27話 魔人の伝説編 (2)
ふとした瞬きの間に神隠しのように、旋風に誘われるように、スキマや沼に落ちたように姿を消してしまう。
時に誰にも人知れずに1人で。
時には数人同時に。
時には目撃者だけを残して。
それは大昔から、この世界で稀に起きては語られてきた出来事。
だが今回、この現象を発生させた張本人は地球とは別の世界にある、とある国の軍を任されている護国卿に依るモノであった。
「愚王にはバレていないであろうな?」
「閣下!?
お越しでしたか」
「今回の統計はコチラに」
「うむ。
これ‥‥は‥‥普段より少ないように思うが?」
「問題あるますまい。
平均的に見ればこういう日もありますからな。」
「……そうか。」
「あるとすれば、あの所長が改造実験に此処の所、手を加えては改良している位ですかな」
「それは私が許可している。
諸君は今後も慎重に粛々と行動を。
決して露見する事のないようにな!」
「「「ハッ!!」」」
◇
◇
「死ぬ?」「嫌だ」「助けて、お母さん!!」「痛い痛いよ〜」「誰か!」「ここは何処なんだ!」「パパ、ママ!!」「助けくれ」「アンタは誰なんですか!」「やめろ、やめてくれぇぇぇえ!」「妻だけでも見逃してくれないか」「離せ!」「子供だけでも」「何かの撮影なのか」「あぁあああああぁぁぁぁぁ!!!」「助けて、助けてーーー!」「お前に人の心は無いのか」「何でも、何でもするから逃がして下さい」「痛い痛いよママ〜」「呪ってやる」「ママに会いたいよ〜」「死にたくない」「うがぁぁぁぁぁあああ!」「うわーーーーー!」「せめて死ぬ前に家族に会いたい」「夫は?先に連れていかれた夫を知りませんか?」「誰か、誰か居ませんか」「助けくれーー!」「あ母さん怖いよー助けて」「まだ死にたくない」「殺してやる殺してやる」「イヤだイヤだイヤだ、助けて誰か、誰か」「もう殺してくれ」「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い」「あんな事言ってごめんなさいパパ。謝りたかっ‥‥‥‥。」「ごめんなさいごめんなさい許して下さい、もう止めて」「腕が、腕が!!」「許して下さい」「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」「いやだーーーー!!!」「助けてッ助けて下さい」
無限に聞こえては頭に、体に反響く怨嗟や悲鳴・助けを呼ぶ声は心や魂もが染まり頭から足の指の隅々まで木霊する。
視界が泥色のように黒く黒く深くドス黒く血のように混ざり融けてゆく。
その闇と負の感情へと委ねるように身体が矛先へと向かう。
室内に残っていた、離れられないでいたはずの叫び達は身体の奥底へ沈殿して集まっていった。
◇
◇
青田之郎は無我夢中で暗闇の中を走っていた。
それに反して気分は良好で、とても清々しかった。
そんな之郎は突然、背中に何かが有ると感じて背中に手を伸ばそうとするも手が回らない。
こんなに体が硬かっただろうか?
そこで之郎は視界の高さが通常と違う気がして目を擦る。
その手に違和感を覚えて見ようとするが、その瞬間に手は土のようになり崩れてしまい、土の侵食は留まらず体の全てが崩れてゆく。
それをどうする事も出来ずに死んだと思った瞬間に之郎は目を覚ますのだった。
陽の光が窓から覗かせる。
天井にハッとする。
しかし次には安堵する。
ベッドに拘束もされておらず安心して之郎はベッドから下りようとして少しの疲労感と怠さ・心臓が重い気がして、のろりのろりと立ち上がる。
そこから見える窓の外の風景に現実を実感する。
知らない場所、学校のグランドらしき場所で何百人もが部活か何かをしている。
此処が何処で自分が人体実験(?)をされた事がを思い出されてくる。
そして直前まで見ていた夢を思い出して恐怖から震えて床に尻餅を着くと布団をやっと手に取るとベッドから引っ張って包まり寒さとは別の震えに之郎は身を任せるしか出来なかった。
之郎は気付いてしまったモノを夢だと言い聞かせるように、あの悪夢が現実なのを嘘だと思う事で心を保つしか方法を知らない。
ベッドと窓のある壁のスキマの陰に隠れてどれくらいの時間が経っただろうか。
之郎の元に1人の人物がやって来た。
「そうやって縮こまっていれば誰かが助けてくれると思っているのか!
起きろ!立て!
貴様は我が国の所有物だ!」
蹴り上げられ布団ごと之郎は引き連れられていく。
凄まれ、ちんぷんかんぷんの間に抵抗する暇さえ与えられず、やって来た先は異様な場所だった。
そこは簡素な服装の日本人や外国人達が戦闘訓練を強要されられているのが一目瞭然なピリついた空気が流れていて、その空気に之郎はプレッシャーから吐きそうになる。
それは、ついさっき見た光景で部活や運動では無い殺伐としたモノだと気付き之郎の困惑を加速される。
之郎を引っ張り出していた厳つい体格の男に背中を蹴り押されて坂を転が下った訓練場──グラウンドのような場所──に土煙と伴に落ちる。
「実験中に何人か殺したって言うからに。
期待していたが見てみれば小動物にも負けそうだな!!
さっさと立てノロマめ!」
ここは之郎と同じように拒絶反応を起さずに生存した適応者達が男女と年齢などを関係無く集められ基本体力や戦闘技術・能力を兵士達に見張られ、教わる事が有無も言わせず強制される監獄だ。
「その様子ではお前、何も知らんのか。
ますます使えん屑が。」
興味を無くしたのか雑に指で行けと言われ痛みと恐怖と困惑ながら小走りに之郎はグランドの円周を走っているグループの最後尾にひっそりと合流すると何とか付いて走った。
少しして之郎は気付く。
『あれ、疲れない?』
社会人になって久しい。
運動が得意だった事は学生時代から無い。
会社と自宅の往復のみで体力は学生時代より無い自覚がある。
それなのに前方に遅れる事も無く付いて行けている事に驚く。
よく分からないままに走らされ之郎は壊れた眼鏡の事も忘れ訓練も身が入っている筈も無く兵士の教官らしき男性に止められるまで他の者達と同じように走ったり武器を持っての戦闘や格闘訓練等をして何とか着いて行くのに必死な内に夕方を迎えていた。
どうしてよいのか分からず去って行く人影に乗れず之郎は1人残されてしまう。
そこにメイド服の女性と執事らしき男性が現れて今朝の部屋に案内される。
その間の廊下や食事を運んで貰っている際に話しかけても御辞儀をされたりするだけで、やはり何の説明もされる事は、ついぞ無かった。




