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冬の童話祭2024

運命の男

作者: 六福亭(中澤敬)


 一人の、夢見がちな娘がいた。器量はそれほど良いというわけでもなかったが、針仕事や料理の腕は村の娘達の中でも一番だった。だが彼女が一番得意なのは、結婚した後のことをうっとりと考えることだった。


 彼女の友達は何人もいるが、みな愛し合う相手がいた。娘も同じように将来を約束する相手を見つけたいと願っていた。


 しかし、村にいる若者の数は限られている。娘が好意を抱いた青年には、大抵よくお似合いの恋人がいた。また、若者たちが祭りのダンスの相手に選ぶのは、パイを美味く焼ける娘より、ドレスがよく似合う可愛い娘だった。


 ある年のクリスマスの夜、両親と夕食の席を囲んだ後、娘は一人で眠りについた。そして、夢を見た。見たこともない若い男が、娘に求婚する夢だった。その男は凛々しく、優しかった。娘は喜んで求婚を受け入れた。


 目が覚めた後も、その男の顔は鮮明に覚えていた。娘は予知夢を見たのだと信じた。しかし、同じ顔の男は同じ村にも、隣の村にもいない。


 娘は今までよりも活発に町へ出かけるようになった。畑で採れた野菜や自分で縫った服を売りながら、運命の男を探した。


 何ヶ月も過ぎたころ、ようやく相手を見つけた。その男は、町で鍛冶屋を営む若者だった。娘の売る上質な服を買って行った。夢で見た通りに優しい人間だったので、娘はとても嬉しくなった。


 しかし、男には既に婚約者がいた。娘はそれを、鍛冶屋まで会いに行った時に知った。とても美しい娘で、若い恋人達は仲睦まじい様子だった。


 娘は悲しみにくれて、自分の村に帰っていった。


 その後娘に、隣村の善良な若者が求婚した。彼は娘と同じく働き者で、無口ではあるが思いやりにあふれた男である。娘は彼と結婚することにした。結婚式を挙げ、夫は畑で、妻は家で来る日も来る日も働いた。そのうち子どもも生まれ、妻は昔夢に見た運命の男のことは忘れた。


 十年も経った後、その地方一帯に戦争がやってきた。


 彼女の夫も、村の他の男達と一緒に戦いに出た。妻は家に残り、子どもと、夫が耕していった畑の面倒を見た。


 初めのうち、戦争が起こっていることは村に残った人々には分からなかった。どこか遠いところで戦いは行われ、知らないうちに誰かが死んでいた。村は平穏で、退屈な日々が続いていた。


 しかしそのうち、傷ついた男達が帰ってきた。村の者も、違うところから出征した者達も、その村に流れ込んだ。女たちは、分け隔てなく手当てをした。あの妻も、夫を待ちながらたくさんの男に食事を用意し、傷に薬を塗ってやり、休む場所を提供した。待てども待てども夫は帰ってこなかった。


 一人のひどく弱った男の世話をしている時、妻はふとその男の顔を見て、あっと驚いた。彼は、あの夢に見た運命の男だった。町で鍛冶屋を開いていて、美しい妻がいるあの男だった。


 男は、彼女にこう語った。彼がいた町は、敵の軍の手ひどい襲撃を受けた。彼の妻は死に、男は復讐のために戦いに出た。


 呆然としている彼女の元へ、村のまとめ役がやってきた。彼女の夫が戦死したという知らせを持ってきたのだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] (子供以外が主人公の)正夢の話は、ありそうで中々なく、その理由を考えるに、平凡になりがちで、「読ませる話」を作るのが難しいからだろうと思いますが、このお話のように堂々として、しかも「時間差…
[一言] 運命って時に残酷ですね。
2023/12/31 14:50 退会済み
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