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恋なんかじゃない。  作者: おたくだが
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最強コンビ。


今日の分の試合が終わりつつある。やっとバスケが終わったところだ。


俺たち白組が他三組に圧勝で優勝した。


みんな疲れと暑さで溶けてしまっている。床にうつぶせになっているところ申し訳ないけどそれみんな汗ダラダラ流しながら走った後の床だからね…。


「あっちぃな…!」

「中競技って言っても熱気やばい…。これ冷房効いてんの?」

「効いてないらしい。だからみんな保冷剤腹に入れてる。」

「それもそれで…。」

「いやまじ旭バスケつえぇな!」

「そうかな?まぁ何年もやってるし。」

「本当にすげぇよ!」

「吉竹バスケ苦手だもんな!」

「うるせぇな!わかってんならいちいち言うな。」

「旭かっこよかったよ!」

「最近また上達してきてるもんな!」

「進化しすぎ。どこまでうまくなるつもりなの。」

「…ありがとう。」


俺はバスケが上手い。自分が理解しているたった一つの特技。周りからここまで褒められているのがその証明。


長年やってたことで知識はもちろん技術も申し分ない。シュートは苦手でなかなか入らないけどそれも練習で入るようになってきて、この前大会でスリーポイントをキメることができた。


バスケが人より好き。ただそれだけ。


「…旭?」

「えっ?」

「体調悪いか?」

「う、ううん!大丈夫!ちょっと水買ってくる!」

「あ、ちょっと!」

「…水筒まだ入ってるのに。」







「はぁ、はぁ…っ…。」


咄嗟に走って逃げてきちゃったけど意味分かんないよねみんな…。


「どうしよ…。」

「何が?」

「うわぁ!?な、七瀬くん!」


後ろにはコーヒーの缶のゴミを持っている七瀬くん。また飲み物を買いに来たのか財布を持っている。


「お前さっきと同じ反応。馬鹿だなぁ。」

「…。」

「…体育祭なのに浮かない顔してんじゃねーよ。お前体育大好きだろ。」

「別にそんなつもりは…。」


やばい気を使わせている。この七瀬くんが心配するってことは今よっぽどひどい顔してるんだ俺。


みんなに褒められて嬉しいはずなのに…嬉しいけど…何か引っかかる。


「具合悪いん?」

「違う…。」

「怪我か?」

「…。」

「ほれ。」

「つめたっ!」


七瀬くんはりんごジュースを俺のほっぺにつけた。


りんごジュースって…また子供扱いされてる。


でもみんなには買わなかったのに…と少し特別扱いを感じて嬉しくなってしまった。


「今はバスケ終わったぐらいか…お前中入れ。」

「え?」

「いいから。」


そう言われて、言われるがまま保健室に入った。


そしてすぐに七瀬くんの前に座らされる。この圧と来たらない。


「お前なんか悩んでんだろ。」

「別に…。」

「何年お前らの顔見てきたと思ってんだよ。わかるっつーの。」

「…ほぼ最近みたいなものでしょ。」

「…まぁな。」


どうせ再会ってだけで何年もあいだが空いて、その間にも色々あったわけだし。


しかも赴任してきてすぐ『まだお前ら一緒にいんのかよ。』って嫌そうな顔して言われたことまだ忘れてないし。


「…ある大学からスポーツ推薦の話を頂いたんです。『是非うちに来て欲しい。』って。」

「へぇ、良かったじゃん。どこ大?」

「…アメリカ。」

「ぶっふぉ!ゲホッゲホッ…だお前…っはぁ!?アメリカ!?」


缶コーヒーを口に含んでいるのも含めて全て吹き出し、こぼした。


その反応になるのも無理はない。そんな雰囲気微塵もなかったよく知っている生徒がそんな事を言うんだから。


よりによっても俺っていうね。そりゃさすがの表情筋死んでる七瀬くんもびっくりだ。


「前に試合に来ていたアメリカの大学でバスケのコーチをしている人がたまたま見に来ていてそこで…。」

「はぁ…お前全然そういうオーラねぇけどすげぇんだな。」

「その一言いらないです。」

「なんで悩んでんの?トップアスリートになれるんだぞ。」

「別に目指してないし俺英語なんて苦手中の苦手だし、みんなに会えなくなるしそれに…。」


今まで言わないように隠していたことがこぼれる瞬間だった。


「…俺に声がかかってはっしーに声がかからなかったなんて知られたら絶対にはっしー傷つく。」

「…は?お前それ本気で言ってんの。」

「作戦を練っているのは俺かもしれないけど、総合した技術ははっしーのほうが上。はっしーは俺が無理だと思う作戦に対応してくれるから。」


そう、本当にお誘いされるべきなのははっしー。点を採ってるのだってはっしー。


俺にバスケの楽しさを教えてくれたのもはっしーだから。


だから…。


これをもし言ってしまったら?どうなるの?


楽しさを教えてくれたはっしーは、教えてもらった俺がアメリカの推薦枠を頂いたって知ったら?


俺がはっしーだったら、劣等感に押し潰される。


さすがの俺でも素直に喜ぶことなんかできない。今まで二人でやってきて、そこから急に一人だけなんて…。







『俺達最強コンビだからな!』

『そうだね!最強コンビ!』

『俺達コンビニかかれば敵なし!絶対に二人でオリンピックに出ような!』

『うん!』







正直オリンピックなんてもう遅いしそんな子供の頃の約束なんて、はっしーが覚えてるかどうかなんかわからないけど。


約束は約束、だから…っ。


「…お前はその作戦通りに動けてんの?」

「自分が練ってるんだから多少難しくても動けなきゃだめでしょ。」

「じゃあお前もすげぇよ。」


そんなのわかってる。自分が人よりバスケが上手いことなんて知ってる。だから海外からの誘いだって来た。


そんなのはわかってるんだよ。だから…。


だから、そのせいで一人の親友が傷つくのは嫌だ。だったらバスケなんて上手くなかったほうが良かった。


こんな思いするなら最強コンビなんてならなければ…あのはっしーの試合後の笑顔を見なくて済んだのに…。グータッチだってしなくて済んだのに。


今までのバスケとはっしーと過ごした思い出が鮮明に思い出される。


楽しかった。今までずっと何も考えないで楽しくバスケをしてきた。


でもそれがプロの道になったらそうとはいかなくなる。きっと俺が思う『楽しいバスケ』はできなくなる。


はっしーがいないなら尚更俺は楽しめなくない。


でもそれでせっかくのチャンスを蹴ってもいいの…?俺に期待してくれている人がいるのに。


でもそこにはっしーはいない。俺ははっしーとじゃないとバスケを楽しめない。


でも…。


「俺お前の試合見たことあるよ。」

「…え。」

「的確な指示に仲間のメンタルケア、素早い動きに確実なパス。あでもシュートは苦手なんだな。」

「う…。」


痛いところをつくけど、ちゃんと見てくれてるんだ…。


「信也は隠されてる方嫌だと思うぞ。『なんで言ってくれなかったんだよ…お前俺に遠慮してんのか?』っていうタイプ。めんどくさいぞ。」


確かに、杉ちゃんの時に色々あったときのはっしーはたしかにめんどくさい。これがまたあると思うとみんなにも申し訳なくなる。


…やめよ。


ちょっとアメリカで本格的にバスケやるのも考えていたけどやっぱりはっしーがいないバスケなんて楽しくないし。


最初から自分の中の答えは出ていたんだ。


「にしてもアメリカは予想外だったわ。アッポー。」

「それしか言えないんでしょ。」

「まぁな。」

「…あっははは!もう…なにそれ!」

「…お前やっぱり笑ってる方いい。」

「え?」

「お前目でかいから真顔っていうか表情筋死んでると怖い。」

「う、嘘…。」

「笑ってな。その方かわい。」


机に横になってこっちを見ながら七瀬くんは見たことないような顔で笑った。


まるで、ペットか何かを見るような目で。


七瀬くんの細くて長い指が俺の髪に触れる。


「…可愛くない。」

「口答えは可愛くねぇなぁ。」

「別にいいし!」

「そういうとこ拍にそっくりだなお前。」

「似てないもん!」

「可愛いなぁ。」

「可愛くない!」


心臓がうるさい。この人といるとやっぱり普通を保てない。色々狂わされる。


思考も、表情も、身体も。


何なんだよ…ずるいよ、先生。

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