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26話 魔人の伝説編 (1)

5月から深夜0時に1日1回更新されます。


『』はモノローグ。

心の声になります。

 青田あおた之郎しろうは平凡で押しに弱い御人好しの会社員だ。

代わり映えのしない毎朝の始まりのはずだった。

それは、おんなじな通勤時間。

電車で虚空を眺める。

それは痴漢に間違われただとか。

事故が起こって停車しただとか。

そんな事は無い──起きないのだ───

ただ時間が流れるだけの突っ立ているだけ、まるで自分しろうの人生のように空いている時間帯スキマじかん

そんな毎日が不意に、一瞬にして変貌する。

之郎の視界が眩み。咄嗟にカバンを持っている手で頭を抑えようとして視界に違和感を覚えた時には睡魔に襲われたように倒れてしまっていた。

グシャっと何かが割れる音と共に。



───満員電車一歩手前の車内、青田之郎は誰とも気付かれずにポッと消えた。

揺れに足を掬われた乗客が、ついさっきまで之郎の居たはずの場所に他の誰かがやって来たとしても‥‥‥‥‥。

その異変に、1人の男性の最後を知る者は誰として、いなかった───





 眩しい光に照らされる石壁の室内。


「コイツで最後か。」


 兵士は警戒していた槍を下げるとランプが止まりゲージがゼロを示し、下になっているのを確認して愚痴を零す。


「そうみたい、だ……な。

でも今回は少なくないか。」


「そうか?

こんなもんだろ?」


「まぁ〜それで、どやされんのは末端の俺らじゃなく上だからな〜

知ったこっちゃ無いだろ」


 彼等はワハハハと、一頻り笑うと之郎を慣れた手つきで雑に引き摺るように奥へと運んで行った。



『眼鏡が割れてる、あれ?

…………っ!

視力がハッキリしてる!?』


 左のレンズとフレームだけを残して破片が少し残った眼鏡に状況を把握しようとして之郎が見たのは怪しい薬品や器具の溢れる薄暗い部屋だった。

意識は弱く正常に考えられるようになってきた頃、視界に怒髪天に片方の眼球をギロギロとされて左右で色の違う瞳。

無造作に伸ばした髭に痩せた白衣の老人が入ってくる。

尚も狂気的な雰囲気の老人は之郎の両方の頬を遠慮なしにペシペシバシバシと叩く。


「これは又、随分と軟弱そうだのぉ。

死ぬのに500キソルだな」


 いきなり出てきた "死ぬ" のワードに之郎は反応して動こうと逃げようとした。

しかし体のアチコチが拘束されている事に気づく。

抵抗しようとした之郎に老人は、口角を歪ませ歯茎を見せて笑い出した。

一通り笑い終わるとニチャァ〜〜と悪戯が成功して喜ぶ子供にしては邪悪すぎる顔を見せる。

老人は次にテーブルから注射器のような物を取り出すと光と陰の加減で、一層怪しい表情のまま之郎に告げる。


「そう怖がるな。

失敗しても苦しむのは一瞬じゃよ!

死ぬ時も一瞬じゃ!

ほれ、お仲間が待っておる寂しくないわい」


 言われて指さされた先には死体が山盛りに置かれていた。

その光景に再燃した感情から逃げようとして之郎は自身が台に頑丈に拘束されていた台が下がっていく事に気付く。


「安心せい。

今からやるのはお主らの世界でいう鎮静剤のような物だからの〜

その次は麻酔じゃ!!」


 それから之郎は、なすがままにされるしかなかった。

逃げる事も出来ず、抵抗出来ない。

ここが何処なのか。

何故、自分がこんな事になっているのか。

何もかもが不明のまま。

困惑より直ぐに恐怖、そして諦めに染まってゆく。

意識が有るのに何も出来ず、クチさえ開けれない。

悔しいという感情よりも之郎は諦めの方が強く勝ってしまった。

之郎は、この時───またか………とこぼして意識を手放した。


 次に目覚めた時、之郎は直立に起き上がった台に拘束されたままに身体はホースやプラグ等と繋げられ苦しいと感じるも、その心を休ませる前に…………何故か激情を覚えていた。

考えるより先に目の前に運ばれてきた大きな器具を白衣の科学者が起動させる。

激しく、これから何をされるか恐怖を唆る、モーター音のような、その音で血の気が引き之郎は吐き気を覚えた。




 腹部に穴を開けられ機械に接続されられて何かをされている。

視界の死角で之郎にはそれだけしか分からなかったが、その情報じじつだけで充分だった。


「あ゛ぁぁぐぁぁぁぁ

ア゛アァァァァァァァァァァァァァァ」


 歯を食いしばろうとしては出来ない。

体の全てに力が入れられない。

異物が身体の中に入れられて拒絶反応と激痛が之郎を襲う。体が震える。

自分が自分では無いような気持ちになる。

激しく揺れる最中、思考が、感情が何も分からなくなってゆく。

精神力は意味を成さない。

とうにそのレベルを超えている。


『ここで死ぬのか。

そんなのイヤだ!

僕は‥‥‥‥‥。

こんなに痛いのに……………。

なぜ耐えているんだろうか。

堪えるために?

何故?

もういいか。

こんなに痛いんだ。

………そうか死ぬ……から?

‥‥‥‥‥‥‥…ダメだ諦め………よ…う。

死ぬんだ。

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥でも。

……嫌だッ!』


 激痛を忘れて意識のほとりの外で “ 生きてやる ” と声を張り上げて叫んだ。

その言葉は周囲を衝撃波として吹き飛ばす。

重たい機器や器具、科学者達を壁や棚に激突させて明かりが消える。

明かりが点滅を繰り返す。

科学者達の呻き声や機器の壊れる音が静かな室内を満たす。


 之郎は理由も分からず必死に抜け出そうとしてクチにあったチューブや身体から生えるコードや大きなホースを引き千切る。

拘束台から糸も簡単に拍子抜けする程に脱すると衝撃波から難を逃れた白衣の老人がテーブルから体を出してくる。


「なんと!?

適応しよった、、、それも完全に細胞壊死反応リ・リジェクトを起こさず存命しておる。

初めての適合率じゃと!

成功じゃ!!」


 そう狂気的に笑い喜ぶと1歩1歩と近づいていた之郎に恐れること無く白衣の老人も近付く。

この時の之郎の脳内は逃走や恐怖では無く、怒りや激情に近かった。


 あと1歩、その1歩で之郎の素手が届く距離で之郎は糸が切れたように気を失う。


「気力。

いや体力の限界かのぉ〜。

施術途中にして、これ程まで動けるとはのぉ」


 顔から倒れた之郎の背丈が元に戻る。

体色も禍々しいモノから肌色へと、ゆっくりゆっくりと地を這うように変わって戻っていった。

その様子に老人は喜びを隠せないでいた。


今の所は1週間程続きます。

宜しくお願いします(≧▽≦)

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