冒険者パーティーで役立たずだった私の本当の役目
不快な表現等があります。
予めご了承ください。
このような展開になることは予想できていた。
パーティーで一番の無能であり邪魔な存在である私を事故に見せかけて始末しようとする。
今、私達の100メートル程先で眠っているのは岩石竜。
討伐ランクでいえばAランクに匹敵する魔物である。
私達の冒険者ランクはBランク。
4人パーティーである私達の実力では、死力を尽くして漸く討伐できるかの魔物だ。
「カグラ、前から思っていたんだが、お前は俺たちのパーティーには必要ないんだよ」
パーティーのリーダーであるルークが私に向かって言い放つ。
前衛として俊敏な動きで敵を翻弄させ、私達の指揮も担っている剣士である。
出会った頃は、真面目で自分の剣の腕を磨くことしか考えていない向上心の塊のような好青年だったが、パーティーメンバーが増えていき冒険者ランクも上がったことで、自分に自信がついたのか傲慢な人間になってしまった。
更には女の身体を知ったことで頻繁に娼館通いになり、パーティーメンバーにすら手を出す始末。
しかし、パーティーメンバーもルークの行いを咎めず積極的に身体を差し出している。
あの雰囲気は間違いなくルークに惚れているのだろう。
こんな男のどこがいいのか私には理解不能だった。
そしてルークは複数の女を抱いているにも関わらず私にも手を出そうとしてきた。
最初は水浴びを覗く程度のものだったが、段々とエスカレートしていき私の部屋に忍び込み寝込みを襲われたこともあった。
初めて男から身体を弄られたことに恐怖し、咄嗟に金的を蹴り上げたことで難を逃れたが、その時以降ルークから私怨を向けられるようになった。
そんなルークから遅効性の麻痺薬を飲まされていたようで、この場に私は倒れ込んでいた。
手足が痺れて全く力が入らない。
自力で立ち上がるのも叶わない。
麻痺薬の効果で声を発することもできない。
いつもは私のことなんか侮蔑の眼で見ていたのにも関わらず、今回だけは岩石竜を相手にするからとルークの自費で購入した魔力増幅薬を渡された。
普段の私はパーティーの雑用係を任され、寝る間も惜しんで受注した依頼の下調べや食料の買い出し、回復薬などの調達、その他野営をするために必要な必需品を買い揃えたりしていた。
もちろん消耗品もあるため、無くなりそうだと判断した時はその都度購入をしていた。
更には全ての会計も担当しており、パーティーで稼いだ金銭から経費を差し引いてメンバーへ残額を配当する。
私は依頼を受けても、メンバーの身体強化魔法を使うのみで直接戦闘には参加しない。
そのため私の配当はごく僅かだ。
自分のために使う金銭などあるわけもなく、一泊分の宿代を払えるくらいしか手元には残らない。
このパーティーが結成して以来、メンバーが増えたことで私は徐々に不当な扱いをされるようになっていった。
何度もこのパーティーを抜けたいと思っていた。
でもそれは出来なかった。
そしてその結果がこれだ。
初めてルークから渡され魔力増幅薬が嬉しくて、岩石竜と戦う前に少しだけ飲んだ。
しかしそれは、外観は魔力増幅薬の容器であったが中身をすり替えた麻痺薬だった。
ルークは私をここで殺す気だった。
だからいつもよりも高難易度の岩石竜の討伐を自ら引き受けたんだ。
自ら高難易度の依頼を受けると言ったときは、昔のルークに戻ったような気がして嬉しい気持ちにもなっていたが、どうやら違ったようだ。
全ては私をここで岩石竜に喰わせて依頼失敗による不慮の事故として処理するつもりだろう。
一年くらいの付き合いではあるが、まさかここまで堕ちてしまうなんて人間とはわからないものだ。
「ごめんね〜。あなたって才能がないし、ずっと邪魔だなって思ってたのよね〜」
パーティーの魔法使いであるエレナが私を嘲笑う。
魔法使いとしては才能があるが、性格は最悪だ。
自分より下の人間に対しては、陰で魔法の練習という名目で攻撃魔法を使って痛めつけたりしている。
勿論、私も何度も実験台にされた。
その度に裸にさせられて服で隠れる部位を何度も火魔法で炙られたり、水魔法で窒息寸前まで溺れさせられたりもした。
森の中では土魔法で作った巨大な落とし穴に落とされたりして、両足の骨を折ったこともあった。
エレナはいつも相手の痛みや恐怖を感じている様子を笑いながら見ている。
更には私のことを蹴落とそうと考えたのか、私のありもしない噂を吹聴していた。
男を誑かして宿のベッドによく連れ込んでいる。
隣の部屋からカグラの煌びやかな声が聞こえてきて耳障りだ。
頼んだら簡単に一緒のベッドで熱い夜を過ごせる……など、明らかに私を侮辱する内容の噂を広めた。
自分で言うのも何だが、私は容姿だけは優れていた。
背中まで流れる黄金色の髪に、少し吊り目だが碧眼でスタイルも良かった。
年齢に合わず胸だけは成長して、引っ込むべきところは引っ込んでいた。
街中ですれ違えば、誰もが振り返るほどだった。
しかし、それも含めてエレナにとって私は邪魔な存在だったんだろう。
そのせいで、冒険者の男達から裏道に連れ込まれて無理やり犯されそうになったこともあった。
その時は大声で助けを求めたことで近くにいた騎士に助けられた。
エレナは直接攻撃してきたりすることもあるが、周りに指示をして自分の手を汚さないという計画性の良さから非常に厄介な女だ。
「そうね。カグラがいなくてもわたくし達は強いもの。お荷物な女はここで死んだ方がマシよ」
パーティーの回復役であるマリアが続けて言い放つ。
マリアは教会の聖職者でもあり、希少である聖魔法を扱いどんなに重傷であっても死んでさえいなければ回復させることができる。
とはいっても、重傷を負った人間を回復させるための聖魔法は大量の魔力を消費するため頻繁には使えない。
そのため、万が一のことを考えて普段は聖魔法の行使はせずに魔力を温存している。
聖職者であるはずのマリアも私に対して暴漢に襲わせる計画を立てられたことがある。
突然マリアに手伝って欲しいことがあると夜中に呼び出されて、一緒に向かった廃墟に待ち構えていたのは複数の男達。
マリアの指示により一瞬で暴漢達は私に襲いかかってきた。
衣服を破られ手足を抑え込まれた私は身体強化魔法を使って何とか抵抗し続け、一瞬の隙をついて廃墟から逃げ出した。
暫くの間、その男達から逃げ回りボロボロになった姿の私を騎士が発見して保護された。
衣服も破れ疲弊した状態で宿に帰ると既にマリアがいた。
すぐにマリアを問い詰めたが「カグラは男遊びが好きだと聞いたから、厚意で用意したのに気に入らなかったかしら?」と嘲笑いながら言ってきた。
その言葉に怒りが込み上げそのまま身を任せてマリアを殴り掛かりそうになったが、何をしても私の言葉が伝わることがないと察して諦めた。
そんなマリアも私を本格的に始末するために今回の行動に出たというわけだ。
「やっとこの時が来たね。こんな目障りな女なんか早く死んじゃえばいいのに!」
私に指を差しながら言ったのは、パーティーの斥候でもあるフィオナ。
背が小さく、小柄だが透明化することができるスキルを保有しているため、斥候役としては引く手数多な存在だ。
フィオナは積極的に私を害することはなかったが、エレナやマリアの私に対する暴挙を認識していたにも関わらず我関せずを貫き通していた。
私がエレナの魔法攻撃の実験台になっているのを一緒になって嘲笑っていた。
私の男好きという噂もエレナと一緒に積極的に広めていた。
でもある意味では私にとって一番マシな存在である。
何故なら私に直接は干渉してこないため、他の3人に比べたら害がないからだ。
しかし今までと違い、今回の私を始末する計画には積極的に参加したようだ。
フィオナは斥候役として偵察だけでなく、罠を仕掛けたりすることも優れていた。
そして今、私には魔物を足止めするために設置するトラバサミが右足に食い込んでいる。
どうやら事前にこの場に埋め込んでいたようで、それに私がまんまと引っ掛かったわけだ。
私の右足にはトラバサミの刃が食い込んだことでドクドクと血が流れ、更には骨も折れているだろう。
麻痺薬だけでも十分なはずなのに、念の為かトラバサミで身動きができないようにするなんて用意周到なことだ。
「さて、あとは岩石竜を誘き寄せてカグラを食べてもらおうか」
「そうね〜。やっとこの女を始末できて嬉しいわ〜」
「それよりエレナ。瞬間移動の準備はできてる?」
「もちろんよ〜。一回分なら瞬間移動が可能な魔力があるのはマリアも知っているでしょ〜」
「ふふ、そうね」
瞬間移動は高位魔術であるが、行使するには膨大な魔力量が必要だ。
ただの冒険者であるエレナが行使できるだけでも、充分称賛に値するが唯一欠点がある。
それはエレナの魔力では瞬間移動を一度行使するだけですぐに枯渇してしまい、身動きもできなくなってしまう。
そのため普段は緊急事態でもない限り、瞬間移動の行使はしない。
しかし、今回であればこの場から私を除いた4人を瞬間移動させて逃げればいいだけ。
それだけで何の問題もない。
「ならあとは私が透明化スキルであの岩石竜を刺激してくるだけだね!」
「ああ、頼んだぜフィオナ」
「なら私も瞬間移動の詠唱始めちゃうね〜」
「さっさと終わらせて街に帰りましょう?」
フィオナが透明化スキルによって姿を消した。
そしてエレナが瞬間移動するための、詠唱を開始する。
ルークとマリアは退屈そうに私を見下ろしていた。
「いやー、折角だからカグラを最期に犯しておけばよかったな」
「あら、私達の身体では満足できないのかしら?」
「そんなことねーよ。ただ男ってのはいろんな女を抱きたいって思うだけだ」
「なら、今日から私たちだけで満足するようにしてあげなくちゃね」
最期に聞く会話がこれか。
ルークとマリアは目の前で抱擁しながら口付けをしている。
そんな2人を見ていると、私の背後から地響きがしてきた。
そしてその音は徐々に近づいてくる。
「みんなー! 早く逃げようー!」
「よし! エレナ、準備はいいか!」
「もちろんよ〜。いつでも瞬間移動できるわ〜」
「ならすぐに逃げましょう。わたくし達まで巻き添えなんて御免だからね」
フィオナが走って逃げ帰ってくる。
そしてエレナが発動させた瞬間移動の魔法陣が地面に輝く。
魔法陣の中に4人が入り、最期に私を見下ろしながら各々言葉を発する。
「じゃあなカグラ。お前を犯せなかったのが最後の心残りだぜ」
「こんなことをしてごめんね〜。でもあなたって存在が鬱陶しかったのよね〜。だからこれは仕方がないことなのよ〜」
「カグラのことは聖職者であるわたくし自らが、名誉な死を遂げたと報告しておくから気にしないでね」
「ばいば〜い、カグラちゃん!」
そう言って4人は瞬間移動によって姿を消していった。
この場に残されたのは私1人。
トラバサミで身動きも出来ず、麻痺薬で身体の自由も効かない。
そして迫り来る岩石竜。
このままでは私は岩石竜の餌食となり死ぬだろう。
パーティーメンバーによって計画された事故に見せかけた殺人。
私はあのパーティーではどんな存在だったのだろうか。
容姿だけが良くて、他の女性達から疎まれるだけの存在だったのか。
男達にとっては尻軽女とでも思われていた存在だったのか。
まあ、今更そんなことはどうでもいいか。
これで私の役目は終わりなのだから。
◇◆◇
私はナイジェル王国の第一王女セシリア・ナイジェルとして生を受けた。
生まれた当初から後宮へと囲われて、籠の中にいる鳥のように全く自由のない生活をしていた。
初めの頃は王族だからこのようなものだと思っていたが、どうやら私には別の理由があった。
それは私が生まれた時から膨大な魔力を保有していたから。
歴史の背景からも私ほどの魔力を保有しているのは稀有な存在であったため、他国に私の存在を知られないように後宮へと囲われたのだ。
後宮にいる侍女なども王族に絶対的な忠誠を誓っているものだけで集めて、私が成人するまで存在を秘匿し続けた。
成人するまでの間は、保有している魔力を安定して行使できるように魔力制御から習得した。
どうやら私の魔力は魔法使いであれば近くに寄るだけで魔力酔いをしてしまうほどに膨大なのだという。
逆に魔力を殆ど保有していないものであれば、何も感じないらしい。
この国にも魔法使いは数多くいるため、私の魔力が膨大であることを認知されないために魔力制御によって自己の魔力を隠蔽する技術は必須であった。
魔力制御は一見簡単そうに思えたが、全く習得することができなかった。
普通の魔法使いであれば、半年程度で習得ができるのに対して私は魔力が膨大なのが影響して、一般的な魔力に感じさせるように制御するのができなかった。
結果的には一般的な魔法使いレベルまで魔力を制御できるようになるまで、3年の月日を要した。
その後は、実際に魔法を行使してみる訓練に移行した。
初めて魔法書に記載されている魔法の呪文を詠唱して魔法を使った時は驚きもあったが嬉しい気持ちになった。
火・水・土・風魔法として基礎的なものから、空間を意のままに扱う瞬間移動や重力魔法、更には聖魔法まで行使ができるようになった。
そして味方に付与する魔法として身体強化魔法や魔力譲渡なども習得した。
12歳になる頃には、すでにこの国にいる魔法使いの中でも最も優れた存在になっていた。
歴史上では一度だけ魔法に優れた者に対する称号として『賢者』というものが与えられていたが、明らかにそれを凌駕する私には歴史上で初となる『大賢者』という称号が与えられた。
そして15歳になり成人になったことで、少しずつ第一王女の存在が噂せれるようになってきた。
そんなことから私も将来のことを考えるようになり、一番最初に思いついたのが嫁ぎ先についてだった。
何故なら2つ歳が下の妹である第二王女フローラが他国の王族と婚姻が決まったためだ。
私という強大な力を保有している者を他国に嫁がせるわけがないので国内の貴族との婚姻は確実だろう。
しかし、一度も公の場に出席したことがない第一王女だったために貴族間で様々な噂が広まっていた。
国王陛下である私の父からは病弱であるため自室から出るのが難しかったという説明をしていたらしいが、これを信じる者は少なかった。
娼婦から生まれた子供ではないか。
人前に出られないほど顔が醜いのではないか。
王族の象徴を持って生まれなかったのではないか。
そんな噂が広がっていたようだ。
私の侍女達は身勝手な噂に心底腹を立てていたが、あくまで噂は噂。
私が公の場に出たらその噂はすぐに消え去るだろうと考え、侍女達を宥めたりしていた。
噂の多い私ではあるが、婚姻は避けることはできない。
健康体で子供を産めるのであれば王族の血を後世に残すために、政略結婚であっても受け入れるしかない。
とはいっても一つだけ問題がある。
それは生まれてから一度も父以外の男性と私は話をしたことがない。
それは私の身を隠すためでもあったが、何より私の容姿は世の男達を一瞬で虜にするほどなのだという。
でもそれは親目線や私に仕える侍女だからこそ贔屓目で言っているのだろうと思っている。
改めて自分の姿を鏡で確認してみた。
王族の象徴でもある青色の髪に、母親譲りの灰色の瞳。
目は少しだけ吊り目で、相手を睨めば威嚇しているかのようだが、そんなことさえしなければ優しい目元をしている。
そして母親の遺伝により身体が成長するのに比例して胸もどんどん大きくなっていった。
侍女達の胸を見ても私ほど大きくはないので、私が特別に大きいのだろう。
そんな侍女達は私の容姿のせいか極力男性に接触しないように気を利かせていた。
私としては会って話をしてみたかったのだが、公にされていない王女だからこそ何の後ろ盾もない令嬢と思われて良いように利用される可能性もあるからと用心をしていたようだ。
そんなことを貴族の子息がする訳がないとも思ったが、世の中の男達は人の皮を被った狼だと教えてもらった。
美しい女性を見れば男は欲望のままに襲ってくると耳が痛くなるほど言われた。
このようなこともあり私はたくさんの人から大切に育てられて成長をしていった。
そして15歳を迎えた日に父である国王から初めて呼び出しを受けた。
侍女達はついに婚約相手が決まったのではと盛り上がっていたが、いざ父から話された内容は全く予想をしていないことだった。
「魔王復活の兆しがあるのは知っているか?」
魔王。
この世界に存する魔物を使役し、人類の滅亡を計画していた邪悪な存在。
数百年前に勇者として選定された人物が、自分の命を犠牲にして魔王を封印したのは人間であれば誰でも知っていることだ。
そしてその魔王がこの10年以内に復活するという予言がされていた。
その前兆として、近年では魔物の活性化が問題視されており、もしかしたらあと10年くらいで復活する可能性があると聞いたことがある。
「はい。勿論存じております」
「魔王を倒せるのは聖剣を扱える勇者のみである。しかし、勇者に選定されるためにはその素質がある者が勇者として覚醒を果たさねばならん」
「……なるほど」
正直、勇者にどうやってなるのかは知らなかったため、あまりピンとはこなかった。
「勇者の素質がある者は数多く存在している。しかし、覚醒するとなると話は別だ」
「はあ……」
「いつ魔王が復活するかわからない以上、なるべく早い段階から勇者覚醒を果たした者を選定しておかねばならん」
「そうなんですね」
「勇者覚醒に求められるのは屈強な精神力、民を守る正義感、そしてどんな困難にも立ち向かうことができる勇気だ」
「はい」
ここまで話を聞いて真っ先に思うのは、何故この話を私にするのか。
勇者は男性にのみ適用される称号であり、女性である私には勇者になる前提資格が存在しない。
それなのに何故私がこの話を聞かされるのか。
父と会話をしながら思考を働かせるが、一つとして理由が思い浮かばない。
「そこでだ。勇者覚醒のためにセシリアには協力を願いたい」
「協力……ですか」
「そうだ。効率よく勇者覚醒をするために、勇者としての素質のある男の傍で覚醒に至るまで補佐をするのだ」
理解はできる。
私であれば、勇者として素質のある男性のそばにいれば死なせることはない。
それに身体強化魔法を付与することで、成長速度も向上する。
一番の問題は、私が男性とまともに会話をしたことがないこと。
男性は女性を襲う狼だと教えてもらっているため恐怖もある。
その勇者候補が襲いかかってきた場合、私はどのような行動に出てしまうのだろうか。
いや、流石にその男性と2人きりの状況になるなんて父が許す訳がないか。
いらない心配だろう。
「具体的にはどのように補佐をすればよろしいので?」
「セシリアには身分を隠して冒険者になってもらう。そして、勇者候補の補佐として共に過ごしてもらいたい」
え?
この王城の敷地内で補佐をするわけではないの?
それだと本当に男性と2人きりという状況が出来上がってしまうのではないか。
「えっと、何故冒険者になって補佐をしなければいけないのでしょうか? 騎士団の練習場で成長させていくこともできると思うのですが……」
「当然の疑問だな。それについては、勇者覚醒の過程で最も必要とされているのは自然体でいるという事にある」
「自然体ですか……」
「そうだ。自分が勇者になるという志を持っていると覚醒するのが困難なのだ。覚醒するためには、自然体で数々の困難を乗り越えて己自身の本質を変えていく事にある」
「本質ですか……」
「人間の本質というのはそう簡単に変わる者ではない。しかし、それを乗り越えた先に覚醒という自分自身の進化を果たすことができる」
なんか頭が混乱してくる。
言っていることは分からなくもないけど、結局私は補佐として何をすればいいのか。
ただ一緒に冒険をして魔物を討伐するだけでいいのか。
それとも何か特別な役割があるのか。
「私はその勇者候補と冒険者として活動し、覚醒の補佐をするのですよね?」
「そうだ」
「覚醒するには自然体でいることで、更には困難を乗り越え本質を変化させることが条件でよろしいのですよね?」
「その通りだ」
「……で、私はそのためにどのような補佐をするべきなのでしょうか」
「簡単だ。セシリアはただ見守っていればいい。その者が死にさえしなければ基本的には手を出さずに、強化魔法を掛けるなり勇者候補に勘付かれないよう補佐をしてそばにいろ」
「なるほど……。であれば、私は自分の力を誰に対しても隠し通して、勇者候補が窮地に立った時に本来の力を発揮すれば良いと……」
「いや、ちょっと違うな」
「え?」
「窮地に立った時こそ、何もするな」
「どういうことでしょうか? その勇者候補に死なれては困るのですよね?」
「そうなのだが、勇者覚醒の絶対条件として死の恐怖に打ち勝つというのがある」
「死の恐怖に……ですか」
なんかどんどん新しい情報が出てくる。
出来れば一気に説明して欲しいものだ。
「ああ。誰しも死ぬ瞬間に直面してしまうと、生命を維持するのを諦めてしまう傾向にある。しかし、そんな時にこそ己を奮い立たせて戦えることこそが覚醒に必要な条件なのだ」
「なるほど。それも覚醒に至る条件ということですね」
「そうだ。そのため、セシリアには自分の力や身分を隠して勇者覚醒の補佐を行ってもらいたい」
話の内容は理解できた。
しかし、今まで後宮で過ごしてきた私が街に降り立って生活などできるだろうか。
「……とは言っても、セシリア1人だと不都合もあるだろう。そのため護衛の騎士を2名手配させておく。だから心配するでない。とは言ってもその騎士達も最低限の護衛しかしないことは頭に入れておいてくれ」
私が困惑しているのを察したのか、護衛の騎士がいることを話してくれる。
最低限の護衛ということに多少の不安はあるが、完全に1人でないなら安心もできる。
「分かりました」
「ああ。セシリアには迷惑を掛けるが、勇者覚醒には最も重要な役割だ。セシリアであれば問題ないとは思うが、気を付けるように。この国……いや、この世界のためによろしく頼む」
「分かりました。期待に応えられるように努力致します」
そうして私の勇者覚醒に向けた冒険者生活がスタートした。
身分を隠すために王族の象徴である青色の髪を黄金色に染め、瞳の色も灰色から碧眼へと変えた。
これで私は誰が見ても一般人だ。
そして後日、父から通達された勇者候補は、ルークという男だった。
農村出身であるが近頃冒険者ランクを飛躍的に上げていき、向上心もあり最も勇者覚醒に近しい存在だと認定された。
そのため私は冒険者ギルドでルークを勧誘して偽名であるカグラを名乗りパーティーを結成した。
◇◆◇
あれから一年か。
まさかこんな結末になるなんて思わなかった。
私が悪かったのだろうか。
私がルークを変えてしまったのだろうか。
いつからルークが変わってしまったのか、今となってはもう覚えてもいない。
「もうルークは勇者候補から除外されたことだし、もういいよね」
私は右足にあるトラバサミを身体強化によって無理やり取外す。
そして聖魔法で自身の身体を回復させた。
目の前に迫ってきている岩石竜なんて大したことない。
私の魔法一撃で跡形もなく消し飛ばせるだろう。
でも、それだと面白くない。
今まで私に不当な扱いをしてきたあいつらに復讐をしないと。
ルークが勇者候補から除外されたことで、父からもその許可が正式に降りたのだ。
この許可が降りるまで時間が掛かった。
何度も父に勇者候補から除外するよう嘆願書を送っていたが「可能性がゼロになるまでは諦めるでない」という返答が来るだけだった。
確かに、私の力不足によるものかもしれないけどルークは明らかにおかしくなってしまった。
何度も勇者覚醒に至るために、高難易度の依頼を受けるように言っていたが、ルークはベッドでエレナ達と情事を致すことしか頭になかった。
エレナ達をパーティーから除外するように頼みもしたかったが、そうすれば私を先に除外するだろう。
そうなれば父からの頼みを反故にするだけでなく、未来の勇者になるべき男を私の手によって奪ってしまうことにも繋がる。
他にも私がエレナ達を陰で始末するという考えもあったが、勇者の条件として民を守る正義感というのも含まれている。
そのため、好いている女性を守ることで勇者としての素質を高めることができるという理由から父にはこの案を却下された。
そんな理由から板挟みになってしまい、いつもと変わらない耐えられないほどの苦痛な日々を過ごしていた。
しかしルークの近況を報告しているうちに、覚醒の見込みなしと判断され漸く勇者候補から除外がされたというわけだ。
この日まで短いようで長かった。
私がこれまでパーティーメンバーにされていたことは父も知っているため、復讐の機会も頂けた。
やっとあいつらに今までの鬱憤を晴らすことができる。
私はすぐさま岩石竜に向けて重力魔法を行使する。
岩石竜は上からのしかかる重圧に抑え込まれ、身動きができなくなる。
そして私は別の魔法を行使する。
「原点回帰」
空間魔法と魔力感知を併用して行使する原点回帰。
対象の人物の魔力を探知して、遠く離れていても自分の場所に転移させることができる。
そして目の前に現れたのは、何が起きたか分かっていない4人の呆けた姿。
「な、何が起こった!?」
「なんでここに戻っているの〜」
「どうして目の前にカグラがいるのよ!」
「なんでなんで! なんでここに戻ってるの!」
状況を理解できていない4人を私は見下ろす。
このまま逃げられても困るから、岩石竜と同様に重力魔法で動きを封じる。
「うっ……」
「え、なにこれ〜」
「身体が……動かない」
「なんなのこれ! 怖いよ〜」
重力魔法によって4人は私に向かって頭を垂れている。
いい気味である。
私は優越感すら感じていた。
「私もここまでのことをするつもりなんてなかったけど、あなた達が私を殺そうとするからよ。人にやったことなんだから、自分達が同じことをされても文句は言えないよね?」
「何を言ってやがるカグラ!」
「何でこんな魔法をカグラなんかが使えるのよ〜」
「わたくし達をどうするつもりなの……?」
「ねえ! 気持ち悪いから早くこの魔法解いてよ!」
未だに状況を理解していないようだ。
それにこの場で私の手によって殺されることなんて微塵も思っていないようにも感じる。
「実は……あなた達に言っていないことがあるの」
「な、なんだ?」
そう言って私は自分に掛けていた魔法を解いた。
黄金色だった髪は青色に変色し、瞳の色も元に戻す。
いくら平民でも王族のみが有する青色の髪はわかるだろう。
「……そ、その髪色は」
「カグラ……その髪って」
「王族の象徴である青色の髪……」
「え、3人ともどうしたの? カグラの髪が何だっていうの!?」
どうやらフィオナだけが王族の髪色について知らないようだ。
まあ確かにまだ年齢も一番若く明らかに勉強をしてきたような子ではないから仕方ないか。
「そうよ。私の本当の名前はセシリア・ナイジェル。この国の第一王女よ」
「王……族……?」
「カグラ、嘘だよね〜?」
「でもこの髪は……まさか本当に?」
「どういうこと!? カグラが王族!? そんなわけないじゃん!」
どうやら全員半信半疑のようだ。
でもそんなのは関係ない。
私の身分を知って平伏したとしても、今まで私にやってきたことがなかったことになるわけではないから。
「私はとある目的を達成するためにこのパーティーに仕方なく入っていたけど、まさかあのような杜撰な計画で始末しようとするとは本当に浅慮でしたね」
「目的……だと?」
ルークが絶望したかのような悲壮した表情をしている。
明らかに目の前で起きていることに疑念を感じているのが手に取るように分かる。
「目的について教えるつもりはないわ。そんなことより国王陛下からあなた達の処分が正式に許可されたわ」
「処分……?」
「え、どういうこと〜……」
勇者覚醒についての任務をこいつらに教えてあげる義理などない。
どうせ二度と会うこともないし、この低脳どもが信じるわけもない。
「そのままの意味よ。あなた達は不要になったってこと。まあ、本来は処分する必要はなかったんだけど、この私に対しての悪逆非道な行いを考えれば当然の結果よね?」
全員が未だに状況を理解していないのか、私を見上げながら黙っている。
それとも今までの私に対しての行いをなんとも思っていないのか。
こいつらの考えなど理解はできない。
いや、そもそも理解しようとも思わない。
数秒、静寂の時間が過ぎた後、フィオナがその沈黙を破る。
「ちょっと待ってよ! 私はカグラに何もしてないじゃん! 私は関係ないよ!」
フィオナの表情からこれは本気で言っている。
本当に自分は関係ないとでも?
予想外の言葉に私は嘲笑してしまう。
「ふっ。確かにフィオナは何もしてないわね」
「そうでしょ! なら早くこの魔法を解いてよ!」
「それは出来ないわ」
「どうしてよ!」
「フィオナ、教えてあげる。あなたの罪は、何もしなかったことよ」
「何もしなかったこと……?」
「そうよ。私がエレナから服を剥ぎ取られて炎で炙られていた時にあなたは何をしていた? マリアが私を廃墟に連れて行って暴漢に襲わせようとしていることを知っていながらあなたは何をしていた?」
「そ、それは……」
「あなたがエレナやマリアの行いを止めるように忠告していたなら分かる。でもあなたがやっていたことは、私が被害を受けることを面白がってただ遠くから見ていただけなの」
「でもそれはエレナとかマリアが勝手にやったことで私は関係ない!」
「だから言ったでしょう。あなたの罪は何もしなかったことだって。誰かが貶められているのをただ見ているだけでも十分罪なのよ」
「そ、そんなことって……」
フィオナは多分理解できないのだろう。
自分は悪くない。カグラを害していたのはエレナとマリアだ。自分は何もしていない。
そんな考えだけが思考を巡っているのだろう。
自分が犯した罪も理解できず、ここで死ぬなんて最期まで残念な子だったわね。
「さて、そろそろあなた達の処分を順番に行います」
「ま、待ってくれ! いや……待ってくださいセシリア様」
ルークが口を開く。
自分たちの置かれた状況をようやく理解したのか、私をカグラではなくセシリアと呼ぶ。
しかし、今更許しを乞おうとしても無駄。
「待ちません。あなた達とはこれ以上、話すことはないのですから」
「待って……」
「では、手始めにエレナから始めましょう」
「えっ……私?」
ルークの言葉を遮るようにエレナに向かって言い放つ。
私は既にこいつらにする復讐方法は決めている。
やられた事をやり返すだけだ。
エレナに向かって風魔法の風刃を行使する。
慎重に操作してエレナの服だけを切り裂いていく。
「きゃー!」
服を切り裂き、裸にしたエレナに更に重力魔法を追加行使する。
「ぐっ……」
そして間髪入れずに火魔法の炎槍を両脚の太腿に突き刺す。
「いだああああああい!!! あづぅぅぅぅぅい!!!」
痛み。そして熱によりエレナが奇声をあげる。
感じたことのない苦痛に悶えたいが、重力魔法により指一本動けず大声を上げるしかないようだ。
「や、やめてください……セシリア様」
「そ、そうよ。あまりにもやり過ぎじゃない……?」
「やめてよカグラ! エレナが苦しんでるよ!」
エレナへの復讐がやり過ぎだと判断したのか、他の奴らが私を悪者かのように軽蔑の目を向けていた。
なぜこのような目で見られなければいけないのか。
お前達が今まで散々私にやってきたことは忘れたのか。
「たったこれだけで何を言っているの? これからあなた達は全員死ぬのよ?」
「死……ぬ……?」
「嘘……でしょ?」
「何を驚いているの? 当然の結果でしょう。今まで反撃ができない私に対して行ってきた蛮行。立場が逆転したからと言って謝れば許されるとでも思っているの?」
3人が私を見上げながら恐れ慄いている。
少しでも自分達の行いを恥じ、後悔し懺悔しながら死んでいってくれれば来世はもう少しまともな人間に生まれ変われるだろう。
私は追加でエレナに向かって炎槍を両腕に突き刺す。
「ぎゃあああああ!!! もうやめてええええ!!!」
「ひっ……」
「エレナぁ……」
なんの感情もない。
目の前で1人の女性に4本の炎槍が突き刺さり、血がドクドクと出ていても、傷口から炎の熱によって徐々に溶け始めていても。
ただ、目の前の人の皮を被っただけの物としか思えない。
いつから私の心はここまで変わってしまったのだろう。
たった一年で今まで味わったことのない屈辱、恥辱、怨恨によって感情すらもおかしくなってしまった。
こんな恐ろしいことを無感情で行っている自分に恐怖すら感じる。
しかし、この行為が止まることはない。
「次はマリアね」
「や、やめて! お願い! 謝るから……もう二度とあなたの前に現れないから……」
「無理よ。そんなことしたって無駄。もう遅いのよ」
そう言って、私はマリアに触れる。
そして瞬間移動を行使した。
「え……? ここは、どこ?」
私がマリアと転移してきた場所はオークの巣窟の上空。
オークは人間との交配によって子を成すことができる。
私がマリアにされたことは暴漢達に乱暴にされそうになったこと。
本当は同じように暴漢達を雇っても良かったけど、それだと面白くない。
だから代替案を考えた。
この世の女性で魔物の子を孕むことは忌避とすらされている。
これを利用し、マリアにはオーク達の孕み袋として暫くの間過ごしてもらうことにした。
とはいっても、これによりオークの子が増えるのも国に悪影響を及ぼすのは間違いないので、ある程度の時期が過ぎたら私が全てのオークを討伐することにする。
そしてマリアがまだ生きていたらそのまま生かすつもりでいる。
殺すよりも生きていた方がよっぽど辛い人生を味わうと思うから。
「オークの巣窟よ。しばらくここでオークの子をたくさん産んでなさい」
「ちょ、ちょっと嘘でしょ! オークの子を孕むなんて嫌よ!」
「そんなの私の知ったことじゃないわ。あ、でもその前にやっておくことがあるわね」
マリアはそれなりに魔法が使える。
もしかしたらマリアの魔法でオークを全滅させる可能性もあるので、私はマリアに魔力封じを施す。
体内にある魔力回路に直接膨大な魔力を流すことで、魔力回路を破壊させる技術だ。
この技術を知っているものは少ない。
魔力回路を破壊されると二度と魔法を行使することができなくなる危険な行為のため、この技術は秘匿もされている。
「さて、これで大丈夫そうね。じゃあ、さよならマリア」
「待って! ごめんなさい! 許してよおおおお!!!」
マリアから手を離し、オークの巣窟へと落下していく。
「いやあああああ! やめてえええええ!」
オーク達は急に落下してきた、人間の女に興味を示し群がり始めた。
そしてマリアの衣服を剥ぎ取った。
それをただただ真上から見下ろす。
何体ものオークが裸のマリアに群がり、ニンマリとした顔で楽しんでいるように見える。
「なんでよ! どうして魔法が使えないのよ!」
どうやら魔法が使えないことを理解したようだ。
オークに成す術もなく蹂躙されていくマリア。
「やめてえええええ!!! 助けてえええええ!!!」
マリアはこの世の終わりのような絶望した顔でただただオークの玩具へと成り変わった。
これでマリアへの復讐は終わり。
……さて、次だ。
マリアへの復讐を終えてからすぐに瞬間移動により、ルーク達の元へと戻ってくる。
未だに重力魔法を発動させていたため、全員大人しくしていたようだ。
しかしエレナだけは少しだけ変化が見られた。
炎槍によって手足の肉が焼け落ち骨が丸見えになっていた。
見るからに惨たらしい姿であった。
意識があるのかすら不明な状態でただ口から泡を吹いて寝そべっている。
「さて次はフィオナね」
「やだやだやだ! もう帰してよ!」
フィオナにはそれほど多くの恨みがあるわけではないため、他の奴らよりも簡単に死ねるようにする。
フィオナのみを重力魔法による拘束を解除して、手を掴み岩石竜の元へと投げ飛ばす。
「きゃああああ!!!」
そして岩石竜に掛けていた重力魔法も解除。
「グオオオオオオオ!!!」
重力魔法によって怒り狂った岩石竜の足元にはフィオナが佇む。
そして岩石竜の怒りの矛先はフィオナへと向くのは当然であった。
「いやああああああ!!!」
すぐにフィオナは岩石竜から逃げようとした。
しかし、怒り狂った岩石竜は逃げようとするフィオナに噛み付いた。
「嫌だああああああ!!! 助けてえええええ!!!」
そして岩石竜はフィオナを咥え、すぐさま胴体を真っ二つに噛み切った。
あっという間の出来事だった。
これでフィオナはそこまで苦しまずに死ぬことが出来たのではないだろうか。
最後の後始末として岩石竜に対して氷魔法の絶対零度を行使する。
一瞬のうちに岩石竜が氷漬けになる。
さて、あとはルークだけだがその前にエレナを楽にしてあげよう。
重力魔法を反転させて、エレナを空へと飛ばす。
そしてすぐさまエレナに向けて発動する灼熱地獄。
何もかもを焼き尽くすほどの灼熱によって骨すら跡形も残らない。
上空に広がる炎がエレナを包み込む。
エレナは最後まで意識を取り戻さないまま、灼熱地獄によって消滅した。
さて、これで最後だ。
「残るはルークだけね」
私はルークを見下ろす。
「くそっ……。よくも仲間を……」
「仲間? それならあなたにとって私は仲間だった?」
「それは……」
「答えられないわよね。あなたにとって私はその程度の存在だったのよ。だから私を殺すことに何の躊躇もなかったのよね?」
「ち、ちがっ……。あれは……」
「言い訳は結構よ。どうせあなたの言葉に耳を傾ける気なんてないから」
最後の復讐はルークの男のプライドをズタズタにしてやる。
その方法は、私との一騎打ち。
今まで散々無能だと思っていた女に全力で挑み、そして無様に敗北する。
命乞いをしようが、頭を下げて許しを乞おうがどうでも良い。
ルークの死は免れることはない。
私は重力魔法を解除し、ルークの拘束を解く。
「な、何のつもりだ」
「一騎打ちよ。全力で私にかかってきなさい。もし勝てたら逃がしてあげる」
「くそっ……。逃げ道はないようだな」
ルークは腰にある剣を鞘から抜く。
そして両手で剣を持って構えた。
「ちなみに言っておくけど、私はあなたの仲間に対してたくさんの高位魔法を発動させたことで魔力は残り僅かよ。一応ハンデみたいなものね」
もちろん嘘である。
魔力は未だ半分も減っていない。
圧倒的な差をルークに見せつけるのだ。
「はっ、そりゃ有難いな。なら遠慮なく行かせてもらう。いくぞカグラ!」
ルークはセシリアではなく、カグラと戦うつもりのようだ。
どのような心変わりかは分からないが、私にとってはどうでもいいことだ。
私も全力で相手をしてあげよう。
「おりゃあああああ!!!」
瞬時に間合いを詰めてきたルークが私に剣を振り下ろす。
振り下ろされた剣を私は回避する。
それを見越したルークがすぐさま私に向かって剣を振ってくる。
ルークにとって一撃目は囮。
本当の狙いはこの二撃目だろう。
しかし、私はこの二撃目すら予測している。
「甘いわよ」
私は瞬間移動によってルークの真後ろへと移動する。
そして炎槍を発動させる。
「甘いのはお前だ!!!」
ルークは私の瞬間移動を予測していたかのように、炎槍の発動と同時に振り返り、剣を構え間合いを詰めてきた。
「ぐっ……まだまだあああ!!!」
炎槍がルークの腹部に直撃する。
しかし、そんなことはお構いなしに私に剣を振り下ろしてきた。
「ふふ。その根性は認めるわ。でも……それでも私には届かない」
私は雷魔法で造った雷剣でルークの剣を受け止める。
「ぐああああああああ!!!」
この雷剣は触れたものに高電圧が流れる。
その結果、ルークの剣が接触したことによりルーク自身に電気が流れた。
「惜しかったわね。自分の身を犠牲にして向かってくる気概だけは素晴らしかった」
「はあ、はあ……。カグラはこんなにも強かったんだな。何故、今までこの力を隠していたのか不思議で仕方がない」
「それは教えるつもりはないと伝えたはずよ」
「そうか。カグラのことを知ることもなく、俺は死ぬのか……」
「そうよ」
「カグラ、謝るつもりはない。今までのこと全部」
「そうね。どうせ許すつもりもないから無駄だけどね」
「いや、そういうことじゃない」
「……どういうことかしら?」
ルークが清々しい顔で否定してきた。
一体どういうことだろう。
私に対しての謝罪の気持ちが最後まで芽生えなかった?
それとももうすぐ死ぬから諦めた?
この顔はどのような意味があるのだろうか。
「カグラ。俺はお前に勝てない。ここで死ぬ」
「だからそう言っているじゃない」
「だから最期に言わせてくれ。どうしようもなかった俺に大切なことを気付かせてくれて、ありがとう」
そう言ってルークは私に向かって剣を振りかぶった。
私はルークの言ったことの意味を理解しようともせず、反撃するように雷剣でルークの胸を貫いた。
「がふっ……」
ルークの剣は私の肩へと触れたが、全く力が入っていなかった。
最後の一撃は私を傷付けるつもりはなかったのだと理解できた。
分からない。
ルークの最後の言葉の意味が。
何故こんなにも笑顔で倒れているのか。
どんな想いがあってこんな笑顔で死を迎えることができるのか。
今となってはルークの本当の想いなど分かるわけがない。
ルークはもう時期死ぬだろう。
胸を貫かれたことにより、呼吸も浅い。
この場で放置していれば勝手に死ぬ。
「これで終わりね……。なんか呆気なかったわ」
私は振り返り帰路へとつく。
また、勇者覚醒のために候補者とともに依頼を受ける日々に戻る。
次はルーク達のような者でなければいいと、切に願うばかりである。
「セシリア様。要件は済みましたでしょうか」
私の復讐を遠くから見守っていた騎士達が声を掛けてくる。
弱者のふりをしていた間は、この騎士達にはお世話になった。
「ええ。もう帰りましょう」
「かしこまりました。お供いたします」
私は騎士と共に瞬間移動にて王都まで帰還しようとする。
そして瞬間移動を行使しようとした、その瞬間の出来事だった。
「何!?」
突然後方から謎の光の柱が空に向かって立ち昇った。
「セシリア様、お逃げください!」
何が起こったのか分からず混乱する。
あの光の中にはルークがいるはず。
一体何が……?
光の柱は徐々に薄くなり、やがて完全に消滅した。
そして消滅した光の柱の中から現れたのは、ルークであった。
私が与えた傷も消え去り、防具に付着していた血すらも見当たらない。
「まさか……これが勇者覚醒……?」
◇◆◇
あれから7年。
ルークを勇者として、私も勇者パーティーに加わりたくさんの困難に立ち向かいながらようやく魔王軍との戦争も終結した。
魔王は勇者のルークが聖剣で貫き、混沌の世界をルークが救った。
ルークは全世界の人々から讃えられ、元魔族領であった領地をブレイブ王国として興し、一国の王となった。
7年前は殺したいほど憎んでいたルークであったが、今ではそんな感情はない。
ルークは勇者覚醒からまるで人が変わったように、誰に対しても優しく弱者を守るために死力を尽くしていた。
まさか、勇者覚醒のきっかけが私自身になるとは思いもしなかった。
しかし、よく考えてみれば私のあの時の復讐は勇者覚醒に至るのに必要な条件を満たしていたのだろう。
そして父がルークへの復讐を認めたのも最期の勇者覚醒への希望もあったのかもしれない。
まあ、今となってはそれを知ることもできないのだが。
そんなブレイブ王国の国王であるルークとの寝室でのこと。
私が長年疑問に思っていたことをルークに聞いてみた。
「ねえ、ルーク。覚えてる? あなたが勇者の覚醒を果たす前に私にありがとうって言ったわよね。あれってどういう意味だったの?」
「ああ、そんなこともあったな。あれは……何だっけな? あれからいろんな事がありすぎてもう忘れちまったよ」
「もう、絶対嘘じゃない。ルークが嘘をつく時に目を逸らす癖があるのは知ってるんだからね! ねえ、何でありがとうって言ったの?」
「だから忘れたって!」
何度聞いてもルークはあの時のことを教えてはくれなかった。
結局、私はあの時のルークの言葉の意味を知ることはできないようだ。
でも、それも良いのかもしれない。
だって、そんなことがどうでもいいくらい今の私は幸せだ。
いろいろな事があったけど、私にもかけがえのない大切なものができた。
「ルーク。今まで苦労した分、いっぱい幸せになろうね」
「ああ。まだまだ苦労することがあると思うけど、セシリアとなら乗り越えられるよ」
「私も、ルークとなら乗り越えられるって信じてるよ」
2人きりの寝室で互いに言葉を交わす。
ルークが私のお腹に手を添えながら、2人で幸せを噛み締めていた。
思い付きで書いたので設定が杜撰ではありましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。
皆様のちょっとした時間潰しになればいいなと思います。




