30話 魔人の伝説編 (5)
青田之郎は憧れの伊駒 蕾水から彼女のルームメイトであるリンダ・ネルソンが鷲尾リョウスケたちに人質に脅迫されている事を知らされる。
「青田君、きみが吹き飛ばしたジョン・ブラウンは死んでいない。
実験で手に入れた異常な再生力で君、程とはいかないが回復に向かっているよ。」
その言葉に之郎はホッとしていた。
殴った事は思い出していたからだ。
抱えていた枕を握っていた右手に力が入る。
そして強烈な激痛に気を失ったのも何となく分かっていた。
そして、その腕の感触も………。
「腹部に拳の痕が出来、意識を失っていた。
誰もが死んだと思った、だが兵士達は冷静に運び出していたし後に適応者の能力なのか驚異的な速さで瀕死を免れたと聞かされた。
それは君もだ。
ジョン・ブラウンを殴った後、気絶した君の………右腕は……………爆発したように無くなっていたんだ。」
言われて之郎はさっきまで気にも止めていなかった。
その右腕を見やる。
何も変わらず右腕は有り、以前と変わらず使えている事に少しの恐怖を覚えてしまう。
ついさっきまでジョンを殴り飛ばしたと聞かされスカッとしてしまった自分を恥じる感情とが込み上げてきて混ざり之郎は吐いていた。
◆
蕾水に背を摩られて介抱されてしまったと之郎は激しく羞恥心や自分への嫌悪を深める。
「中断されて自室に戻された私達に鷲尾リョウスケ、ハオ・ガオチェンがやってきてね。
2対1では負けてしまったんだ。」
「だっ、大丈夫だったんですか!?」
よく見れば回復魔法或いは再生能力、その両方で傷を治した跡を見つけて之郎を感情にドス黒くモノを感じた。
「あ、ああ、だがリンダを人質に君を………。」
「‥‥‥‥続けて下さい。」
「君を傷つけてしまう…ん…だぞ」
「いいえ、大丈夫です。」
「そうか………分かった。
誘惑なり何なりして君を青田之郎を自分達の所に連れて来いと言われた。
何も知らせずにだ。
奴らは下に見ていた、玩具だと思っていた君に歯向かわれて大勢の前で恥を掻いた。
他の皆は君のような仕打ちこそ受けていなかったが逆らえないでいたから……な。
本当にすまない。」
「いえ。
分かりました。
伊駒さん、彼等の部屋を教えて下さい。」
そこにはもう先程迄、流れていた温かい空気は流れてはいない。
重く冷たい空気は之郎だけでなく蕾水さえも暗く深くへとネガティブにさせていく。
「何っ!?
分かっているのか?
笑われた事の腹いせに!
仲間の仕返しに君を殺すかも知れないんだぞ?」
「こんな時間無いんじゃないですか?
友人が、リンダさんが危ないかも知れないですよ!!」
「っ!
わか、分かっている。
それでも、それでも君が危ない目に合うと分かっていて…………行かせる訳にはいかないだろう?」
徐々に弱くなる言葉と泣きそうになる蕾水は自覚していく。
その気持ちを、そっと開けようとして目の前にいる之郎の言葉で閉ざされてしまう。
「僕のせいでリンダさんや今も伊駒さんに迷惑を掛けています。
リンダさんという人とは会った事は有りません。
それでも僕が行って助かるなら原因の僕が死ぬくらい問題ありません。
行かせて下さい、だから教えてくれませんか。」
「そうか。
そうだな………分かった。
教えよう。」
「はい、ありがとうございます。
念の為、ここで待っていて下さい。」
「あぁ分かった。」
『所詮は初対面だ。
一緒に行かせてと、君がどうしようも無く、何故か心配なんだと伝えられる関係性では無いからな。
青田君、青田之郎くん、君はこれまでどれだけ自分1人で問題を解決してきたんだい?
そうクチに出せて聞けたらな……………。』
◆
メガネを置き、右腕の部分が裂けて血の付いた服を着替えて之郎は鷲尾達が待っていると言う訓練施設の1つである倉庫にやってくる。
周りは既に夕方となっていた。
召喚される以前の之郎では両手で更に体重を乗せなければ開けられなかったであろう扉を片手で開く。
そこで之郎を待ち構えていたのは鷲尾リョウスケとハオ・ガオチェンの2人だけでは分かった。
倉庫内の道具等は彼等のアジトにされて久しいのか私物に変わり30人程が之郎を見てニヤニヤとしている。
「よぉ!
遅かったじゃないか。
待ちくたびれたぜぇ〜」
ハオとリョウスケは前に陣取りハオが、一歩前に出ながら大声でバカにしたようにクチにしながら之郎に近づく。
「僕は君たちに何かしたかな?
これでも怒っているんだ。」
「はぁ?
オワコンのオッサンが運良く勝てたからって調子乗ってんじゃね〜ぞコラ!」
「オワコンなんて言葉自体が終わってい、いやオワコンなのは君達だろう?」
「言ってくれんじゃね〜か。」
人垣の奥、設備か何かに腰を落としていたのか、その声の人物が立ち上がって出てくる。
その手には傷だらけに裸の女性が掴まれていた。
そのスキンヘッドの男が何をしたかを、一目で怒りに走っていた。
「おいおい感情的になるとは甘ちゃんだな。
習わなかったのか戦士に必要なのは常に状況を見る冷静さだってな!
おっと、まだ此処に来て1年も経ってねぇ〜んだ。
何も知らない赤ちゃんだったのを忘れてたぜ!」
取り巻きなのか、このボスらしき男の言葉に笑いが起こる。
しかしリンダ・ネルソンが床に落ちる。
その理由は腹を貫かれ穴が空き膝を付き茫然とする体格と態度の大きかったはずの男が次の瞬間には頭を蹴られて床を破壊しながら滑っていたからだった。




