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【完結】抗竜記 ~発明少年、竜世界に抗う~  作者: 敷知遠江守
~ベルベシュティ地区木漏れ日のジャームベック村~

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第47話 水路

登場人物

・ドラガン・カーリク…人間。ベレメンド村の発明少年。

・アリサ・ペトローヴ…人間。ドラガンの姉。ごく普通の常識人。

・セルゲイ・カーリク…人間。ドラガンの父。竜車の御者。死亡。

・イリーナ・カーリク…人間。ドラガンの母。畑を手伝っている。

・アルテム・ボダイネ…人間。ドラガンの友人。

・ナタリヤ・ボダイネ…人間。アルテムの妹。

・ハラン・ゾルタン…ドワーフ。ドラガンの友人。

・ハラン・ドミニク…ドワーフ。ゾルタンの父。桶屋。

・ロマン・ペトローヴ…人間。アリサの婚約者。村長の息子。死亡。

・アナトリー・ペトローヴ…人間。ベレメンド村の村長。

・タルナメラ・クリシュトフ…ドワーフ。ベレメンド村の首長。

・イーホリ・ザバリー…人間。教師。ドラガンの担任。

・モナシー…人間。工務店を営んでいる。

・ラスコッド・ザラーン…ドワーフ。冒険者。死亡。

・ヘオリー・マイオリー…人間。冒険者。

・ベアトリス・プラジェニ…エルフ。行き倒れたドラガンを助けた。

・イリーナ・プラジェニ…エルフ。ベアトリスの母。

・アドリアン・バラネシュティ…エルフ。木漏れ日のジャームベック村の首長。

 目の前の人物がドラガンだと知り、ティヴィレの顔は何かを覚悟したような顔に変わった。


「共有する秘密っていうのは、この事ですか?」


 ティヴィレの質問にヤローヴェ村長は無言で頷いた。


「そうだ。もしバレたらこの村は皆殺しだろう。それを承知の上で、彼の為にさらなる情報を得たいと思ってるんだそうだよ。私も同じように考えている」


「さらなる情報というのは?」


 ヤローヴェは、バラネシュティ首長を見た。

バラネシュティはドラガンに、具体的に何が知りたいんだと問いかけた。


「僕の故郷のベレメンド村がどうなったか、それと僕の家族がどうなったかです」


 自分の状況を考えると、村の人たちと残った家族がどうなったのかが心配とドラガンは説明した。


「僕も情報を仕入れようとロハティンに近づき、冒険者を頼ろうと思っていたんです」


「ロハティンのあの雰囲気だと、旅人が近づくってだけでも困難でしょ?」


「……その前にロハティンに辿り着けませんでした」


 ドラガンの言葉に三人はため息をついた。

改めて、どうやって情報を探るべきかバラネシュティに視線を集めた。


「さっき言うてた、泣いてた冒険者いう人を探せへんやろうか?」


「あのサファグンの女性ですか……どうなんでしょうね。そもそも万事屋常駐の女性かどうかもわかりませんし、残念ながら、美人だなというだけで我々にはサファグンの見分けがつきませんで」


 バラネシュティの提案にティヴィレは苦笑いした。


「確かにうちらもそこまで見分けはつかへんけども。似た人いうくらいはわかったりせへんのか?」


 バラネシュティの指摘にティヴィレは腕を組んで考え込んだ。

考えた上で首を傾げた。


「それで別人だったりしたら、しかも、奴らの方のサファグンだったら目も当てられませんよ」


「……それはまあ、そうやな」


 結局これという案は出ず、一旦解散して、次回の行商の時にもう一度作戦を練ろうという事になった。




 翌日からドラガンは、ジャームベック村のもう一つの問題を解決しようと村のあちこちを歩き回っていた。

プラジェニ家と畑を共同運営しているマチシェニ家のマリウスに状況の説明をお願いした。

マチシェニはベアトリスの三つ上の男性で、好奇心旺盛でおしゃべりが多いエルフの中にあってかなり物静かな人物である。


 エルフの畑は川からかなり離れたところにある。

香辛料は比較的水が少なくても育つものが多いのだが、だからといって水を撒かなくても良いというわけではない。

川の近くの畑は人間たちが所有しており、エルフたちは毎回、川まで桶を担いで汲みにいかなくてはいけないのだ。


 さすがにエルフは知能が高く、かつてこの問題を解決しようとした痕跡はある。

エルフの居住区には道の横に溝が掘ってある。

雨が降った際、その溝に沿って雨水が畑の手前まで流れ、貯水池に溜まるようになっている。


 その溜池から水を汲んで畑に撒くという事をしている。

だが残念ながら、水は常に溜まっているわけでは無く枯れている事が多い。

さらに水が溜まっている時期は蚊が大量発生し、そこから病気になる事もある。

その病気はかなりの高熱が続く病気で致死率も高い。

マリウスの父も祖父も、その病で亡くなったらしい。



 以前ドラガンは、川から支流を掘ったらどうかと提案したことがある。

だがイリーナの反応はすこぶる悪かった。

増水すると氾濫し人間たちの畑を水浸しにしてしまう。

バラネシュティにこの件を尋ねたところ、実際過去にそういった事例があり、人間との協定で禁止されてしまったらしい。


 その最大の原因は人間たちの畑の横にあるちょっとした丘。

その丘を越えた先がエルフたちの畑なのである。

ただ溝を掘っただけでは、この丘を水が超えられない。

川の増水時には一気に水路に水が入り込み、水路から水が溢れ、その丘に阻まれ手前の畑に氾濫してしまうのだ。


 ベレメンド村で雨樋を作った時に、水は高いところから低いところに流れるという事を知った。

不思議な事に、途中が高いところを通ってもその先が低ければちゃんと水は流れる。

恐らくだが、川の上流から水を取って出水口がそこよりも低い位置にあれば水は流れるという事だと思う。


 ドラガンは借りているスコップで、川から畑まで溝を掘っていった。

丘を越え、最終的に雨水を集めている溜池まで溝を掘って繋げた。

だが川は取水口よりも手前を流れており、溝に川の水は流れて来なかった。


 それを見た畑を所有している人間たちが、即座に苦情を言いに来た。

ヤローヴェもバラネシュティも溝を見ると、さすがに良い顔はせず、すぐに埋めるように指示した。

例えドラガンでも許可はできないと。


 ドラガンは二人に、埋めれば問題無いという認識で良いかと問い詰めた。

畑の所有者が溝を埋めれば文句はないと言うので、ドラガンはすぐに埋めると約束した。

その上で、下流の畑の『あぜ』部分なら溝を掘っても構わないか尋ねた。

畑の所有者は、畑よりも低い場所なら溝を掘っても良いと言ってくれたのだった。

畑の所有者としても、下流のあぜに排水の溝があるのはありがたかったりするらしい。



 ドラガンはエルフたちの手を借り、上流の溝に竹を五本埋め込んだ。

埋めた竹は節が抜かれており管になっている。

幹側の太いところに細い側を差し込んでいき、接合部分は粘土で囲った。


 その一方で、下流のあぜの溝はマチシェニにお願いし、エルフたちに手伝ってもらい川まで掘ってもらった。

さらに、そのあぜの溝にエルフの畑の溜池からも溝を掘り繋げてもらった。



 一週間ほどエルフたちを総動員して何とか溝を掘りきった。

その頃には人間たちの中でも、エルフたちが必死に何かをしていると話題になっていた。

人間たちも何をしているのか興味津々で見に来ている。


 最後に、川の中から地中の管へ向けて竹が差し込まれた。

川側は半分が切り落とされていて、残った半分が川の流れを受けるような形になっている。

五本の竹は長さを調整してあり、長い二本が下流、短い二本が上流になるように差し込まれている。


 一本目の竹が差し込まれたところで、畑からエルフの歓喜の声が聞こえてきた。

どうやら溜池側の管の出口から川の水が溢れ出てきたらしい。

二本三本と差し込んでいくと川の水はどんどん多くなっていき、五本差し終えると完全に支流といえる水量が溜池に流れ出たのだった。


 川側の五本の管は、最後に大きな石を積んで完全に固定。

連結部を粘土で固め、最後の溝を埋め水路が完成した。



 人間たちも出来上がった水路にかなり驚いている。

確かに自分たちの畑より高いところに水路を掘るなと言った。

まさかそれをこういう形で水路を作ってくるとは。



 その日の夜、溜池に村中の人が集まっていた。

溜池の周囲に竹を立て、提灯を飾り、皆で酒盛りを始めた。

たまたまその日は満月で、大人も子供も月明かりの下大はしゃぎであった。


 酒屋は酒樽をひと樽運んできて、エルフたちはアプサンを持ち出し、食事処も食べ物を用意し、村をあげての大宴会となった。

普段、物静かなマリウスが大喜びしており、エルフたちに囲まれ酒を呑みまくっている。




 翌朝ドラガンの元に、エルフの子供たちと人間の子供たちが訪ねてきた。

ベアトリスと共に子供たちに手を引かれ水路に向かうと、溜池にも子供たちが待っていた。


 子供たちは、凄いものが見れるから溜池を見てみてとドラガンたちに促した。

ドラガンとベアトリスが溜池を覗くと、なんと大きなニジマスがいたのだった。


 この溜池は、数日前には『ボウフラ』が大量に沸き、沼のような異臭を発していた。

鳥たちですら近寄らない、そんな場所であった。

川の水が流入した昨日ですら、まだどこか臭いが残っていた。

それがわずか一日で川魚の住処になったのだ。


 ベアトリスはドラガンの顔を見て、どんなに酷い状況でも良くする事ってできるんだねとニコリと微笑んだ。

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