「いっいえ、謝らないで下さい!!

僕も謝らないといけないんですから。」


「日本人は謝ってばかりだな〜」


「そんな事、あるかな……うぅ!?」


 自然な仕草の1つとして之郎は頭を掻こうとして腕に激痛を感じる


「大丈夫か!?」

 

 焦ったような蕾水に之郎は腕を見て驚愕する。

何故なら両腕は包帯をグルグルに巻かれていたからだ。

よく見ればベッドの横のテーブルには交換した後の血だらけの包帯や新しい包帯が置かれている。


「すみません、迷惑掛けたみたいで」


 ウィリアムがまた謝って〜と顔をする。

之郎は恥ずかしくなってペコリとして布団に横になる。


「シロー、君は重症だったんだよ。

腕は消失していて生えてきた手は血塗れ、今動いているのが奇跡だよ。」


 ウィリアムの言葉にバッと布団から出て両手を確かめる。

手の裏表を見たり握ったりと動作を確認する。

言われた後だと、軽い痛みだけなのが不思議な位だ。

そこにコツコツと歩く音がして男性が入って来ると咳払いを1つする。


「もういいかな?」


「ハーレル!?

帰ってきてたのか?」


 ウィリアムは驚くが之郎も蕾水も知らない人物だった。

ハーレル・ハートはウィリアムと同期であり召喚された彼等のリーダー的存在である。

ハーレルは、その能力を見込まれ国の推進する、この計画さくせんの実践に投入され生還を果たしている数少ない適合者達の希望と言ってよかった。


「そうだね、今回は随分と長かった。」


「えっと、その…………。」


「怖がらなくていい。

君の事は聞いている。

あの不成者ならずもの達を懲らしめたんだって!

素晴らしいよ!」


「いきなり入ってきて何なんだ!?」


 ウィリアムが怒鳴り上げた。

普段の温厚な彼からは想像出来ない態度だった。

そんなウィリアムの様子に之郎はハーレルに警戒する。


「どうしたんだい?

どうやらフラストレーションが貯まっているようだ〜」


「なんの用だと聞いているんだ!!」


「悪い悪い、君相手だと喋り過ぎてしまうようだ。」


 爽やかに笑うとハーレルは之郎を見つめながら次の口を開いた。


「でもそのフラストレーション、それが問題だろう、シロー君?」


「えっ?」


「昨夜、モンスターの叫び声が轟いたそうじゃないか………………うーん、その様子だと記憶に無いのか。

それとも錯乱していたのか。

まぁどちらにしろ、関係ないね。

うん分かった。

大人しく去るとしよう。」


 ハーレルは笑顔のまま本当に部屋を出て行った。


「ウィリアムさん彼は誰なんですか?

貴方とは、どんな関係なんですか?」


「伊駒さん、シロー。

ハーレル、彼は良い奴だよ。

大勢の人の………正義の味方だ。

多数を助ける、本当にね。

だから……少数、小を切り捨てる……いや悪い僕も行くよ。

部屋に戻ってる、ごめんね」


 ウィリアムは暗い顔で直ぐに退室した。

その顔に之郎は僕達みたいに謝ってと言おうとして呑み込んだ。

重たく静寂が室内を支配した。


 之郎はウィリアムの様子に思う事が有っても、それを本人に聞く事が出来なかった。


「多分、ウィルの恋人が死んだ事と関係あると思います。」


「そうなのか!?

だから……か。」


「詳しくは知らないんですけどね……………。」


 下向いた之郎は腕が痒くて痒くて堪らなかった。

ピンク色に血色の成っている包帯をパリパリと捲ると肌に包帯は張り付き肌も赤くピンク色をしていて、うっ血したような肌色をしていた。


「なにをしているだ!?

生えてきたばかりなんだぞ?

…………分かっているのか?

本当なら君は2度と両腕が無かったんだぞ。

だが私達は死にさえしなければ、このおぞましい実験ちからのお陰かファンタジー染みた再生力を身に付けてしまって持っているんだ。

だが無茶をしていい訳ではない。

それに何時、不具合を起こしても可怪しくないんだぞ?

………分かっているのか?」


「すみません………そんな事、考えた事なかったです。

ハハハっ、バカですね僕。」


 蕾水を見れず下を向いたままの之郎は空笑いが素直にクチから出ていた。


「笑っている場合か君は………。」


 呆れのように出た蕾水の言葉の裏には憂いを帯びた涙が落ちていた。


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