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【完結】抗竜記 ~発明少年、竜世界に抗う~  作者: 敷知遠江守
第一章 『発端』 ~キシュベール地区ベレメンド村~
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第6話 ロマン

登場人物

・ドラガン・カーリク…人間。ベレメンド村の発明少年。

・アリサ・カーリク…人間。ドラガンの姉。ごく普通の常識人。

・セルゲイ・カーリク…人間。ドラガンの父。竜車の御者。

・イリーナ・カーリク…人間。ドラガンの母。畑を手伝っている。

・アルテム・ボダイネ…人間。ドラガンの友人。

・ナタリヤ・ボダイネ…人間。アルテムの妹。

・ハラン・ゾルタン…ドワーフ。ドラガンの友人。

・イーホリ・ザバリー…人間。教師。ドラガンの担任。

・モナシー…人間。工務店を営んでいる。

「常軌を逸してると思わない? 短剣で人質をとって脅すだなんて」


 夕食の食卓でアリサは両親にそう言った。


 ドラガンはまだ気落ちしていて無言で夕飯を口に運んでいる。


 そこからアリサは、これまでのことや、自分が朝頑張って作ったお弁当を捨てられたことなど、事の大小を交えて両親に訴えた。


 だが残念ながら両親にはイマイチ響かなかったらしい。


 人の往来の少ない通りを行けば山賊に襲われるのは日常である。

貴重な荷物を積んでいればその確率はさらに上がる。

大切なのはその現実から身を守ることであり、そのために高い金を払って冒険者を警護に付けるのである。


 子供の社会は大人の社会の縮図なのだ。

そういう出来事を体感し、生きるために重要な『守る』ということを考えていくのである。


 そう父はアリサに説明した。

だがアリサは納得しなかった。


「そんなの間違っているわよ。一歩間違えたら、あの子たち殺されてたかもしれないのよ?」


 そう言って憤った。

娘の剣幕に、セルゲイは面倒くさいという顔をした。


「子供たちの他愛もない諍いじゃないか。騒げば父さんが大袈裟だと笑われるよ」


 イリーナもセルゲイの意見に賛同らしく、うんうんと頷いている。


「諍いは他愛もないかもしれないけど、短剣を持ち出して人質をとったのが問題だって言っているの!」


 アリサは机をパンパン叩いた。


 別に刺されたわけじゃないと面倒そうに言うセルゲイに、アリサは完全に腹を立てたらしい。

机をばんと叩いて抗議した。


「鞘から抜いた時点で論外だって言ってるのよ!! その時点で殺意があるって言ってるの!」


 ならばドラガンにも短剣を下げさせろと、セルゲイはアリサから視線を反らして言った。

だがさすがに、その意見にはイリーナも賛同できなかったらしい。

首を傾げて苦笑いしている。


「そんなの殺し合いになっちゃうわよ……」


 アリサの指摘に、自衛というのはそういうものだとセルゲイは声を荒げた。

さすがのセルゲイも、聞き分けの無い娘に少しイライラし始めているらしい。


 山賊に略奪を受け続け滅びかけた村もある。

逆に、村が自警団を組んで、山賊のねぐらを襲って潰したという例もある。


 カーリク家では御者の仕事以外に農場を営んでいるが、猪や鹿、鳥といった野生の獣によく食害を受けている。


 当然、農園の周囲には、獣落としや虎鋏(とらばさみ)を仕掛けている。

農園警護用に農園内にも竜舎を建てて竜を繋いでいたりもする。


 だからといって食害が無くなるわけじゃない。

野生の獣がいなくなるわけじゃないからである。


 それと一緒で、一時的に山賊を討伐したとしても簒奪が無くなるわけではない。


 生活に困窮すれば人は簡単に賊に身を落とす。

真面目に生産活動しても簒奪を受けたら元も子もないと思えば、馬鹿らしくてやってられなくなる。


 ならどうするか。

多少過剰でも、子供のうちから自衛の知識をつけるしかないじゃないか。


 アリサは理不尽さを感じながらも黙るしかなかった。

残念なことだが父の言う現状はその通りだし、父の言う理論もその通りではある。


「国っていう究極の山賊がいる以上、奪い奪われの関係から逃れることなんてできないんだよ」


 セルゲイは上手いことを言って話が締まったと思ったようだが、イリーナもアリサも首を傾げた。




 翌日からドラガンは、自分の部屋に籠ったまま外に遊びに行かなくなった。

アルテムたちにも会いに行かなくなった。

アリサが様子を見に行っても、小さな黒板に何かを書いては消しを繰り返している。


 心の傷が癒えるまで食事の時以外はそっとしておこう。

アリサはそこから、なるべくドラガンに関わらないようにした。




 アリサにはロマンという三歳年上の恋人がいる。

姓はペトローヴ。

父アナトリーはベレメンド村の村長をしている。


 ロマンは現在、行商の仕事をしている。

行商と仰々しく言うが、ようは『お使い』である。

ベレメンド村で作られたものを竜車に乗せ、山を越え、大きな都市で売りさばき、村人から注文を受けたものを購入し村に戻ってくる。

どこの村でも行っていることである。


 アリサとは、カーリク家に竜車の御者をお願いしに来て知り合った。


 行商を始めて二年。

最初は年老いた先輩行商に付いて行く形だった。

だが昨年先輩行商は引退し、今はロマンが主となっている。

徐々に商売にも慣れ、それなりに儲けも出せるようになってきている。


 そのロマンが、三日後にまた街に向かうことになった。

その前に一緒に湖に遊びに行かないかと誘いを受けたのだった。




 アリサは朝から弁当を作り、おめかしして、お気に入りの藍のワンピースを着てデートに挑んだ。


 ロマンは、薄い金髪に細面の顔、長身という、アリサも思わず照れるほどの良い容姿をしている。

腰には革のベルトを締め、腕の長さほどの直剣を帯びている。


 二人は村を出て人一人が通れる程度の細い道を歩き、森の中を奥へ奥へと進んで行った。


 暫く歩いて、少し開けたところに出ると、綺麗な花の咲く湖畔に到着。


 誰が作ったのか、おあつらえ向きの木の長椅子が置かれている。

そこに二人は腰かけ小さな湖を眺めた。


 ロマンは湖をじっと見つめている。


「君にまたしばらく会えないと思うと、寂しくて仕方がないよ」


 そう甘い声で言った。

その声にアリサは耳を真っ赤に染めた。


「ほんとに? そんなこと言って、街に残した娘にも同じ事言ってきたんじゃないの?」


 アリサは、照れたのを誤魔化すようにそんな言い方をした。

だがアリサの言葉にロマンは馬鹿正直に、そんな娘いないと言い放った。

向こうでは商売だけで手一杯と言って、アリサの目をじっと見つめた。

もはやアリサは頬まで赤く染まり始めている。


 どうだかと言って照れ隠しをするアリサに、ロマンは爽やかな笑顔を作った。


「ならば君の父さんに聞いてみたら良いさ。僕が向こうでどれだけ真面目に仕事しているか」


 あの万事いい加減な村長の息子とはとても思えない非常に真面目な仕事ぶりだと、父は常々言っている。


「そんなに疑うなら君も付いてきたら良いんだよ。そうすれば僕も寂しくないんだし」


 ロマンの言葉に甘い新婚生活を妄想し、アリサは思わず顔がにやけそうになるのをぐっと堪えた。


「結婚したら考えてあげる」


 そう言ってアリサはクスクス笑った。



 結婚自体はもう両家の間では決定事項で、問題は時期だけになっている。

せめてドラガンがもう少し成長してから。

そう言ってアリサが先延ばしにしているのだ。


 母は、ドラガンのことは気にせず、あなたはあなたの幸せを求めなさいと言ってくれている。

父も、ロマンが心変わりする前に一緒になれと言ってくれている。


 ただロマンもドラガンを気にかけてくれていて、アリサが納得したら結婚しようと言ってくれている。

アリサはそのロマンの言葉に甘えているのである。




 アリサは、お弁当作ってきたと言って弁当箱を開いた。


 ロマンは、わおと美味しそうな中身に感動し、おもむろに手を伸ばした。

アリサはその手をぴしゃりと叩くと、手を洗ってからと言ってハンカチを濡らしに泉に行った。


 ロマンは未来の妻の言う事をよく聞いて、濡れたハンカチで手を拭いた。

一口口に運ぶと思わず旨いとうなった。



 食事が進むと、二人の話題はドラガンのことになった。

先日の川遊びの時の話になり、その後の父との会話の話になった。


「セルゲイさんの言う事もわかるけど、僕も子供の喧嘩に短剣を持ち出すのはどうかと思うな。ましてや小さい子を人質って……」


 確かに、対抗して短剣帯びてけというセルゲイの意見は至極真っ当な意見である。

だがそんな殺伐とした雰囲気では、遊んでいても全然楽しくないだろう。


 アリサはロマンに、ドラガンがあれからずっと部屋に籠って、何かを黒板に書き込んでいると話した。


 ドラガンにはその一件で何か考えることがあったのだろう、それがロマンの意見だった。


 自分もそうだったが、男の子はそういうことがあると、それに対抗して頭をぐるぐる巡らせるものなのである。

それが殺傷武器の研究じゃないように、アリサには注意してもらった方が良いだろう。


 ドラガンは心優しい子だからそんなことは無いとは思うが、心に負った傷が大きいと極端な方向に思考が向くこともあるから。



 ロマンは椅子から立ち上がるとアリサの肩に手を置いた。


「このことは父に報告し、隣村に苦情を入れてもらうよ」


 向こうの村でも、子供の諍いに大人が出てくるなという人もいるだろうが、簒奪行為を許せないという人も多いと思うと真剣な眼差しで言った。


 アリサは晴れやかな顔でありがとうと言って、ロマンに微笑んだ。

どうやらその表情にロマンは心を奪われたらしい。

頬と耳を赤く染め、義弟のことなんだから骨惜しみはしないよと、アリサから目を反らして気張った。


 アリサが立ち上がりロマンの胸に手を添えると、ロマンはその手を取り、二人は美しい湖を前に唇を重ね合った。

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