表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/16

[二]の三


     三


 祖父母の家に泊まる。すると、彼は祖父の好感を得なくてはならない。基本ソファに居座る祖父に、無邪気な遊びを持ちかける。

「神経衰弱しよう」

「ああ、いいよ」

 祖父は乗り気である。彼は淡々、トランプを机に置き広げる。

「おじいちゃんとやっても、楽しいかい?」

 彼はどきりとする。

「もちろん」

 ちょっと間が空いた。無邪気が作り物であることは、とっくに見破られたかもしれない。

 ゲームは平坦な調子で進行する。祖父の瞬間記憶能力は、衰えている。真面目にやれば自ずと彼が勝ってしまう。その為にちょっと演技をして勝負を面白くする。一方で、彼にはちっとも興がわかない。けれども熱くなるふりをしなくてはならない。道化の彼は、祖父を欺く。

 祖父は終始楽しそうにしていた。無論、彼もそうである。傍目の家族も微笑ましく見ている。誰もこの家庭の内に道化が潜んでいるとは思うまい。この道化の為に順境が演出されているとは、夢にも思うまい。

 夜ご飯の後、彼は祖母の部屋に呼ばれた。こういう時は大方、小遣いがいただける機会である。小遣いは、ねだらんが、真率に受け取らねばならない。彼は気楽に祖母を訪れる。

「ああたっくん、ちょっとそこに座っててね」

 祖母は、ミシンで縫いものをする最中である。

「さて、と」

 祖母も彼と同じ土俵に正座する。金銭の授受は、いつだってこうやって物々しく行われる。

「たっくん……もしかしておばあちゃんのこと、怖い?」

「はっ……」

 彼は、完全に意表を突かれた形である。まさか、祖母が道化を勘づこうとは、思いもしない。

「怖くないよ」

「いんや、怖いんだ」

「怖くない!」

「はっきりと言ってごらん」

「んん……おばあちゃんなんて嫌い!」

 窮した末、一思いに言葉が飛び出した。中一の孫から発せられる『嫌い』に祖母も仰天する。そのまま彼は、部屋を退く。

 彼は、走って二階へと駆け上る途中、悔やんでばかりである。ちょっと素顔を暴かれそうになっただけで、この様である。すると、泣き出していた。この崩れた顔のまま、母の元へ行けば碌な事になるまい。彼は抑えたくても抑えられぬ、止めたくても止められぬ、羞恥と憤慨に自制が対峙する構図を心中に抱え、走っている。ただこの忙しい足を止めるのは容易でない。慣性の法則に従って、放っておけば進む、止めるには強い意思が伴わなくてはいけない。——遂に両親の前に泣き崩れた。

「どうしたの! たっくん」

 母が寄ってくる。ベッドに寝転んでいた父が頭を起こす。

 彼はただ泣くばかりであった。何も言わず……落ち着くと、甘えたくなっただけ、などと気持ちの悪い出鱈目を言った。どうせ、この後の晩飯で全て発覚する。彼の努めるおかげで、問題の無かった家庭が、初めて棘に直面するのである。

 彼は、この一連は何もかも過ちだったと理解し、そしてずっとベッドにうずくまっていた。母が呼んで下りてこぬなど、前代未聞である。彼は——もう道化を諦めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ