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【完結】抗竜記 ~発明少年、竜世界に抗う~  作者: 敷知遠江守
第二章 『逃避』

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第8話 料理

登場人物

・ドラガン・カーリク…人間。ベレメンド村の発明少年。

・アリサ・ペトローヴ…人間。ドラガンの姉。ごく普通の常識人。

・ベアトリス・プラジェニ…エルフ。行き倒れたドラガンを助けた。

・イリーナ・プラジェニ…エルフ。ベアトリスの母。

・アドリアン・バラネシュティ…エルフ。木漏れ日のジャームベック村の首長。

・マリウス・マチシェニ…エルフ。プラジェニ家と共同で畑を運営している。

・バネル・ドロバンツ…エルフ。エルフの族長。

・リュタリー辺境伯…人間。ベルベシュティ地区の貴族

・ボヤルカ辺境伯…人間。ベルベシュティ地区の貴族

 アリサは昔から非常に社交性が高く、ベアトリスだけじゃなくイリーナも、あっという間にアリサと打ち解けている。


 エルフの中ではどうなのか知らないが、正直イリーナはドラガンからしても料理の味付けがイマイチに感じている。

味が薄い時と塩味がキツイ時の差が激しい。

それを誤魔化そうとしているのか香辛料を大量投入しているように感じる。

ベアトリスにとってはそれが家庭の味なので特に何とも思っていないようだが、どうやらアリサには気になって仕方が無かったらしい。


 プラジェニ家に来て三日目。

アリサはイリーナに料理の仕方を教えて欲しいと懇願した。

イリーナとしても自分が料理が下手という自覚があったのだろう。

最初は非常に嫌がった。

だがアリサに家族の一員として炊事をしたいと言われ渋々教える事にした。


 ベレメンド村の料理の作り方とは根本的に理論のようなものが違うらしく、最初はかなり戸惑っていた。

初回の料理は四人で無言で口に流し込むような状況だった。

そこでアリサは、私の村の料理を基調にしてこの村の味付けを取り入れてみるので試して欲しいと言って一人で食事を作り始めた。

イリーナもベアトリスも初回の失敗作が頭を過りかなり覚悟をした。


 ドラガンからしたら、一見するとよく食べていたいつものアリサのスープに見える。

だが一口食べるとかなり香辛料が効いている。


「旨っ!」


 最初に発したのはベアトリスだった。

アリサはありがとうと微笑んだだけだったが、イリーナは少し複雑そうな表情をしている。


「やっぱ姉ちゃんの料理は旨いね。さすがロマンさんの胃袋を一食で掴んだだけの事はあるね」


 そのドラガンの一言で、それまでニコニコと微笑んでいたアリサの顔から笑顔が消えた。


「あの人は私の料理ではなく私を選んでくれたの! 変な事言わないでよ!」


「あっ……そうだった、そうだった」


 しまったという顔をしてスープを口にしたドラガンをアリサは睨んだ。


「ちょっとドラガン! あなた、あの人から何か聞いたのね?」


「何も聞いてない。何も聞いてないよ」


 滅相も無いという態度をするドラガンにアリサは疑惑の眼差しを向けた。


「本当に聞いてないなら二回も言わないのよ。ドラガン、あの人から何か聞いたんでしょ! 白状なさい!」


「だから何も聞いてないったら!」


 アリサがドラガンの頬を摘まむと、ドラガンは嬉しそうに本当だよと笑い出した。

その横でベアトリスはげらげら笑っており、イリーナは黙々とスープを飲んでいる。


 イリーナはベアトリスに内緒話があるという仕草をして顔を近づけた。

ベアトリスの耳元で小声で何かを囁くと、ベアトリスは顔と尖った耳を真っ赤に染めあげ黙々とスープを飲んだ。



 イリーナの料理は、それを境に劇的に美味しくなった。

それはベアトリスも感じたようで、ぜひ私も料理を教えて欲しいとアリサに懇願した。


 族長の屋敷から戻った翌週から、ベアトリスはアリサに炊事を習う事になった。

ベアトリスは、これまで包丁すら持った事が無かったらしい。

ドラガンですら包丁を使って簡単な料理ができるのに随分と過保護に育てられたんだなとアリサは感じた。


 まずは包丁の使い方を教えようとしたのだが、ベアトリスは苦手意識が先に出すぎてしまい怖がりながら食材を切っている。

手の形だけちゃんとしてれば、そうそう手は切らないからと教えるのだが、包丁を持つ手が震えて少し危険に感じる。


 アリサはそんなベアトリスを見て何かを閃いた。

部屋で何かを必死に作っているドラガンを、手伝ってちょうだいと言って呼びつけた。


 アリサは食材の皮剥きをドラガンにお願いした。

ドラガンは、いつものようにアリサの隣に椅子を持ち出して皮剥きを始めたのだが、アリサに、ベアトリスの正面でと言われてしまった。

ベアトリスは、へっと変な声を出して顔を真っ赤に染めて照れたのだが、ドラガンが皮剥きを始めると、すぐにアリサの意図に気が付いた。


 ドラガンは左利き。

ベアトリスも以前からそれに気が付いてはいる。

こうして正面で包丁を使うところを見ると、鏡を見ているように包丁と手の動きがよくわかる。

じっと見つめていると、ドラガンにどうしたのと聞かれてしまった。

ベアトリスは気にせず続けてと言って、ドラガンの包丁をじっと見続けた。



 その日の夕方。

ベアトリスは初めて料理を完成させた。

以前から料理を習ったらどうかとイリーナから何度も言われていたが、父が存命の頃は何だか恥ずかしく、父が亡くなってからは何だか面倒に感じていて、これまで一度も作った事は無かった。


 アリサは教え方が非常に上手で、具材は火の通りやすさを意識するだけで食感が良くなるとか、ここで味見をして塩分の濃さを確認するとか、ここで味見をして味の整いを確認するとか、とにかくわかりやすい。


 じゃあ食べましょうと言って食卓に着いたのだが、ベアトリスはドキドキしながら皆が食べるのを見ていた。

うん美味しい、最初に言ってくれたのはアリサだった。

初めてなのにこんなに美味しくできるなんて才能あるんじゃないのとイリーナも持て囃した。


 三人の視線はドラガンに注がれている。

ドラガンもその空気を察し、初めて作ったとはとても思えないと笑顔を向けた。


「ほんまに? ほんまにそう思うてくれるん?」


 ベアトリスはパッと顔を明るくしてドラガンに笑みを向けた。


「う、うん」


「ほんま? お世辞やなくて?」


 あまりにもしつこくベアトリスが聞くので、ドラガンも何だか不安になってきてしまった。


「味見したんじゃないの?」


「何遍も味見したよ。その上で、みんなの反応が知りたいんやないの!」


 こういう子なのよと言って、アリサはベアトリスを慰めた。


「上手くできたから褒めて欲しいのに、何でそういうのわからへんのやろ?」


 そうベアトリスが不貞腐れ気味に言うと、アリサが、男の人ってそういうところあるよねと冷たい目でドラガンの顔を見た。

そういえばあの人もそういうところがあったと、イリーナもドラガンを見て言い出した。


 何だか肩身が狭い、ドラガンは俯いたまま黙々と食事を口にした。




 季節は秋になっている。

春に学校を卒業し、ロマンたちと行商に出かけ、襲撃を受けて、ベルベシュティの森で行き倒れた。

木漏れ日のジャームベック村に来て半年が過ぎようとしている。



 エルフは『森の民』と言われているが『風の民』とも言われている。

弓を得物にする者が多く、総じて細身で長身、髪と耳が長い。

人間よりも非力な者が多いが、俊敏さと手先の正確さに定評がある。


 ちなみにドワーフは『山の民』以外に『炎の民』と呼ばれており、サファグンは『海の民』以外に『水の民』と呼ばれている。



 ドラガンはベルベシュティ地区に来て、ジャームベック村以外に、コシュネア村、リベジレ村、ボクシャ村を訪ねている。

そこで二つの玩具に興味をそそられた。


 一つは竹を薄く削ったものに細い竹ひごを刺しただけのもの。

竹ひごを両手で挟み前後に擦ると、薄い竹がくるくる回り、ふわっと宙を舞う。

ただそれだけの玩具である。

何故か、昆虫の『とんぼ』の名前で呼ばれているらしい。

どういう理論なのか聞いたのだが、この形にすると飛ぶという事しか知らないという事だった。


 もう一つが、紙の四隅に切れ込みを入れ竹ひごに差して四隅の片側を中央にまとめて留めただけの代物。

正面から見るとかなり美しい造形美をしており、息を吹きかけるとくるくる回る。

ただそれだけの玩具である。

『紙車』という名前の玩具で、やはりこちらもどういう理論かはわからないらしい。



 ドラガンは、この二つの玩具に異常な興味を示し、暇さえあれば作っているのだった。

ダニエラなど、玩具を貰った子供たちは非常に喜んだ。


 だが、ドラガンが急に玩具作りに精を出し始めた事にベアトリスはかなり不安がっている。

もしかして心が壊れてしまったのではないだろうかと。

それをこっそりアリサに言うと、小さい頃からずっとあんな感じなのよとアリサは困った顔をした。

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