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17話 7月/0歳 犯人と悪戯妖精 (前編)

 無意識なのか、本能なのか俺は目印を示すように己の存在を訴え教えるように魔力を放った。

それはとても弱々しくて攻撃としては意味を成さず、何かを知らせたいのなら本来なら呈を成していないはずのソレは。

凶器のような尖った雰囲気のエルフの冒険者には意味が分からなかった事だろう。

そもそも抵抗とも考えず踏み潰すのに何ら変わりを与えないのだから。


 俺は1度、諦めた。

何度目の死だからと次があるのかどうかも興味も無く諦めた。

勝手に後ろのアイツらを道連れにすると決めてしまった。

でもフィリップもカグアルットも死ぬのが平気な生き物なんて居ないんだ。

小さい生命でも本能で嫌だって感じて抗うんだから。

人生の大先輩の俺が先に諦めちまってカッコ悪い。

‥‥‥ごめん!

このごめんはさっきのより数万倍も、お前達の未来を奪おうとした俺の心からのありがとうのごめんだから!!

だから許してくれとは言わない。

でも、もう勝手に決めて勝手に諦めたりはしない!

だから…………。


 いくぞ!!

心が決まった俺はもう尽きてしまって身体のドコにも無かったはずの魔力を冒険者エルフにビームのように撃った。


「見つけた!!」


 上空から空気を木々を葉っぱを一瞬で退けた人影は冒険者エルフを本人の数倍はある大剣で斬り突けるのだった。


 渾身の一撃は然程効かず迫って来ようしていた。

その時、突如として光を纏った父クリスが上から現れて冒険者エルフを吹き飛ばす。


 怒号を上げながら立ち上がった冒険者エルフは歓喜に震えているのが、一目で分かる程に狂い笑っている。


「ぐあ"あ"あ"あ"あ"あ"ぁぁぁぁぁぁぁ!!!

テメェは勇王クリストファー!

って事はそのガキの中に、いや。

そいつがあの女王との長男か!!!

ハッハハハハハハハハ!

楽しくなってきたなーーーーー!」


 驚愕も狂喜も隠さずに切断された自分の右腕は、お構い無しに知らん顔して左手でナイフを構えると冒険者エルフは頭から垂れ出る血液をペロリとクチ元で舐めると走り出した。


 冒険者エルフは父クリスと鍔競り合うように力任せに俺達を通り過ぎていった。

興味が俺達、俺から父クリスに変わったからだ。

場所は広く何も遮断物の無かったこの広場とは撃って変わって木々や枝が乱雑する自然のフィールドに移った。


 せめても今の俺に出来るのは赤ちゃん達が行方不明にならないように結界を維持する事だけ。

頑張れクリス。パパさん!



「どうして、こんな事をするんだ!!」


「理由なんてねぇ~

楽しけりゃ~適当でいいんだよ!!

ワクワクするだろう?」


「何を言っているだ!!

君はこの国の民だろう!

エルフなんだぞ!!」


「それも理由には足り得ねぇんだよ!

俺は今を、この瞬間も!

生か死にしか興味が湧かない!

お前と楽しめてりゃ~それでいいんだよ!!

今、この瞬間が最高なんだからよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 会話が何事も無いように椅子に座って行われているように淡々と続き今この間も彼らは行く手を阻むはずの太い枝や斜めに生えた木々らを華麗に交わし(かわ)しては互いを殺さんと斬り付かんとしては攻撃を避けて血飛沫を飛ばしては止まる事を知らないでいた。


「分からない。

それが君が命をかけて死にそうになってまでしないといけない事なのかも。

誰かを死に追いやろうとしてまでする事なのかが!

一時の享楽に身を任せて誰かの大切な人を傷つけてまでやる事なのかがぁ!!!

不幸を楽しむなんて間違ってる!!!!

はぁっ!」


「悪か正なんてのは最後に立ってた奴がホザいてりゃいいんだよ。

なぁ!!」


「ぐはぁ!?」


「知ってるか?

勝負ってのは熱くなった方が負けなんだよぉ!」


「くっ。

…………違うさ!

先に熱くなった方が自分を解放して俯瞰で見るんだよ!

筋肉が体が……声でいつも以上に発揮されるんだっっぅぅよ!!!」


 刃と刃が激突して魔力の衝撃波で二人は反対に吹き飛ばされるも即座に距離を詰めて戦闘は再開された。


「聞いたことねぇ~ぞ!

それが勇者サマの経験かぁ!

あぁ~~あ!!」


『重い!!

ナイフのはずなのにまるで僕以上の大剣を振り回しているようだ。

でもリンネ達から長くは目を離せて置けない!』


「気が散ったな?

これで終わりだぁ~~ジジィ!!」


「ぐあっ!?

………………………そうでも無いさ」


「なにっ!!」


「時間だ《勇増剣(ゆうそうけん)》!

君に構ってばかりは要られない!」


 クリスの剣は細剣へと何時の間にか変わっていた。

首を冒険者エルフに少しだけ動かすと仁王立ちから背を向けて歩き去っていく。

 

「はぁ?

ふざけんはぁ!?

うっ?

ぐく、はぅ!

あ、あ、あー……まだ終わって………。」


 エルフの男の腹に1つ、貫通した剣は背中で増幅するように剣山の剣を生やす。

大小様々の十数ある剣が血を吸うように緑の地面に赤色を垂らし浸食してゆく。

自身の現状を把握した途端に膝から落ちて地に伏す。

草を握り、追い掛けようとするが体は動かない。


「‥‥まだ終わっ‥てねぇ。

これからハラ‥…ハラ…する‥‥‥死と…うを………。」


「いや是で終わりだよ」


 クリスの言葉を合図に男の上から、もう1つの剣が落下した。

クリスは後悔する。

また、人を殺めてしまった事を。

殺めることしか出来なかった己の残酷さを。

それ以外の解決方法を見出だせなかった自身の愚かさを。

我が子達を助けるためと免罪符を言い訳に殺めてしまった事実を忘れない。

彼は進む。それでも歩む。

振り下ろした手で、我が子を抱える。

その罪を自覚しながら。


 勇者クリスと人間の冒険者を手引きした犯人とされるエルフとの森林での戦闘は時間にして30分程も掛かっていなかった。

クリスは血の痕や衣服を魔法で清潔にしてからリンネ達の元へと急いだ。


 木々が薙ぎ払われ、大空が覗けるように様変わりしてしまった戦場となった広場には小猿と遊ぶ赤ちゃん達の姿があった。


「お母さんとお父さんと離れ離れになって寂しいよね。

今呼んでくるからね!」


「何処に行こうとしている?」


「…………ミルフィー!!!」


 勇者は嘗て意中の女性の声に振り向いた。

そして運命の彼女の登場に心を踊らせて走り飛び付いた。


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