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[四]の一


[四]戦犯



     一


 時間と共に傷は大分癒えた。それでも過去は一生変えようがない。私は『戦犯』である。即ち、一生犯罪者である。罪は、償っても償い切れない。皆は許しているつもりでも、本心できっと悔やみ、恨んでいる。そうでなくとも、私自身が私を許せない。そもそも、この罪を償う方法なんて、どこにも無い。

『罪』という言葉を連呼していると、私が法を犯したと勘違いする人が出てくるかもしれないから、そうではないと早い内に注釈しておく。私は先にも述べたように、『戦犯』なのである。高校の時所属していたテニス部の団体戦で、母校の二十三年連続優勝という輝かしい記録を見事にストップした、戦犯である。

 監督はよく言っていたっけ。

「優勝記録を止める『戦犯』になりたくなければ、必死に練習をしろ」

 私は負けた。だから、勝利する為の努力を怠った、紛れもなく戦犯だ。

 試合後、不思議なくらい周囲は私に気を遣った。その監督の安藤あんどう先生でさえ、「お前だけが悪いわけじゃない」と慰めた。私の中には、ずっと引っかかっている。私は、戦犯ではないのですか、と一言尋ねておけば良かった。

「お前はよく頑張った。運が悪かったのだ」とも監督は言った。なるほど、確かに私は運が悪かったのだ。『二十三年』などという重圧は、私ごときには抱えきれなかった。

 私の嫌いな言葉は、伝統、努力……伝統は勝手だから嫌いだ。努力は当てにならない。——戦犯って言葉は、案外嫌いじゃない。むしろ、好きな方だ。自分を称するのにうってつけの二つ名だからである。暇があれば、戦犯、戦犯と呟いて自身を戒める。こうしていないと、犯した罪の重さを忘れてしまう。それから、そう言い聞かせることで少しでも贖罪になると思えば、慰めになるから良い。

 同じ業を背負う者がいる。理沙りさ由恵よしえ優希ゆうきは優勝記録を止めた試合に負けた、戦犯仲間である。理沙は大学に行っても懲りずにテニスを続けているらしい。私には信じ難い。あれほどの目に遭っておきながら、黄色いボールをまだ直向きに追いかけていられるのだとしたら、多分よほど何も考えていないのである。理沙はきっと言うだろう。私は諦めたくないのだと。諦める、諦めないを持ち出す時点で、彼女は逃避しているのだ。私たちはこの先、どうあっても敗北した過去を変えられないのであって——それは記録に確然と残されているのもあるし、各々の記憶にもきっと誰がどんなスコアで負けたのだと焼きついて消えることはないだろう。安藤先生は、私たちの代を反面教師に、これから生徒を指導していくのに違いない。そして、私たちは母校の練習にOGとして参加するたび、「私たちのようにはならないで」と吹聴するに違いない。私たちは、負けたから、努力が足りなかったのだ。量云々、質云々は関係ない。勝てば良く努力した、負ければ努力が不足した、簡単な話である。

 理沙は、そんな単純な事実から、懸命に目を逸らそうとするから、諦めないなどと豪語するのだ。私たちは諦めることを決定付けられたのだ。敗北の二語がのしかかり、それはゲームオーバーを意味する。コンティニューはきかない。これは現実、やり直しなんてできっこないのだから。

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