29話 魔人の伝説編 (4)
神隠しの如く召喚された之郎達は直後に施術が開始されるようになっている。
まず血液交換が行われる。
この時に拒絶反応、細胞壊死反応が起きれば被験者は死亡してしまう。
その意味は、この世界の魔力を有する血液を取り込ませる事にあった。
だが拒絶反応を起こす確率は長年の研究成果の、お陰か低くなりつつあった。
次に胸部などに魔力器官となるマナメタルを取り付けられる。
これが成功して初めて魔力と馴染み魔法を行使出来るようになる。
この時の拒絶反応が、もっとも多く成功者はそれだけで、この実験は当初は完了していた。
しかしこの実験の成功にバト・バトラルは自身のこれまでの研究を統合しようと考えた。
それは被験者と別の遺伝子細胞構造の融合である。
この立案は鶴の一声で即座に許可され人体実験は遺伝子改造・細胞操作へと変わる。
異世界からの大量生産、且つ使い捨ての死兵〈他世界魔法兵士計画〉は研究が実験が成功していく、その都度変更されてゆき最終的では〈不死の軍団〉と改められていた。
その施術に耐えられるように体は弄られ細胞壊死反応で多くの失敗が続いた。
成功しても数日後に死亡等も起こった。
数度の成功と失敗の繰り返しは科学者達を長考させた。
遺伝子・細胞の組み換えは異世界人への負荷が激しく細胞壊死反応を起こしてしまう。
しかし先に此方をしようにも先の血液やマナメタル施術を行わなければそもそもの意味が無い。
どちらにしろ拒絶反応の問題が付いて周る。
万策尽いたと思われたその時、バト・バトラルは、この計画の発案者にしてバトラルに実験責任者を任さてくれた盟友にして資金先でもある彼の言葉を思い出す。
「この国を豊かにするには自国の兵を使い潰すのは勿体ないのだ。
死兵にしても構わない、しかし雑兵では無い最強の死兵が必要だ。
違うかバトラルよ!」
この言葉はバトラルと彼がこの計画へと乗り出した切っ掛けにして大事な言葉だった。
この言葉にヒントを得たバトラルは動き出した。
そして辿り着いた答えは死体だった。
だが実験体を殺すのでは無く、仮死状態にし尚且つ、血液交換・マナメタル・遺伝子操作等の工程・改造を同時に行うという異例のモノとなった。
改造手術は昇華され死体から不死へと到るまでに冠されるように工程は増えてゆき、完成形を夢見るも失敗続きの中、青田之郎がバトラルの前にと運ばれてくる事になるのだった。
◆
あれから1ヶ月が過ぎた。
そして変異は突然起こる。
馴染んだといった方が正解で正確かも知れない。
だが当事者達に取ってはそれは突然だ。
格闘訓練の最中、何時ものように傷めつけられていた之郎は、 “やり返してみろ” の何時もの言葉に囁かな抵抗をしただけのはずだった。
之郎のそれは弱く遅い子供のようなパンツだった。
しかし腕は血管が表面に浮き出て赤く染まり拳は加速する。
右手の前腕部のみが巨大化しジョンの体へと添えるように打つかる。
誰かを殴った事も無かった之郎の突き出し握った拳は親指が上方向で腰も入っていなかった。
それでもジョンは数メートル先にある訓練場の塀まで吹き飛んでいく。
その直後、之郎は激しい痛みと右腕から勢いよく血を撒き散らし声を上げる暇も無く気を失うのだった。
◆
目覚めると其処は之郎に用意された部屋だった。
少し違ったのは伊駒 蕾水がベッドの隣に腰掛けている事だ。
窓からの風に黒髪を靡かせ本を読んでいた。
視線は下に、本に向いている。
そのため、まだ之郎が目覚めた事に気付いていない。
その様子に之郎はキレイだ、ドラマみたいだと他人事のように呆けてしまう。
動いた事で布団との衣擦れ音で蕾水は意識を之郎へと向けた。
「お!
起きたか」
「オアシスさん!?」
いきなりの憧れの存在との予期せぬ対峙に之郎は、つい心の声が漏れてしまう。
「オアシス?……さん?」
「あっう、そのえっと、すみません!」
「ん?なんだ?」
「勝手に心の中で蕾水さん、いえ伊駒さんの事をオアシスさんと呼んでいまひはしゃた!」
『噛んでしまった!』
『可愛いな』
「‥‥‥‥‥いや良いよ。
オアシスさんか………鬼の伊駒・デーモンと呼ばれて恐れられていた私がオアシスね。
随分と女の子らしいなと思ってしまったよ」
「そ、そんな事ありません!
オア、伊駒さんは!!」
「好きなように呼んでくれて構わないよ」
「あっえーっとそれじゃ〜伊駒さんで……。
えっとそれで伊駒さんは可愛いですけど美しくてクールで何て言うか、でもそのシュッとしてるって言うか、凛とした心の体現って言うか、だからえっと凄い女性です!!」
「そっそうか。
そうなのか。
随分な評価を貰っているようで私も嬉しい」
「はい!」
言った後に之郎は自分が何を口走ったのを思い出し顔を赤く沸騰させる。
蕾水も之郎の本音だと分かる告白に不意を突かれた事で初めての感情に戸惑い2人の空間を何とも、もどかしい時間が支配した。
◆
「こっほん‥‥‥‥‥‥うん、それでだ。
青田君、君はどこまで覚えているかな?」
「え?
…………すみません。
何も覚えてません。」
言った後、流れる静寂に手持ち無沙汰になって之郎は枕をお腹の前に持ってくる。
「そうか分かった。
改めて私が説明しよう。
実は私、私達のペアは君の後ろで組手訓練をしていたんだ。
だから位置取り的に一部始終は見ていたんだよ。」
「そっ、そうだったですか!?」
「そ、そうなんだ。
君の位置からは後ろを振り返らないと知りようもない事だね。」
ぎこちない2人に甘い空気が再度流れ始めるかけるが蕾水は自身が脱線させた話を自身で修正すると切り出す。
「…………それでだ。
まず私の考察……推理と言うには素人だから予想と言う名の妄想に近くは有るんだがソレも踏まえて聞いて欲しい。
ここから話す内容は笑ったりしちゃいけないよ」
「は、はいッ!!」
「ジョンたち、あの輩共は私達より召喚が前だった者の強者。
それに、この国の兵士。
中でも特に柄の悪い連中等と付き合っている。
…………いや付き合っていると言っても男同士だから、いや男同士が悪いと言う意味では無くてだな?
そのつまり何が言いたいかと言えばだ!!」
パニくり、あたふたする蕾水を之郎は目を離さず見つめる。
「う、うむ。
未成年者を騙しているのは明白だが自分達の地位を上げようと徒党を組んでいるんだ。
そして勧誘もしている。
私も誘われたが………。」
『えっ』
「ん?心配するな、断っている。」
「ふぅ〜」
「なんだ、安心したか?
まぁ何しろ胡散くさかったのも有るが女子供・弱者を道具だと思っている節がある輩共だからな。
美人な私に色目やしつこく言い寄って来てナンパをしてステータスにしたいのが見え見えだ!
…………どうだろうか?」
「へ!?
はい?」
蕾水の言葉の真意が分からず之郎は焦って汗が全身に溢れる。
何か変な態度を取ってしまったのかと目を回して思考を回転させる。
「いや、ボケてみたのだ。
友人に真面目すぎると言われて私なりに冗談を言って場を和ませようとしたのだが……ダメだったみたいだな。」
「す、すみません!!
これまでジョーダンを言い合うような女性の友達がいなかったのでジョーダンって分かりませんでした!」
一方はジョーダンを勘違いして言えておらず、一方は意中の異性を前にコミニケーション障害気味に選択肢を間違えてしまう。
「そう……なのか。………なら仕方がないか。
いや……なら………いや何でもない話をもどそうか。
ヤツらの君や他の者達へと嫌がらせも目に余る。
っとすまない。
嫌がらせの事、知っていたが止められずにいるのは私も歯がゆいんだ。
すまない」
「いいえ、いい年して年下に殴られてる僕が悪いんです。」
「そんな事はない!
悪いのは暴力に物を言わせているアイツらに………いや私も同類だな。
知っていて助けずにいた………。
………美しいと。
………私の心がキレイだと言ってくれた君に嘘は付きたくないな。」
『?』
変な言い回しに首を傾げる之郎に小声になり口元に人差し指でシーっとすると蕾水はクチを開いた。
「私と同室の友が人質にされた。」
「っ!?」
「静かに。
君の部屋は護衛されているから安心だとは思うが念のためだ。
続けるぞ。
彼女の名前はリンダ。
私とは同年代で今回の召喚で君や私達の同期だ。
私は今、脅されている。」
いきなりの蕾水の独白に之郎の混乱を加速させた。
だが1つだけ確かな事は自分のせいで彼女達は巻き込まれ危険だという事だ。




