16話 7月/0歳 人間と犯人
2025/07/17、修正と微量の加筆を行いました。
首が無く胸部に顔の有る鳥モンスターと争ったのは人間の冒険者だった。
親なのか小妖精の子猿達は助けを求めて俺を拐ったようで彼らは子供なのかも知れない。
赤子の体は疲れやすい。元より体力が無い。
あ~ヤバい熱出てきたかも。
駆け寄って来たカグアルットやフィリップに介抱されていると季節外れの白息と表面に霜や靄を漂わせ、理性を失ったように焦点の合っていない瞳をさせた人間の男性冒険者は氷塊の棍棒と化した剣を振り回して俺へとガタッガタッと目指していた。
何っ!?
まだ立ち上がれる体力があったのか!
ヤバい。
魔力は発動失敗で無駄に消費したし、そもそも身体を動かす体力が俺にはもう無い。
俺たちへと歩みを進めて革鎧や鉄と氷の擦れる音を立てて錯乱していたはずの男は突然、糸が切れたように止まるとクチから血を吹き出し後ろへと倒れる。
カグアルットが悲鳴を上げて、その声に呼応するように赤ちゃんたち皆も泣き喚き出してしまう。
俺はカグアルット達の前に守る体勢で必死で飛び出す。
注意を強めていると倒れた男の位置とは違う東の方向の木々が揺れて影から新手が現れる。
もう1人!?こいつの仲間か!!
急いでその位置に向き直るも新手の男は攻撃を仕掛けて来ようとはしていなかった。
「あーーーよくやったぜ。…………死んだか。
使えるんだが使えないんだが……あぁ~やっぱ使えねぇ~な。
だがぁ~。
王族の関係者連中のガキ共がいるのは……………イイぜぇ~
クラクラしてキタぜぇ~」
そう言うとベルトの後ろから弛い動作で短杖を取り出すと“ふっはぁ、あ~”と乾いた笑いを溢して俺達を、その冷たい両目で捉えると構えようにして魔法を発動しようとする。
なんだぁ?こいつの芝居掛かったセリフや動きは?
「今の俺にぃ~。
お前達はぁ眩し過ぎるぅ。
ギラギラだぜぇ。
考える隙も!
時間も!
‥‥‥‥無く殺してやるよぉ~」
考える暇くらい与えてくれ。
クソっ、普段ならノールックで手を向けなくても発動出来るってのに。
両手で俺達全員を囲うように魔法円障壁を展開させる。
だ~ツラい。
腕の血管が裂けて血が垂れる。
痛いんだが!!
くそムカつく。
障壁維持すら儘ならないのかよ!
「おっほ、ほう。
これを~防ぐのかぁ。
お~ムラムラすんな~」
[うがぁ!?
威力強めやがった。
精霊~~協力お願いしまーーーーす!!]
「青い炎の魔力燐光!?
ふふっ、ハッハ、ハッハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!
どこまで耐えられるぅ~?」
器用に属性混ぜて来やがって!!
防御に手一杯で反撃に回せない。
ヤバい。
マジでヤバい。
子供達も時間的にも感情面でもタイムリミットが近づいてきてる。
早く親の所に戻さないと死人が出かねない。
いやこの男の攻撃から生き延びないと、どの道死ぬ!!
頬を伝う焦りが冷や汗になった時、親の鳥モンスターを守るようにしていた背後の小猿達が、一斉に冒険者の男に襲い掛かる。
引っ掻き、噛み付きやクチから毒霧のような物を吐く。
指先からは弱々しい軌道の光線を放つ。
とんでもな攻撃方法も見られたが妖精と言うより魔物のような攻撃は男の魔法を中断されるには効果覿面だった。
「なにっ!?
テメェら!
じゃっ、邪魔だ!!」
そしてその時、不意に冒険者の被っていた外套が少し破れて捲れる。
すると素顔が分かるようになり、見えたのは長い耳だった!
つまりエルフ特有の耳が表れた事を意味していた。
俺は見逃さず水の水弾、《水鉄砲散撃》で撃ち抜き、精霊に手伝って貰い外套を脱がすように吹き飛ばす。
すると彼に付き添う精霊が在るのが視認出来るようになる。
あの外套は魔法的付与でエルフだと認識や自身の契約精霊を見えないようにする効果が有ったのだと予想される。
そして彼に付き添う精霊の纏う魔力の色はグレー。
つまり毒の精霊だ!
だが必ずしも毒属性がこのエルフの……!?
そうか人間の冒険者事件の犯人がコイツなんだ。
仲間だったような言葉に今思えば人間を手引きしたようなクチぶりからして間違いない。
なんでこんな事したのか、してるのかは謎では有るが本人から聞けば良い。
思考を戻してっと。
契約精霊が毒属性だからと言って本人が得意な魔法が毒とは限らない。
興味のある物や弱点を補うために、自分の得意属性を強化するため。
理由はエルフ(ひと)それぞれだ。
しかし対策して置くに越したことは無い。
俺の残り魔力残量と相談しながらに成るが……………火は論外。
どういう状態、方法だとしても火属性は有り得ない。
水や氷で流すか固める。
地属性でやっぱ囲うか?
無理だな。
無難ってか正攻法の光と聖は治療以外だと俺は、どうも苦手だしな。
あーーもう面倒臭い!!
体力も魔力も空腹も全部足りないんだよーーーーー!
◆
「こんな所で死ぬのかよ!!
俺は、俺は本当は歴史家に学者になりたいってのによぉーー!!」
俺の焦りや不安が伝わってしまったのか欠けたバリアーに恐怖を加速させられたのかフィリップが本音を募らせ洩らす。
ってか叫んでやがる。皆が又、泣き出しただろが!
カグアルットは抱き締める俺の身体への力が強まって声を殺し子供達に伝播しないように泣いている。
「死にたくないよ。
リンネ様……ママ、パパに会いたいよ。
死にたくない…………。」
ったく。
なんでこう、まだ子供なのにしっかりしてるかな…………貴族とかだからか?
もっと年相応に泣き喚いても……いや今の状況だと煩いし邪魔になるか。
年長者の振る舞いで普通に泣く事も出来ないのなんて間違ってるよな
仕方無いじゃ済まないよな?
よし、本当の年長者が本当のしっかりしてる所を見せないとな!
カグアルット、フィリップ!
お前ら、その“思い”忘れるなよ。
……………………ぐはぁ!?
クソ、こんな時くらいカッコ付けさせろ!!
精霊!!
未契約なんだ!
人数なんて制限無いぞ!!
今ある、ありったけの魔力をくれてやる。
あいつを薙ぎ倒せるだけのチカラを貸してくれぇぇぇぇぇぇえ!!!!!
俺は声もハッキリ喋れ無いのに喉から有らん限りの言葉を発した。
どうやら俺は無条件で全ての属性の精霊や妖精達に好かれる傾向にある。
傾向と言うより体質と言った方が正しいかも知れない。
出自が関係してるのは明白で。
更に俺が転生しているのも余計に拍車を掛けているのかも知れない。
そんな訳で未契約な現状でも頼み事は双方に利があれば叶えるナアナアの関係に俺達は成っていた。
小さな小さな──部屋のテーブルにあるカイネ用のお菓子が食べたい──だったり。
大事な、おおごとな──消えかけている精霊の救出──だったりと。
対価を支払えば、それ相応の結果が返ってくる。
でも今回は後日に魔力では無く何々が欲しいなんて願いをされるかも知れないな。
生前、つまり前世の賢者時代には俺は水・氷を特に好んで使っていた。
好き嫌い以前に自分に合う合わないも有るし、扱えない属性も有ったりするので全属性の攻撃魔法なんて発動させようとも思わなかったし使用とも思わなかった。
前世の師匠の教えに身の丈に合わ無い魔法を極めないってのが有ったが今世は恵まれているためか、どうやら全属性への素質。
性質を持ち合わせているようだった。
名付けるなら───《全属性超破壊精霊放射魔妖線》──かな?
なんつって!
魔力が尽きてダルい。
精霊が優しく地面に下ろしてくれたが、もう動けないだろうな。
土煙が視界を塞ぎ、あのエルフがどうなったかが分からない。
一先ず逃げるぞ。
「やったのか?」
あ〜〜〜フィリップ君。
それは言っちゃいけないフラグだよ。
「ぐはぁ。
どああああああああハッハハハハハハッハハ
赤ん坊の癖にやるじゃね~か!!」
血を撒き散らし吐きながら怒気から歓喜のような笑いに変わると原型を留めていない短杖を捨て、腕や身体中の怪我を無視して俺達へと歩き出す。
ヤバい。
これは本格的にヤバい!!
もう切れる、一手が無い。
こんな所で死ぬのか………………。
今回は短い人生……エルフ生だった。
ごめん、ごめんな。
俺のゴタゴタに巻き込んじまって、お前等ごめん。
俺が生を諦めたその時だった。
強烈な懐かしさを鼻腔が感じ取って身体が本能的に生きる事を再開される。
俺は吐血も厭わず残り少ない魔力を周囲に放出する。
ヒーローは遅れてやって来るってか?
そこに、此処に俺達の前に現れたのは‥‥‥‥‥‥‥‥。