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恋なんかじゃない。  作者: おたくだが
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タバコの人。


藤野旭。高校三年生。好きな食べ物はいなり寿司で嫌いな食べ物はレーズン。趣味はバスケ…なはずだったんたけど。


「…お前らなんでずっとここにいんだよ。」

「暇なんだもん。旭が鼻血出しちゃったんだから仕方ないじゃん。」

「何が仕方ないんだよ。お前らはなにもないだろ。早く授業戻れ。」


バスケの授業で隣にいた子の肘に鼻をぶつけて盛大に鼻血を出し、今は保健室にいる。


そして何故か全員揃っているいつメン。サボりたいのが見え見え。


最初に保健室に連れて行くって言ってくれたのがよっしーで、杉ちゃんと創ちゃんは球技が苦手だからまだわかるんだけど。


「誰が旭を教室まで連れて行くんだよ。」

「そうだよ!旭が可哀想。」


この二人はなぜ…。別に球技が苦手というわけでもないしむしろ好きな方なのに。


言えることはただ一つ。


サボりたいんだろうな。絶対そう。


「んなの一人で行けんだろちいせぇガキじゃあるまいし。あ、デカいガキか。」

「うわさいてー。それ生徒に対する言葉なの?」

「俺養護教諭だしー。授業しないしー。」

「養護教諭が生徒が真面目に勉強してる時にタバコなんて吸ってていいんですか?」

「いいんだよ今日まだ誰もこねぇし。」

「人いない時に吸ってんのかよ…。」


この人は俺達の学校の保健の先生。七瀬くん。


七瀬くんは俺達が小学校一年から三年まで同じ学校にいて、それからは人事異動で会えなくなっていた。


だけど、高三になって七瀬くんが養護教諭としてこの学校に異動してきた。


俺達のことまでしっかり覚えて…まぁ覚えられてるだろうなっては思ってたけど、みんなキャラ濃いし…。


「嫌ならお前はマスクしてまで来るなよ。」

「俺喘息持ちだし。」

「そーだそーだ!心配なら空良のためにもタバコをやめろ。」

「あぁ?…お前『空良』呼びだっけ?」

「は、はぁ!?そうだよ!最初から!」

「『杉崎』呼びだったくね。えなになに、何があったん教えろ。」

「だー!きもい!別にどうだっていいだろうがよ!」

「もうやめろよお前ら…。」


さすが鋭い。俺達も最近はっしーが杉ちゃんも名前呼びするのにはなかなか慣れない。なんか二人はお互い名前で呼ぶ約束をしたらしい。


杉ちゃんは『し、しん……っ、橋本…。』ってなって『なんでだよっ!』ってはっしーがなってる。


見てておもしろいって創ちゃんの中では大絶賛。


「てかそれ吸ってんのバレたら七瀬学校辞めんの?」

「辞めさせられるだろうな。お前らのせいで。」

「まぁ…七瀬だし。」

「だねー。」

「どういう意味だこのやろ。」


七瀬くんは毎日タバコを吸う。そして大のお酒好き。


この前、コンビニから大量の缶のお酒を買って出てくる七瀬くんを見た。俺には気づいてなかったみたいだけど。


ピアスも耳だけで六個開いてる。おへそと舌も。これは小学生の時腹痛で保健室に来た俺だけにこっそり教えてくれたこと。







『旭、教えてやる。俺へそと舌に穴開いてんの。』

『おへそは俺も穴あるけど…舌?』

『そうベロ。ほら。』

『うわ!なにこれ…っ!』

『ピアス。へそも同じようなの開いてんの。』

『ピアスって耳だけじゃないの?』

『開けれるもんならどこでもいいんだよ。開けてやろうか?』

『開けたい!』

『これでバチン!だぞ。』

『ば、ばちん…やめとく。』

『あっはっはっ!開けねぇよ。俺が怒られちまうだろ。』

『…痛くないの?』

『んー…まぁそれはお前が開けたときにわかるから。これはみんなには内緒な。俺達の秘密。』







「小学生の頃は吸ってなかったのに。」

「車で吸ってた。」

「じゃあ今も車で吸えよ。」

「馬鹿共がよく見ろ、電子タバコだ。前は煙出てたからわざわざ車で吸ってたけど今はこんないいものがある。出るの蒸気だぜ。俺のために作られたに違いない。」

「有害物質がしっかり出てんだろうが。」


なんて頭の悪そうな考察に対する的確すぎる杉ちゃんのツッコミ。


七瀬くんは誰も保健室にいないときは平気でタバコを吸う。だから誰か来る前は足音で把握して、すぐにファブリックミストをかけているらしい。


よくバレないなと思う。関心はできないけど。


「ここで酒飲まねぇだけまともだと思えよ。」

「何言ってんだこいつ。」

「クソだな。」

「酒カス。」

「ヤニカス。」

「パチンカス。」


よっしー→杉ちゃん→はっしー→創ちゃん→拍の順で見事な悪口リレー。


口が悪い者が揃うとこうも息ぴったりになるんだなと毎度のことながら関心してしまう。


「パチはやってねぇよ、あんなの金の無駄だからな。てかお前らいい加減もう出てけ。創太、お前授業終わり一人で迎えに来い。」

「えー!なんで黒川だけ!?」

「お前らの中だと一番静かだろ。あ、言っておくけど消去法だからな。」

「はぁ…。」


確かに創ちゃんがいいけど…この消去法はあの二人が…。


「僕弟!」

「俺同じ部活!」


うるさいんだよなぁ…。拍とはっしーって全然似てないけどこういうところそっくりなんだよね。


小学生の時も何かでこんなことあった気がする。


「うるせぇな。喘息持ちの空良くんのためにも早く出ていったほうがいいんじゃないんデスカネ。」

「俺マスクしてるし。電子タバコ副流煙出ないし。」

「お前どんだけバスケ出たくないんだよ。」

「体育に出たくないんじゃなくて授業に出たくないの。」

「出てけ。」


杉ちゃんと言い争いをしている間にヒョイっと五人はあっという間につまみ出されてしまった。


「ちっヤニカスが!」

「小学校の頃から変わってないよねほんと。」

「なんでこの高三になるタイミングで来ちゃうのかな。」

「まぁ正直七瀬みたいなのが一番楽だけどね。」

「それはそう。」


ドアの向こうでまだ五人の声がする。これはわざとなのかどうなのか…。


しかもさっきの悪口コンボと同じ順番。


「あいつらやっぱり俺のこと完璧舐めてやがるな…。高学年あたりから気づいてはいたけど。」

「……。」


騒がしいのが嵐のようにいなくなって一つの部屋で時計のチクタクという音と七瀬くんがタバコを吐き出す音だけが聞こえる。


「…お前何回目だよ。」

「は、はい!?なにいきなり…。」

「今年入って保健室来んの何回目だって聞いたんだよ。」

「お、俺体弱くて…。」

「嘘つけお前、去年の保健室の来室記録見たけどお前の名前ゼロだったぞ。」


今年に入って保健室を利用したのは八回。頭が痛かったり、お腹が痛いなど何かしらの理由をつけて行っていた。


というか来室記録見たってもしかして俺のこと心配して記録見てくれたってこと…なの?


「…えっち。」

「何がだよ。…ったく、小学生の頃からお前が体調悪いみたいな理由で来ると必ずあいつらも来るんだよな。五人もいらねぇっつーの。」


相変わらず口が悪い。本当に保健の先生?前にも増して柄悪くなってる。


髪もシルバーになんて染めてるし、クマはすごいし。


朝だって頭抑えて来てたし絶対二日酔い。顔色も悪い。どうせ朝まで呑んでた。


「お前わざと顔面当たりにいっただろ。」

「そんなことない…。」

「お前むかしからわかりやすいんだよ。そんなんで彼女できんのかよ。」

「彼女なんて…。」

「何、彼氏のほうがいい?」

「そういう意味じゃ…。」


ニヤッとする七瀬くんの顔は相変わらず子供っぽい。してることは大人なのに表情はなんだか子供っぽい。


よっしーとか拍はこういうときガキくさいって言う。


そう、わざと当たりに行った。頭から転ぶか迷ったけど。七瀬くんはなんでもお見通し。


隠し事なんてこの人にはできないんだ。全部見透かされちゃうから。


「…会いに来てんだろ?俺に。」

「…だめ?」

「…匂いついていいならな。」

「いいよ、ついても。」

「馬鹿ガキ。」


こんなタバコ臭い大人のことなんか好きになるはずじゃなかった。


終わったはずの初恋は終わっていなかった。

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