これからに期待。
「旭好きな人いる?」
「へ!?い、いない…けど。」
家で漫画を読んでいたらいきなり弟にそう言われた。
ヤバい心臓止まるかと思った…、というか俺咄嗟にいないって誤魔化しちゃったけど大丈夫かな…。
「…恋ってどういう感じなんだろーって。」
「恋…。」
「好きな人いたことある?それはあるでしょ。」
「う、うーん…どうでしょう。」
言えない。あんなクズな保健の先生を好きなんて絶対に弟に言えない!
言ったらイメージが崩されるというか…そもそもイメージとかは別に気にしてはないんだけど…。
頭の中が余計な言い訳ばかりになった。
「僕好きな人できたことないからそういうのわかんないんだよね。」
「え、ないの?恋したこと。」
「ないよ?だっていつもこのメンツでいるし、それに僕はプライド高い近寄りがたいやつだって思われてるみたいだからね。」
「自覚あるんだ…。」
「まぁ事実だし。大したプライドもないやつに言われたところでって感じ。プライド高くて何が悪いんだよ。」
拍はそのプライドの高さ、意識の高さから周りから少しだけ距離を取られていた。
空気は読むけど、言いたいことはハッキリ言う。
違うものは違う。だめなものはだめ。嫌いなものは嫌い。
そんな拍のことを『絡みづらい』『怖い』と思う人は少なくなかった。
でもそれを拍も気にしている様子はなく、今の状態になっている。俺は拍のそういうかっこいいところに密かに憧れている。
「…拍のことをみんながみんなそう思ってるわけじゃないと思うよ。」
「旭…。」
「ちゃんと拍のそういうところも受け入れて拍のことわかってくれる人、いるよ。」
俺だけじゃなくて、創ちゃんも、よっしーも。
「…誰それ?」
「え。」
「あ、もしかして自分のこと?」
「ちが…。」
「旭は優しい!僕はそんな旭が大好き!」
「あ、あははは…。」
笑顔でそんなふうに抱きつかれたら違うと言えなくなった。
違うのに!拍のことを恋愛的な意味で好きな人がしっかりいるのに!しかも身内に二人も!
「はぁーあ。橋くんは杉ちゃんのこと好きじゃん。杉ちゃんどう思ってんだろうね。」
「どうって?」
「だって三角関係だよ?やばくない?友情とるか愛情とるかってことでしょ?ひゃー。」
今すぐに杉ちゃんとはっしーに『お前もだよ!』と叫んでほしい。
「…拍はもし自分をめぐって三角関係がで…。」
「いやめんどくさいの嫌だからどっちも振るけど。」
「えぇ!?振るの!?」
会話を遮られるほどの即答で返されてしまった。
「僕が好きな人がそこにいれば話は別。好きじゃない人二人からアプローチされたら振るって話。」
「そうだよね、よかった。」
全部振るのかと思った。びっくりした…。
というか拍ってずっと前から創ちゃんのことが好きなんだと思ってた。だから両片想いなのかなってずっと思ってたけど違うのかな…。
違うとすればよっしーにも可能性は十分にある。俺は最初よっしーが拍のことを好きって聞いたときは少し難しいんじゃないかなって思ってしまっていたから。
二人のうちどっちか一人を応援なんてできないし、俺はどっちも応援したい。恋愛は勝負だって勝手に思っている。
「…黒くんと吉くんって同じ人好きなのかな。」
「…ん?」
「いやなんかたまにそんな感じの会話聞くなーって。」
「……。」
「この前はね吉くんが『俺の方があいつに優しいし。』って言ってて黒くんが『俺との会話に割って入ってるだけでしょ。』って。」
こんなピンポイントで思ってることと同じこと話されることがありますかね!?
腕を見るとしっかり鳥肌が立っている。
ゾッとしたしあんなにあからさまな対応されて二人の気持ちに気づいてないことにもびっくりしている。
「ねぇねぇ知らない?よく三人で話してるくない?」
うわぁ期待の眼差し…。
三人で話してる理由は君の家での行動とかそういうことを勝手に話してるんだよなんて口が裂けても言えない。
「誰?誰が好きなの?」
「そういうのは本人に聞いたほうがいい!」
迫ってくる拍のことをグイって自分から離してそう言ってしまった。
本人の口からなんて絶対教えてくれるわけないのに。だからといって俺が勝手に言うなんてこと絶対にできない。
「…そんなの教えてくれないよ。」
申し訳ないけど、俺は部外者だし何も教えてあげられない。
「なんか僕そこ二人に嫌われてる気するし。」
「え…?」
「なんかたまに僕抜きで話してるんだよね。全員で話してるときも俺がなんか話せば二人でどっか行っちゃうし。」
「そんなことない。」
向こうが好きすぎるがゆえにしますすれ違いが起きてしまっている。
拍がなんか可愛いことを言えばそれを共有しているなんて…めっちゃ変だし言いたい、けど俺が言うことではない!
誤解をなんとしてでも解かなきゃ。勝手に言うのは悪いことだけど、好きなのに嫌いって思わせてるままなのはもっと悪いことだ。
それに拍にもいい恋をしてほしいしこの場に居づらいなんて思ってほしくないから。
「あの二人が拍を嫌いなわけない。」
「…どうせまた根拠もなにもないんでしょ。いいよ別に僕そもそも黒くんのことなんて…。」
「あるよ!だってあの二人は拍のこ…はっ。」
「あの二人は?」
『拍のことを好きなんだから!』
言いそうになった。
「…本人たちに聞きに行こう。ね!?」
「は?…正気?」
後日、俺に引き気味の拍を連れて二人のところへ『拍が二人は自分のことが嫌いって思ってるみたいなんだけど。』と聞きに行った。
言ったのは俺だからなんともわざとらしい。
「嫌いなわけ無いだろ!」
「嫌いだったら一緒にいないんだけど。」
「…あっそ。別にどっちでもいいけど。」
「だ、だよねぇー!」
よっしーと創ちゃんにはこの休日何があったんだと根掘り葉掘り一時間近く聞かれた。