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【完結】抗竜記 ~発明少年、竜世界に抗う~  作者: 敷知遠江守
~サモティノ地区エモーナ村~

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第29話 脱走

登場人物

・ドラガン・カーリク…人間。ベレメンド村の発明少年。

・アリサ・カーリク…人間。ドラガンの姉。ごく普通の常識人。

・マリウス・マチシェニ…エルフ。プラジェニ家と共同で畑を運営している。

・ダニーロ・ムイノク…人間。新米冒険者。

・フローリン・ザレシエ…エルフ。教師。

・デニス・ポーレ…人間。船大工の営業。

 ベアトリスと別れたドラガンは、村の奥の森の待合場所へと向かった。

とりわけ木々が鬱蒼としている場所で周囲に比べ少し薄暗い。

そこにアリサと四人の男女がドラガンを待っていた。


 ドラガンを見るとアリサは、遅いと言って頭を軽く小突く。

ごめんなさいと五人に謝ると、随員の四人はクスクスと笑った。

およそ『村からの脱出』という切迫した目的からは、ほど遠い雰囲気である。


 四人のうちの一人、見習い冒険者のムイノクが、じゃあ出発しようと声をかけると他の五人は頷いた。


 ひたすら木々が続く光景に不安になり、アリサが迷子になりそうと弱音を吐く。

すると教師見習いのエルフ、ザレシエが、ここはうちらの幼い頃からの遊び場ですからと微笑んだ。



 二時間ほど森の中を歩き回り沢のほとりで最初の休憩となった。

数日は森の中で寝泊まりになるから、沢を見つけ次第休憩していこうとムイノクが提案すると、コウトという男性が、そういうところは冒険者の二人に任せると微笑んだ。


「俺たちは六人の冒険者で、危険生物を討伐に出ているという設定が一番怪しまれないと思うんだよ」


 ムイノクが沢の水を飲みながら説明した。

もし街道警備隊に職務質問を受けたとしても、恰好からして冒険者であればそこまで疑われないだろう。

もちろん森を抜けたら、ちゃんとそう見えるように武器を帯びてもらう。

ムイノクは皆の方を見て腰に帯びている両刃剣の柄を握ってみせた。


 ザレシエはそれなりに弓が扱えるらしい。

板状に削った鹿の角を木の板で挟んだ短い合成弓を腰に帯びている。

学者崩れなのにずいぶん力の要る弓を使うとムイノクが笑うと、学者崩れは止めろとザレシエが怒った。


 コウトは短くて幅広の片刃刀を腰のベルトに吊っている。

エルフの女性冒険者エニサラは、軟鞭(なんべん)という動物の皮をなめして細く伸ばした鞭を丸く束ねて腰に帯びている。


 アリサは武芸はさっぱりだが恰好を付けるため細剣を鞄に差している。

ドラガンは円形の木の盾を背負い袋に引っ掛けている。

円形の盾には内側に無数の小刀が収められていて、普段は盾で身を守りながら小刀を投げつけることができる。

ジャームベック村の鍛冶屋と相談し、ドラガンのためだけに作った武器である。



 ――随員の一人エドゥアルド・コウトは父が料理人で、学校を出てからは父の下で料理人の見習いをしていた。

ドラガンの随員の話が出た際、コウトは父に、自分も随員で行こうと思うがどう思うかと相談した。

ドラガンに信仰に近い感情を抱いている父は二つ返事で許可した。

もしこれが今生の別れになったとしても、お前がどこかで料理を作り続けてくれれば悔いはない。

母は寂しそうにしたが、父は私たちの息子がこんなに立派な事を言うようになった事を喜べと叱責した。

店は長女の婿にでも継がせるから気にするなと微笑んだ。


 コウトが出立の準備をしていると、父はこれを持っていけと、一振りの刀と包丁、フライパンを持ってきた。

包丁とフライパンは、一人前になったと思った時に渡す予定だったらしい。

剣は幅広の片刃刀で少し短めの物。

鉈の代わりにも使え汎用性の高い武器である。

この刀は切れ味が重要だから、これを定期的に研いで包丁の手入れの仕方を覚えろと説明した。

絶対にヴラド様にひもじい思いをさせてはいけない。

父はコウトにそう言い含めた――



 コウトは、日が暮れる前に動物を見かけたら狩って欲しいとムイノクにお願いした。

当面のパンと根菜、調味料は持ってきたが、残念ながら肉が無い。

根菜の千切りだけを挟んだパンを食べたくなかったら早急に狩ることだとコウトは笑った。


 コウトは行く先々で食べられる食材を見つけ出し、背負い袋から小袋を取り出しては各人に背負い袋に付けて持っていてくれと頼んでいた。

それが何の意味かはこの時点ではよくわからなかった。


 栗を拾い集めムイノクに手渡し、そろそろ動物が出ると思うからとニヤリとした。

この時点でザレシエはコウトの意図に気付いたらしい。

食材の臭いで野生動物をおびき寄せていたのだ。

そこからザレシエは、腰に引っ掛けていた弓を手に持って歩いた。


 ザレシエは突然立ち止まると森の奥に矢を放ち、仕留めきれなかったかと悔しそうに舌打ちをした。

来るぞと声をかけられ、ムイノクとエニサラも武器を手に握った。

ザレシエが矢を放った方を目をこらしてみると、それなりの大きさのイノシシが顔の横に矢を突き立ててこちらを睨んでいる。


 イノシシは右前脚を前後させ地面を掘る仕草をし、じっとこちらを睨んでいる。

ザレシエは先手必勝と呟いて、二本目の矢を放つ。

矢は真っ直ぐイノシシに向かって飛び、頬の辺りに突き刺さる。

ブイイという叫び声と共に、イノシシはこちらに向かって一直線に突っ込んできた。


 エニサラは鞭の柄をくるくると回し鞭で輪を描き、横から投げるような仕草でイノシシに向けて鞭を伸ばす。

鞭は綺麗にイノシシの左目に当たり、ブヒャアという叫び声をあげて木に激突。

ムイノクは剣を構えイノシシに向かって走り出し、イノシシの眉間に剣を叩きつける。

イノシシはその一撃が致命傷となり絶命した。



 ご苦労様と言って、コウトは鞄から綱を取り出すと、後脚を縛って木の枝に吊り上げた。

構えていた片刃刀をイノシシの喉に突き立て横に一文字に掻き切る。

イノシシの首から水筒をこぼしたかのように血が流れ出る。

しばらく待ち血が出なくなると腹に片刃刀を突き立て、そこからは見事な手際で解体していった。


「これだけあったら、当分、肉には困らねえな」


 適度な大きさに切った肉を、コウトが途中で採取していた木の葉でくるみながら、ムイノクは零れ落ちそうな涎を啜る。


「残念だけど、これが食えるのは明日だよ。今晩食べてもあまり旨くないんだよ」


「なにっ? じゃあ今日の夜は根菜の細切りだけかよ!」


 冗談じゃねえとムイノクはコウトに怒り出した。

コウトはムイノク、ザレシエより一歳下。

幼馴染であり、お互い会話に遠慮というものがない。


「家から腸詰を持って来てるから、今晩はそれを茹でようと思ってるよ」


「なんだよ。じゃあ慌てて狩ることなかったじゃんか」


 ムイノクの能天気な発言に、コウトの前にザレシエがアホかと笑い出した。



「今コウトが言うたやろ、明日食えるようになるって。今狩らんかったら、明日の食事はどうすんねん」


「そんなに食料事情悪いのかよ……」


「お前、冒険者やろ。旅先なんやぞ? 贅沢言うなや!」


 食べ物があるだけマシとアリサが笑うと、ドラガンもそうそうと同調した。

何でこの二人はこんなに達観してるんだと、エニサラとコウトが言い合っている。



 そこからキジを二羽射落として、夜を迎えることになった。

沢の近くで小さな火を起こし、その火を使ってコウトが食事を作った。

アリサが食材の皮むきをするとドラガンもそれを手伝う。


 二人とも皮を捨てず器に溜めていくのを、エニサラとムイノクは不思議に感じていた。

その皮は何にするのとエニサラがアリサに尋ねた。

アリサは、うふふと笑い、後のお愉しみと、剥いた皮を沢の水に浸した。


 コウトは、根菜を茹でてから、腸詰に焼き目を付けると、焼いた腸詰から出た油で根菜を炒め、塩と胡椒で味付けをしていく。

たき火で炙ったパンを切って各人に手渡すと、各々腸詰をパンに挟み根菜を皿に取った。


 六人はそれぞれ食前の祈りを捧げ、夕飯となった。


「旨いっ!!」


 思わずムイノクが唸った。

旅先で食べる料理の質じゃないよと、ザレシエもコウトを褒めた。

ドラガンがアリサに美味しいねと言うと、コウトは頬を緩めた。


 食事が終わると、ザレシエとエニサラが食器や鍋を洗った。

あまり料理の得意では無い二人にできることといえばこの程度である。


 アリサは、その間に枝を拾い、先ほどの皮を巻き付けて、軽く塩を振り、たき火で炙り始める。

食後の酒の肴である。


 そこから六人は、旅初日という興奮もあって、わいわいと話に花を咲かせた。

その後、冒険者の二人に交代で見張りをしてもらい、朝まで眠ることにした。

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