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【完結】抗竜記 ~発明少年、竜世界に抗う~  作者: 敷知遠江守
~西府ロハティン~

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第32話 協議

登場人物

・ドラガン・カーリク…人間。ベレメンド村の発明少年。

・アリサ・ペトローヴ…人間。ドラガンの姉。ごく普通の常識人。

・セルゲイ・カーリク…人間。ドラガンの父。竜車の御者。

・イリーナ・カーリク…人間。ドラガンの母。畑を手伝っている。

・アルテム・ボダイネ…人間。ドラガンの友人。

・ナタリヤ・ボダイネ…人間。アルテムの妹。

・ハラン・ゾルタン…ドワーフ。ドラガンの友人。

・ハラン・ドミニク…ドワーフ。ゾルタンの父。桶屋。

・ロマン・ペトローヴ…人間。アリサの婚約者。村長の息子。

・アナトリー・ペトローヴ…人間。ベレメンド村の村長。

・タルナメラ・クリシュトフ…ドワーフ。ベレメンド村の首長。

・イーホリ・ザバリー…人間。教師。ドラガンの担任。

・モナシー…人間。工務店を営んでいる。

・ラスコッド・ザラーン…ドワーフ。冒険者。

・ヘオリー・マイオリー…人間。冒険者。

 ドラガンたちは、公安の事務所を出ると待機宿へ戻った。


 既にキシュベール地区の行商隊は出発した後で、待機宿は明日からは別の地区の行商隊が宿泊する。

ドラガンたちは無理を言って、もう一泊させてもらう事になったのだった。


 ラスコッドとマイオリーは、待機宿で三人の帰りを待ち続けていた。

マイオリーは、待っている間、延長分は支払われるのか、今回の事は特別手当は出るのかと、護衛費の話ばかりしている。

ラスコッドは、そんなマイオリーに苛々し続けていた。

それも含めての護衛費だという事が何故この人間には理解できないのだろう。

何もトラブルが無いのならば護衛なぞ必要無い。

何故、その程度の事がわからないのだろう。


 三人が公安事務所に行ってから何人もの冒険者が待機宿を訪れた。

主にドワーフと人間が様子見に来ていたがサファグンも来ている。

皆それぞれに仕入れた情報をラスコッドの耳に入れておこうと思ったらしい。


 当然、情報の中には真贋怪しいものが多数含まれている。

多くは些細な情報だった。

逮捕者が何人出たやら、行商隊を中傷で逮捕しようとしているやら、冒険者の中にもやつらの仲間がいるやら。

ほとんどはラスコッドが想像する範疇の話である。

ただその中に、公安の責任者であるイレムニア委員長が竜産協会から賄賂を受けているというものがあった。


 エルフが掴んだ情報らしく、顔を合わせると不快に思われるからと、わざわざサファグンを通して報告してきた。

つまり今回の事は公安も共犯であり、ロマンたちはかなり厳しい立場に置かれていると言いたいらしい。

サファグンの女性は、ロマンさんたちはどこにと尋ねた。

公安に捜査協力と言われ連れて行かれたと言うと、サファグンの女性は遅かったと呟き、急いで万事屋に戻って行った。



 それから暫く来客が途絶えた。

相変わらずマイオリーは、こんな護衛受けるんじゃなかっただの、大損だだのと文句ばかり言ってラスコッドを苛々させている。

しまいには、ラスコッドは槍の鞘を外し柄を抱えだした。

それを見たマイオリーはかなり萎縮し、ついには待機宿から出て行った。


 次に報告に来たドワーフは、今、万事屋で例のエルフ二人が策を練っているから絶対に短気を起こさないようにとラスコッドを宥めた。

恐らく槍を剝き身で構えている姿に我慢の限界だと勘違いしたのだろう。


 そこから暫くして、サファグンの女性が波がかった長い銀髪をたなびかせて戻ってきた。

竜産協会は逮捕者の一人を「尻尾切り」して、全てをその人物のやった事とするつもりらしい。

そう報告した。

それでこの件の幕引きを図るつもりらしいと。


「でもね、安心して。うちらこの後もずっとこの事を問題だって騒ぎ立てちゃるけえ」


 そう言ってサファグンの女性はラスコッドの手を両手で握った。


「バカちんが。そげん事したら、今度はお前らが逮捕されるぞ」


 ラスコッドの言葉は、まるで親が娘を叱るような厳格な口調であった。


「せやあないよ。うちらにゃあエルフの知恵がついとるけえ。あがいなやつらに負けんのじゃけえ」


 サファグンの女性は綺麗な顔に満面の笑みをたたえた。


「やめとけ。地区全体、いや行商隊全員に迷惑がかかるような事になりかねん」


 ラスコッドは少し強い口調で忠告した。

サファグンの女性は叱られたと感じたらしく、薄い唇を噛み若干不貞腐れたような表情で頷いた。

特徴のある大きな丸い目は、ラスコッドから横の壁へ視線を反らしている。


「ねえ。今度来た時、お酒ちゃんと奢ってよね。約束じゃけぇね」


 サファグンの女性は、不貞腐れたような表情のままラスコッドから目を反らして言った。


「お前、名は何て言うたい?」


 ラスコッドは、サファグンの女性の端正な横顔をじっと見つめている。


「……リュドミラ・アルサ」


「リュドミラか。わかった。次来た時に奢っちゃるばい」


 そう言ってラスコッドは口元を緩めた。

困った娘だとでも言うように少し呆れた口調だった。


「約束じゃけぇね! 忘れんでね!」


 リュドミラは嬉しそうに、足取り軽く待機宿から出て行った。

その頬は少し赤かったが、恐らくラスコッドは気が付かなかっただろう。

ラスコッドは恐らく忘れていた。

ドワーフは姓名で名前を言うが、サファグンは名姓で名前を言うという事に。


「うるさか女子ばい……」



 昼過ぎ、ロマンたちは待機宿に帰って来た。

槍を剥き身で構えているラスコッドの姿に、ロマンとドラガンはギョっとした。

セルゲイも思わず腰の剣に手をかけ、周囲をキョロキョロと見まわす。

ラスコッドは、すまんすまんと言って笑い出し、マイオリーの奴があまりにもうるさいので、こうして黙らせていたと言って槍に鞘を履かせた。


 とりあえず昼食にしようとロマンが言い、四人で酒場『紅鮭亭』へと向かった。

酒場に入り昼食を四人分注文すると、四人は無言で腹ごしらえをした。


「セルゲイさん、どう思います? 僕は、このまますぐ街を去った方が良いと思うのですが」


 ロマンの提案にセルゲイは、今から出てもエルヴァラスチャまでは辿り着けないと回答した。

恐らく途中のビフォルカティアに宿泊になる。

そうなると、翌日、夜にイザードに行く事になる。

つまりヴィシュネヴィ山を、山賊のいる道を夕方に登山する事になってしまう。

それは極めて危険だろう。


「行きと違って荷は軽いですよね?」


 確かにロマンの言う通り、行きで乗せていた商品はその多くが売れている。

その分荷車は軽くなっており、行きより速度は出せるだろう。

それでも購入依頼の品があり、そこまで荷が軽くなっているわけでは無い。


 それと最大の問題は、自分たちだけという事である。

はぐれた行商など、山賊からしたらこれほど恰好の獲物は無いであろう。


「じゃあセルゲイさんは、明日の朝の出立を希望ですか?」


 ロマンの問いかけに、セルゲイは腕を組んで悩んでいる。


「難しいところだな。あの公安の感じだと、今晩中に何かされるかもしれないものなあ……」



 ロマンとセルゲイは、かなり悩んでいる。

ドラガンは、なるべく早く街を出た方が良いという意見だった。

一方のラスコッドは、朝出立し、行けるところまで行き、陽の高いうちに宿泊所で休もうという意見だった。

それだと何日かかるかわからないとセルゲイは指摘したが、ラスコッドは、安全を考えればそれが一番だろうという事だった。

いづれにしても、なるべく早くロハティンは脱し街道を行くべきというのは四人の共通の意見ではあった。


 待機宿に戻った四人だったが、マイオリーがまだ戻っていない。

探しに行くにしても、どこにいるかわからないし、行き違いになる可能性も高い。

もう置いて行きたいところではあるが、あんな護衛でもいないと戦力減になりさらに危険が増してしまう。

渋々四人は、マイオリーが帰ったらすぐに出立できる体制を整え、じっと帰りを待った。



 そこからどれだけ待っただろう。

夕方になってもマイオリーは帰って来なかった。

陽が落ち、四人ががっかりしているところにマイオリーは帰って来た。


 満面の笑みで銀貨を四枚見せ、競竜で勝ったから、これから一杯やりに行こうと言い出した。

ラスコッドはカチンと来て拳を握ったが、ロマンから事情を知らないから仕方ないと諭され、マイオリーを睨みつけたまま唇を噛んだ。


 さすがのマイオリーでも四人の様子がおかしいことには気が付いた。

何があったのか恐る恐る尋ねる。

ロマンが、なるべく早くロハティンを発つべきという話でまとまっていたと説明すると、マイオリーは気落ちして、申し訳ないと謝罪した。


「やむを得んだろう。明日、日出と共にここを発つ事にしよう」


 セルゲイの言葉に、ロマンとラスコッドは小さくため息をついて頷いた。


「本当にそんなに危険なのか? だって犯人は捕まったんだろ?」


 俺たちは何も悪い事なんかしてないはずなのに、何でそんな夜逃げでもするかのように。

そうマイオリーは首を傾げた。


「おめでたいやつだな……お前さんも良い歳なんだから、悪い事をしてなくても悪者になる事があるって事ぐらいわかるだろ」


 セルゲイの説明に、マイオリーは、やるせないという顔をしている。


 まだ何か言いたげなマイオリーを無視し、ロマンは、今日は交代で休もうと提案した。


「御者んお前は、しっかり寝といてくれ。お前が倒れたら、俺たちは、お終いになってしまうけんな」


 ラスコッドがセルゲイの肩に手を置くと、セルゲイは無言で頷いた。

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