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【完結】抗竜記 ~発明少年、竜世界に抗う~  作者: 敷知遠江守
~西府ロハティン~

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第36話 失意

登場人物

・ドラガン・カーリク…人間。ベレメンド村の発明少年。

・アリサ・ペトローヴ…人間。ドラガンの姉。ごく普通の常識人。

・セルゲイ・カーリク…人間。ドラガンの父。竜車の御者。死亡。

・イリーナ・カーリク…人間。ドラガンの母。畑を手伝っている。

・アルテム・ボダイネ…人間。ドラガンの友人。

・ナタリヤ・ボダイネ…人間。アルテムの妹。

・ハラン・ゾルタン…ドワーフ。ドラガンの友人。

・ハラン・ドミニク…ドワーフ。ゾルタンの父。桶屋。

・ロマン・ペトローヴ…人間。アリサの婚約者。村長の息子。死亡。

・アナトリー・ペトローヴ…人間。ベレメンド村の村長。

・タルナメラ・クリシュトフ…ドワーフ。ベレメンド村の首長。

・イーホリ・ザバリー…人間。教師。ドラガンの担任。

・モナシー…人間。工務店を営んでいる。

・ラスコッド・ザラーン…ドワーフ。冒険者。死亡。

・ヘオリー・マイオリー…人間。冒険者。

(どうしてこんなことになったのだろう……)


 三人の墓を前にドラガンは泣きながら考えた。

だが、何ひとつ理解できなかった。


 何一つ悪い事をした覚えはない。

そもそも自分たちは被害者のはずなのに。

なんたる理不尽。


 姉ちゃんに会いたい……

先ほどチェレモシュネにはそう言った。

だが、会って姉ちゃんに何て言えば良いというのだ。

父さんもロマンさんも死んじゃった。

そんな事、姉ちゃんに言えるわけがない。


 先ほどミハイロは村には帰らない方が良いと言っていた。

一体どういう意味なのだろう?

村に帰らないのならどこへ行けというのだ。

ロハティンに戻れば殺してくれと言っているようなものである。



 ……お腹がすいた。



 竜車に戻ってみたが自分の荷物が見当たらない。

父さんの荷物も、ロマンの荷物も、ラスコッドの荷物も、マイオリーの荷物も無い。

母さんに叱られてまで持ってきた毛布も無くなっている。

筆記用具、算盤、紙、そんな物すら無い。

当然のように銅銭一枚落ちていない。



 墓の前に座り誰か人が通るのを待った。

だが、いくら待っても人一人通る気配が無い。


 三人の墓を、じっと見つめる。

これでは誰の墓かわからない。

そう思ったドラガンは腰の短剣に手を伸ばしたのだが、そこに短剣は無かった。

少し思い返すと、短剣は荷物と一緒に置いていたのだった。

つまり一緒に取られてしまったのだ。


 やむを得ず、ラスコッドの暗器で三人の墓に名前を掘っていく。

もしかしたらロマンとラスコッドの名前の綴りは誤っているかもしれない。



 ふいに後ろから笑い声が聞こえた気がした。

焦って振り返ったが誰もいない。

恐らく草が風になびいた音が、そう聞こえたのだろう。


”身ば守る術は武器だけやなか。頭脳も立派な武器になる。お前は武術じゃなく頭脳ば鍛えたら良か”


 ラスコッドの声が聞こえた気がした。

振り返ってみたが当然のように誰もいない。



 頭脳を武器に……

先ほどの山賊チェレモシュネは、何であんなに優しかったのだろう?

本来自分たちに優しいはずの公安が自分たちを敵視し、反対に山賊が自分に優しい。

これが意味する事は何だろう?


 考えられる事はいくつかある。

山賊の哀れみを買うほど、自分の境遇は落ちぶれているという事だろうか?

それとも、公安に敵視された自分は山賊から見たら敵の敵と思ってもらえたとか?

ここまで酷い目に遭えば、いづれ自分たちの仲間になると思われたのだろうか?


 色々わからないことばかりだが、一つだけはっきりしていることがある。


「竜産協会と公安は敵」


 ドラガンはそう呟いた。


 何故、あんなやつらにマイオリーは降伏したのだろう?

色々を問題を起こす人ではあったし、お世辞にも性格の良い人では無かった。

だが、あんな風に仲間を足蹴にする人では無いと思っていた。



 ふとドラガンは立ち上がり、走って襲撃現場を探し始める。

恐らくまだ大量の血が残っているはず。

街道を走り、急に竜車が停まったのだから街道沿いのはずなのだ。


”この鍵はどこの鍵だ?”


”それは、このドワーフの家の鍵だ”


 あの時マイオリーは『家の鍵』と説明した。


 違う!

あの鍵は、この小箱の鍵なんだ!

多分マイオリーも知っていたはず!

あの時ラスコッドが自分にこの小箱を託したから、あんな事を言ったんだ!



 四つん這いになり手を血で滑らせながら必死に探しやっと見つけた。

小箱の鍵にしてはかなり大きい鍵。


 小箱の鍵穴に差し込み回すと、カチリと音がし鍵が外れた。

蓋を開けると、金貨が二枚と丸まった紙が入っている。


 丸まった紙には小さな文字がびっしり書いてあった。

その冒頭だけ読んでドラガンは涙が溢れ、それ以上は読めなくなってしまった。


”ドラガンへ。この手紙をお前が読んでいるという事は、俺はもうこの世にはいないのだろう”


 ドラガンは涙で手紙が滲まないように手紙を元の小箱に戻し鍵をかけた。

今は読めない。

読んだら心が挫けてしまいそう、そう感じた。


 すぐ近くに巾着の布袋を見つけた。

行商の筆記用具やら各種書類やらを入れていた袋だ。

書類はその辺に散乱しており筆記用具は持ち去られた。

巾着の袋だけ捨てて行ったらしい。



 今からどうするべきか。

ありがたい事にラスコッドがお金を残してくれた。


 マイオリーが言っていたが、ここで夜を迎えてしまうと野獣の餌食になってしまう。

まずは、もっとも近いエルヴァラスチャの休憩所を目指そう。

そこで、ゆっくり今後の事を考えよう。


 ドラガンは最後にもう一度墓に手を合わせ、来た道を歩いて戻った。 


 陽はどんどん落ちて行き空は赤く染まっていく。


 竜車で来た時は出発してすぐに感じたのだが、歩いて戻ると中々到着しなかった。



 途中に小さな川があり、そこに映った自分の姿にびっくりして腰を抜かしそうになった。

顔が血まみれだったのである。

ふと両手を見ると両手も血まみれ。

すでに血は乾き赤から黒に変色している。


 慌てて手と顔を川の水で洗い流した。

服も所々に血がついているが、これはどうにもならない。



 結局エルヴァラスチャの休憩所にはたどり着けず、その手前の、そこそこの大きさの休憩所で夜を明かす事になった。


 もうすっかり陽が落ちている。

月明かりが薄っすらと照らす道を、ただ一人とぼとぼと歩き、やっとの事で辿りつた休憩所だった。


 休憩所の管理人はドラガンを一目見て、料金は前払いだと冷たく言った。

行きも帰りも竜車に乗っていた時は後払いだったのに。

ドラガンが金貨を出すと管理人は急に笑顔を作り、おつりを戻し、まだスープも肉も野菜も残っていますのでごゆっくりと言った。



 団体客がいないと休憩所はここまで静かなのか。

静寂が喪失感に支配されきった体に痛いように沁みる。

焚火を見ながらパチパチ音を立てる薪に、少しだけ心が安らいだ。


 スープも焼けた肉も、前回と違ってかなりしょっぱく感じる。

瞳から溢れた雫がまた頬を伝った。

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