リレー
今日から体育祭シーズンに入る。
体育祭は俺が大好きなイベントの一つ!空良と吉竹は毎年しんだ顔してるけど。
今日はその種目決めをする。俺が出たいのはもちろん…。
「これから体育祭に出る種目を決めます!」
なんて思っていると学級委員長の拍が前に出て話し合いを始めようとした。ちなみに副委員長が学年のマドンナの久瀬紗知。
久瀬は学年のマドンナとして有名だけど実は杉崎を狙っているという噂をよく耳にする。
男からすればめちゃめちゃ可愛いが俺からしたら絶対に油断してはならない相手な気がする。
「質問。」
「なに吉くん。」
「全員参加の種目以外は出なくていいですか。」
「だめ。全員種目以外は必ず一つに出るの。」
「うぇぇ…。」
俺達の中で断トツで運動嫌いなのは吉竹。できないわけじゃないけど体力がないらしい。
確かに運動神経はいい。反復横跳びめっちゃ早いし。すぐバテてるけど。
「基本的に女子男子別れてるし女子は女子で決める?」
「いいの?じゃあそうさせてもらおうかな。」
そうして教室の端と端で男女で分かれて決めることになった。
まぁ俺は出たいの決まってるし、正直戦力だってみんな思ってるから任されたやつやるか。
「めんどくさそうなのから決めよっか…じゃあリレー。やりたい人っていうか足速い人一人。」
「俺やる!他にやりたいやついるか?いないよな!じゃあ俺!」
「ちょっとちゃんと聞きなよ。男子リレーは橋くんでいい?」
真っ先に手を上げてやった。
俺が一番足速いし俺しかいない!何より脚が速いのはかっこいいからな!はは!
「おいちょっと待て!これ見ろよ!」
もうほぼ俺になりそうな時に一人のやつが声を上げた。
そいつが指を指しているのはうちのクラスでやったこの前の体力測定の50m走の記録。
「この前の体力測定の50m走黒川と橋本同着だ!」
な、なんだってぇ!?
…いや問題ない。だって黒川こういうのやりたがらないしうんうん。大丈夫…大丈夫だ絶対。
俺は『空気読めよ』と黒川に目で圧を送った。
「いいかお前残酷なことを言うがよく聞け。橋本、お前は身長が低い。」
「は?」
「身長が高い黒川のほうが有利だと思わないか?」
「いやまぁたしかに。」
「テープ切るときも体長めに前出るしな。」
「長めってなに。キモい感じに言わないで。」
おい待ておい待て!なんで黒川が走る雰囲気になってるんだおかしいだろ!?
たしかに明らかに女子人気は黒川のほうが高いしそれに黒川が走るってなったら体育祭は大盛りあがりだと思います!
けどそれはすごいムカつく。男のプライドが許さない。
きっとそうだ。黒川に走らせようとしてるこいつらだって絶対同じ気持ちになる。だってこいつら彼女も彼氏もいねぇもん。
「お前らよく考えろ!うちのクラスの足速い担当は俺しか務まらないだろ!」
「何を言ってる。」
「黒川はどっからどう見ても典型的な足速いキャラではない!俺はどうよ!もろだろもろ!」
「もういっそのこと旭が出るとか。」
「えぇ!?俺嫌だよ…。」
「違う名前を出すなぁ!」
「いいじゃんバスケ部で二人で出なよ!」
「いや一人だって言ってるでしょ。」
「それかもう拍と黒川の不仲コンビで!」
「めっちゃいい!それにしよう。」
「だから一人だって!」
拍がイライラし始めた。こいつダラダラしてんのめっちゃ嫌いだもんな、こえぇ。
まぁ早く決めたいのは俺もだけど。俺が1位でゴールを決めて杉崎が『信也…か、かっこいい…っ!』ってなることを望んでいるんだ!
「俺やりたくないしいいよ、橋本やりなよ。」
「何だよその譲ってやるよみたいな感じ…。」
「いいの。俺のことなんて気にしないでやって。最後の体育祭なんだから。」
なんっだこの腹立つ感じ…そんなにやりたいなら仕方ないから譲ってあげますよみたいなスタンス…。
てかこいつハナからやる気なんてサラサラなかっただろ!
「…俺やらねー。」
「はぁ!?」
「ちょっとせっかく決まったのになんで?」
「なんかすげぇムカつく…!見ろあいつの顔!」
「いいよ…やっても。」
なんかこれじゃ俺が悪者みたいじゃねぇかよ!
「クッソ腹立つ…っこうなったら意地でもやらねぇ。」
「えぇ…じゃあ吉くんやる?」
「お前喧嘩売ってんのか?」
「もうはっしーやりなよ。」
「お前以外やりたいやついないって言っただろ?」
「橋本ぉバスケ部の名誉にかけてやれよぉ。」
「やだ。」
同じバスケ部のやつらがそう言ってくる。本当はめちゃめちゃクソやりたいけど一気にやりたくなくなった。
ネタだとわかっていても無性にイライラする。
「ほら奥さん行け。」
「誰が奥さんだ!」
空良を奥さんって言うな。
「杉崎が言えばなんとかなるかもだろ!」
「ほらお前のこと大好きなダーリンが拗ねちゃってるだろ!」
「全くもう二人して素直じゃないんだからぁ。」
「知らねぇよ…ってなんでお前ら知ってんだよ!」
「有名だろもう。」
「もう自分のこと好きってわかってるのに一切返事しない思わせぶり杉崎くん。」
「しかも名前呼びに昇格。」
「ひゅーひゅー!」
「僕がバラした。」
「死ね拍!」
「ねぇ女子全員決まったよ。」
ごちゃごちゃ余計なことを話している間に女子は全ての種目が決まったらしく久瀬は紙を見せてきた。
「え嘘、早ない?」
「女子少ないし。男子はあとなにが決まってないの?」
「…全部。」
「おそ、ウケる。」
はぁ、馬鹿みたいなことしてないでちゃっちゃとリレーやるって言っちゃお。どうせ黒川にやる気なんてなかったしな。
あの俺だけに見せる楽しんでる顔拍にも見てほしいわ。
「おい。」
空良が俺の肩をつついた。ゲロかわ。
「…耳貸せ。」
急にそう言われて俺は少しだけ背伸びをした。すげぇ嫌けど俺のほうが身長低いしな。
いつか絶対越してや…。
「…リレー勝ったらちゃんと返事…する、から…っ。」
「る。やる。」
「はい?」
「俺リレーやる。」
「何で鼻血出してんの。」
「ウェーイまず一個決まったぜぇ!」
「まだ一個だけどね。」
「電光石火の橋本様とは俺のことだぜ!」
「そんなの誰が呼んでるの…?」
やっべぇぇぇぇぇぇ……!
ついフリーズしちまった…。
耳元で好きな人の声聞けるってだけでも十分やばすぎるぐらいにやばいのに言われた内容があれって幸せすぎだろ!死んでもいいわ!
返事って…返事ってそうだよな!?告白の返事でいいんだよな!?!?
やばいもしやこれが噂のイケメン神黒川様のおかげかもしれないこれは。嗚呼ありがたや…。
早く来い体育祭!何なら明日でもいい!
「はぁ…。」
「杉崎体育祭楽しみだね。」
「は…っ!?」
「俺は地獄耳だから。」
「黒川…お前まじでっ!」
「はは。俺も告白しちゃおっかなー。」
「失敗しろ。」
「やだねー。」