ライバル。
俺は黒川を怒らせてしまったかもしれない。
あばよ俺の今後の人生、アーメン。
「…そんなに怯えなくても俺怒ってないよ。」
「く、黒川ぁ…っ!」
「にしてもお前わかりやすすぎだろ。吹くかと思ったわ。」
「何の話?」
旭は今の俺らの会話の内容をまったくもって理解していない。まぁそりゃ友達が自分の弟のことをかわいいって思ってるなんて思うわけないもんな。
てか待て、え、俺旭に言わないといけないのでは?え、はずくね。
「吉竹が拍のことを好きかもって話。」
「えぇ!?よっしーが拍を!?」
「おい待て。」
「なんだよ。」
杉崎の【好き】という言葉に引っかかる。
…俺好きなのか?拍のこと…。
たしかに一瞬だけ可愛いって思ったけどそれは好きではない気がする。だって拍性格悪いし俺の好みの感じじゃないし。
「好き、じゃないか、も…。」
「は?あの反応は完全に好きだろ。早く自首しやがれ。」
「いやほんとに!好きじゃないんだって!」
「ウソつけお前。」
「…なんでそう思うの?」
なんでって可愛いって思っただけでそれは好きと違うし、俺普通に旭のこととかも可愛いって思うし、ただちょっと…めちゃくちゃ可愛いって思っただけで…。これは普通なんじゃないのか?
拍のことを話しているだけなのに拍の顔が頭に浮かぶ。思い出したらなんか、本当に可愛すぎて顔が熱くなるし拍の顔が直で見られなくなる。
「…あ、れ…?」
また一気に熱が上がった気がする。顔が熱くて心臓が壊れそうなぐらい痛い。小さい頃は風邪引いてもこんな症状出たことなんてないのに。
俺は杉崎の腕の肘より上をがっと掴んで顔を近づけた。一方杉崎はびくっと肩をはねさせる。
「杉崎!お前元カノいたよな!?恋してるときってどんな感じ!?」
「はぁ!?そ、そんなこっ恥ずかしいこと俺に聞くんじゃねぇよ!」
「お願いだよ!黒川でも旭でもいいから!お前らモテるしそーゆーのくわしいだろ!?」
「俺初恋小3で終わっちゃったし。」
「俺は…。」
黒川は一回黙った俺をにやって見てこう言った。
「拍しか好きになったことないしこれからも好きになるつもりなんかない。」
「…っ。」
「うっわ、顔こっわ。誰も近づけねぇわこんな顔してるやつ近くにいたら。」
「そんな顔創ちゃんがしてるの初めて見たかも…。」
杉崎の言う通り怖かった。
こんなに人間味がある表情をした黒川は見たことがない。
いつも表情筋が死んでいて生気がない黒川がこんな対抗心、そしてなにより嫉妬心がむき出しなのが顔にあらわに出すぎていて怖い。怖すぎる。刺されそうだ。
「恋してるときってその人の事頭から離れなくなったりいつもより可愛くとか、かっこよく見えちゃったりするんじゃないの?」
なんだそれ、それじゃ俺が恋してるみた……。
「でもわかる。近くいてドキドキしたりな。うわ童貞くせー。」
「杉ちゃんいつ卒業したのよ。」
……してるのか?拍に?
いやでもあんな一瞬で落ちるとかおかしいだろ。なにかの間違いだ。
口を両手で覆って赤く熱くなった顔を隠した。
「…吉竹がなにが理由でそんなに認めたくないのか知らねぇけど好きになるのに時間なんて関係ねぇべ。」
「…っ。」
「大事なのは相手のどこが好きになったかじゃね。」
杉崎はまたにやにやして俺にそう言った。俺をからかってるのかまじで言ってんのかわからない。
けどこの言葉がすごい頭の中に響いてしまった。息をするように当たり前のことを俺は忘れていた。
誰だって時間で好きな人を決めてなんていない。
俺はきっと拍のことを好きになっちゃったんだ。
好きになったのがどんな理由であってもこの事実だけは確かだ。引き返すことなんかできない。初めての本気の恋をしてしまったんだ。
…でも何年も前から気があったであろう黒川がライバルになるってことだよな。さすがにそんな前から拍のことを知ってるやつに勝てる自信なんかないんだけど。
「俺に遠慮してるなら俺が拍にすぐにでも告白して付きあう。」
「だめ。」
噛みつくように即答した。黒川は少しびっくりしている。
今よく知らないならこれからたくさん知っていけばいい話。もっと言うのであれば黒川でも知らないことを俺が知ってしまえばそれは一歩前進どころかリードだろ。何を弱弱しく考えているんだ俺は。
「…俺が拍のこと好きだからだめ。渡さない。」
「…いいよ。じゃあ正々堂々と勝負しよっか、吉竹くん。」
「おう。お前みたいな無気力ボーイになんか絶対負けねぇわ。」
「なにその無気力ボーイって。ださ。」
「な…っ!お前舐めてんだろ!」
「あっはは!」
なんでだろ。ライバルなはずなのに、馬鹿にされたはずなのにすごい笑顔な黒川を見て安心してしまった。
「はいはい、その辺で少女漫画の青春の切り抜きみたいなやりとり終わらせてくれる?野次馬キチィわ。」
「あはは…。」
「旭、俺が幸せにします。」
「え?」
「その言い方だと旭のことが好きみたいになるけどいいのお前。」
「てか気早すぎでしょ。付き合ってもないどころかアピールだってしてないじゃん。」
「早いほうがお得だろ!」
「なにそれ。ウケる。」
バチバチはしたくない。今まで通り、俺の気持ちが変わっただけだ。俺は拍のことが好きだけど、友達として黒川のことが大好きだ。
だから喧嘩なんて絶対にしたくないし一緒に笑っていたいから。
「てか拍遅くね。」
「確かに、もう何分も経ってるのに。言いに行くだけだよね?」
「しゃーねぇ。見に行くか。」
「俺が行く。」
言ったそばから二人同時に立ち上がって横目で睨みつける。一瞬だけ火花が見えた気がした。
「吉竹熱あるんだから寝てな。代わりに俺が行ってきてあげる。」
「もう治りましたのでお気遣いなく。」
「拍に移るのでウイルスを撒き散らさないでいただいて。」
「黒川お前どうせもう帰るんだから早く準備しろ。」
「みんなで行けばいいじゃん!ねっ!」
冷静な判断を下す杉崎と丸く収めようとする旭がいなかったら永遠に続いていたやり取りだったと思った。
とりあえず俺以外は帰るつもりで準備を終わらせ四人揃ってリビングまで行く。
「あ、けんちゃん。今日泊まっていくって。」
「は!?なん、はぁ!?」
「ちひろくんと離れたくないぃ!」
「僕もー!」
見に来てみれば兄貴の膝に虫のようにくっついている橋本と拍がいた。そして急な泊まり発言。理解ができない。
「助けて杉崎。松田敬くんは誰からも需要ないみたい。はは。」
「そりゃそうっす。」
「あ?」
「お前らどうせ明日休みだろ。家の人から許可出たら泊まっていいぞ。俺んち今日親二人共いないから電話したらオッケーだって。」
「どこをどうなったらそんな答えに至るんすか…。どうせ橋本が我儘言ったんですよね?」
「はっしー、久しぶりのちひろくんと話せて嬉しいのはわかるけど我儘はだめだよ。」
「だってちひろくんいいって言ったし!」
「もう…拍はなんでなの?」
「ちひろくんの耳かきが気持ち良すぎる!しかも膝枕最高です!」
まぁようするに帰りたくないということだろう。
俺の頭の中は今ウルトララッキーハッピーだ。兄貴のおかげで拍と一緒にいれるきっかけができるのは癪だけど今日だけは感謝する。
無理死ぬ幸せすぎる。ていうか今嫉妬でどうにかなりそう。いつまで兄貴にくっついてんだよ。離れろ、兄貴が退かせ。
「中耳炎なるぞ。えー…いいんすか?」
「杉崎が嫌じゃなければな。」
「久しぶりに先輩たちと話そうや、今の生徒会の話も聞きたいし。」
「…はぁー、わかりましたよ。家近いんで許可取るついでにものとか持ってきますよ。」
「俺も杉崎と行ってくる!」
二人は家が隣同士なため、一緒に荷物を取りに行った。ここからそんなに遠くないしすぐに戻ってくる。
さっきから後ろから高速タップ音が聞こえて見ると黒川が真顔で文字を打っていた。
「オッケーだそうです。」
「お前すげぇな…。」
送って許可降りるまではやすぎだろ。
「でも僕達三人は家遠いしバスもしばらく出ないから…。」
「双子ちゃんふたりとも小さいしちひろのとか賢佑くんのでも入るくない?」
「じゃあ、創太は…。」
「あれ、いない。」
さっきまで俺の後ろにいた黒川がいなくなっている。え、なに神隠し?
そう思っていると俺のスマホの通知がなって【くろかわ】と表示されていた。
「あ、取りに行ったらしい。」
「やっぱりあいつちょっときめぇよ…。」
「イケメンてわからない…。」
もしかして俺はとんでもなくやばいやつをライバルにしてしまったのかもしれない。でも、張り合いがあるって楽しい。
頑張って今日のうちに少しでも差を縮めてみせる!俺が拍の一番になるんだ!