橋本家。
「信也!」
「…んだようるせぇな。」
「また私の化粧水勝手に使ったでしょ!あんたのと違って高いから絶対使うなって言ったわよね!?」
「だって俺のなくなってたし。」
「だったらお母さんに言うか自分で買うかしなさい!」
「てかそんな高いの使って変わんないなら金の無駄だと思うけど。」
「なんですって!?」
「豚に真珠だって。用終わったなら早く出てって。ゲームするから。」
「はぁ!?ちょっとお母さん!信也がまた私の化粧水使うんだけど!」
うるさい姉が足音をドタドタ立ててリビングへ走っていった。
高いの使っても安いの使っても大して変わんねぇし。ほんとうるせぇ。
イライラしてくると腹が鳴った。冷蔵庫にシュークリームがあったのをふと思い出し仕方なく俺もリビングへ行った。
「はぁ…ガチうるせぇ。ちひろくんならあんなに言わねぇのに。」
「あ、信也また莉音の化粧水使ったの?」
料理をしていた母さんがそう言われた。
俺の姉の莉音はなんでもすぐ母さんにチクる。チクり魔だ。
「もうなかったし。」
「何回も言ってるけど無くなる前に言いなさいよ。」
「はいはい。…ん?ねぇ母さん俺のシュークリーム知らない?」
「え?知らないわよ。」
「信也、ん。」
ソファに座っている莉音の呼ぶ声がして見ると俺のシュークリームを咥えゲームをしている。
「あー!?お前何俺のシュークリーム食ってんだよ!返せ!」
「はいあーん。」
「うわきったねぇ!口ん中見せんな!」
「返せって言ったのあんたでしょ。化粧水使ったんだからこれぐらいでキレんな。」
「はぁ!?」
「ちっちゃい男。」
「うるせぇ!あ!エクレアあったよな!」
「それも食べた。」
「は!?」
「ばーか。」
「くそが!」
「あんたたち二人共大人げないわよー。」
莉音はニヤニヤして『ざまぁみろ』とでも言いたそうな表情をしている。
周りは俺の性格がどうこうって言うけどこいつほどではない。こいつは本当に性格が終わってる。だから彼氏が今まで一人もできたことねぇんだよ。
双子の旭と拍が羨ましい。杉崎四兄弟も喧嘩するけど楽しそうだし吉竹兄弟はちひろくんがいるし。
女の兄弟がいるなら杉崎の妹の陽菜ちゃんみたいに妹がよかった。『姉ちゃんいるとかいいな』とかよく言われるけど全然良くねぇし。
「ねぇ今ピンポンなった。」
「あ、誰か来た。お母さん手離せないからどっちかでてくれる?」
「姉ちゃん出て。」
「はぁ…別にいいけど。」
ソファからどいた隙にソファを占領。そしてゲーム機を自分のものにする。作戦成功。
「はい…ってれ、れれれ蓮斗!?!?」
ん?蓮斗?
姉の変な声と知っている名前が聞こえて少し会話を盗み聞きしてみることにした。多分相手は杉崎兄弟の次男。
「あれ、莉音?久しぶりじゃん。」
「やだ…私今すっぴんだし…。あんま見ないで!」
「別に気にしないけど。」
「私が気にするの…っ!」
「俺昨日から帰ってきてるから寄っちゃった。」
「なに女になってんだよ気持ち悪ぃ。」
「あ、あんたねぇ!」
今すっぴんっていうか今までもずっとすっぴんだったくせに。
言ったら絶対殺されるから言いたい気持ちをぐっと堪えた。
「あ、信也だ。久しぶり。お土産持ってきたよ。」
「まじで!?高い!?」
「さぁどうでしょう。」
「え、は?」
「あー俺空良から連絡来てさ、莉音が俺に会いたがってるって信也に言われたって。」
「はぁ!?」
「事実じゃねぇかよ!」
「そういうのは普通言わないもんでしょ!」
「え、違うの?」
「違くない!違くないから!」
顔赤いしキョドってるし必死でウケる。
蓮斗くんも可哀想。せっかく仙台から来たのにすっぴんの前髪なし眼鏡女を見なきゃいけないなんて。
「じゃあ寒いから上がってもいい?」
「へ、へっ!?ちょ、ちょっとリビングで待ってて!部屋には来ないで!」
姉ちゃんは急いで階段を駆け上がっていった。汚い部屋の掃除と化粧と髪のセットをやる気だ。
今夜の七時だけど。普通ならメイク落とす時間にメイクする俺の姉って一体。
「ガチャガチャうるせー。」
「莉音片付け苦手だから、やっぱり上がらない方よかった?」
「姉ちゃんがいいならいいんじゃね。俺下でゲームやるし。」
「そう?」
蓮斗くん姉ちゃんの事知ってるし隠して片付けしててもバレバレだし。てか普通音でわかるし。
というか蓮斗くんは姉ちゃんのこと好きじゃないのか?こんなにアピールしてるのに…。個人的にはそこ付き合ってくれたら俺も杉崎にアピールしやすいんだけど。
「お待たせ!」
「ぶふっ!」
走って降りてきたのはバッチリメイクに巻き髪の完全によそ行きの姉。
どうやったらたった五分でこんな完璧に準備できるんだよ。しかもちょっと上から我が家に合わないいい匂いがする。
なんかふりかけてきたな。リビングは完全にカレーの匂いだって言うのに。
「蓮斗くんご飯食べてく…って莉音何今からお化粧してるの?」
「してないし!」
「いやあれは誤魔化せないだろ。ガッツリカラコン入っててラメギラッギラだし。」
「信也は相変わらずデリカシーないね。」
「ほんとよ…絶対上来ないでよね。」
「誰が行くかよ。」
「おばさん、それでは少しお邪魔していきますね。」
「いいのよ〜、じゃあお夕飯できたら呼ぶわね。」
「ありがとうございます!」
「避妊しろよー。」
「しね!」
姉ちゃんは階段からゲームのコントローラーを投げてきてそれが俺のデコに当たる。
「いってぇ!」
「今のは信也が悪い。」
「産まれたら大変だろ!」
「産まれる前の問題だけどね。ほら、お姉ちゃんのかまってちゃんやめて少しはお母さんのこと手伝って。」
「ちげぇし!」
いつものノリでからかっただけなのになんであんなかてぇもの投げられなきゃいけねぇんだよ。クソ痛いし。
投げられた衝撃で今やって多分のデータが消えたから夕飯の手伝うをすることにした。俺はカレーをかける前にご飯を盛った。
「保育園入る前の頃はあんた莉音のこと大好きだったんだから。」
「なわけねぇし。嫌いだったし。」
「莉音と一緒じゃなきゃ寝れないし、お菓子だって莉音と半分じゃなきゃ泣くしで大変だったんだから。」
ちょっと心当たりがあるのが悔しい。
確かに小さい頃は姉ちゃんが大好きだった。優しくて強くてかっこいいって思ってた。
でもそんなの過去の話。今は全然優しくねぇしだらしねぇし超うざい。人って変わるんだなってレベルで変わってる。
「そんなあんたが年中ぐらいになったときから莉音から離れて友達と遊ぶようになって莉音は寂しがってたりね。」
「…そうなの?」
「そう。杉崎杉崎言うからどんな子か見に行ったら蓮斗くんと会って一目惚れして今って感じよ。」
「俺への気持ちなんか一瞬じゃねぇかよ。」
「お母さんは全部知ってるしあんたがそう思うならそうでいいけど。」
「…知りたくねぇし。」
確か姉ちゃんがあの頃から蓮斗蓮斗言い出して、それが気に入らなくて姉ちゃんをかまうのをやめたんだった。
ガキの嫉妬だ。そこからどんどんお互い離れていって今みたいになっている。
まぁでもこの歳になっても彼氏ができない姉ちゃんには少しだけ優しくしてやってもいいかなって思ってる。俺よりいい男探す方が難しいだろうし。
「ちょっと信也!?これなに!?」
少しして姉ちゃんがまた下から降りてきた。顔が怖い。
えなになんでキレてんの、こわ。
「あ?どっからどう見てもパンツだろ。」
「なんであんたのパンツが私のベッドから出てくるのって聞きたいの!ほんとに気持ち悪い!はぁ!?」
「は…っ!?知らねぇよそんなの!」
「あ、お母さんが枕カバー変えたときに一緒に置いちゃったのかも…。」
「…莉音、もういいよ。大丈夫だから…。」
「ち、ちがうの!蓮斗!これは…っ!」
「兄弟仲良くて羨ましいよ。」
「し、信也ぁぁぁぁ!!!」
「俺じゃねぇって言ってんだろうが!」
やっぱりこんなのに優しくしたくねぇわ。あとこれの彼氏とか可哀想だからしばらく彼氏はできなくて良さそう。
姉ってやっぱりうるせぇわ。