嫌い。
「黒くん…っ!待って!」
「だめ。待たない。」
藤野拍。十七歳。
僕は黒くん、黒川のことが小さい頃から大嫌い。
いつも僕より上で、かっこいいところは全部持っていかれちゃって、そのくせに自分を鼻にかけないのが本当にムカつく。
僕は何かあればすぐにみんなに自慢するし、すぐに人のこと馬鹿にするしなんかそういう性格的な部分で明らかに黒くんのほうが大人なのもなんだかムカつく。
だいたい僕がこんなに性格が悪くなったのも全部黒くんのせいなんだから…。
「拍。」
「ふぁ!?」
ぼーっとしていると黒くんが僕の名前を呼ぶ声が聞こえてふと我に返った。
なぜなら目の前に黒くんの顔面がドアップに写っていたから。
やばいいきなりこんな整ってる顔面目の前にいたら心臓止まるわ。
相手が僕で良かったと思ってほしい。女子だったら失神状態だったと思う。
「何考えてんの?」
「別に…黒くんがうざいなって思っただけ。」
「なにそれ。」
こんなことを言われているときでも黒くんはにこにこ僕に笑いかける。
「今日泊まってく?」
「いい、見たい映画なくなちゃったし。」
「拍ホラーみてないじゃん。」
「あんなのみてもつまんない。黒くん悪趣味。」
「拍が怖がりなだけ。」
「なにそれうざい。」
嫌いなはずなのに一緒にいるのが楽しいなんてばかみたい。
そんなことを思ってしまう自分が気持ち悪いし嫌い。
周りは僕が黒くんが好きだとからかって勘違いしているけど実際そんなことあるわけがない。なんでも恋愛ごとにつなげるのをやめてほしい。僕は本気で黒くんが嫌いなんだ。
嫌いなはずなのに…。
どこの誰よりもずっと嫌いなはずなのにたまに変な感情になる。これは嫌いがゆえの感情なのかもしれない。でも今までだって嫌いな人だって山程できた。けれどこんな感情にはならなかった。
だから僕はわからない。意味のわからない感情に振り回されてもう三年が経とうとしている。
「家まで送る。」
「別にいい。」
「俺が送りたいから。」
「…馬鹿じゃないの。」
そのまま僕は黒くんに家まで送ってもらった。
家まで近くないのに、寒いだけで黒くんにメリットがあるなんてとても思えない。
「また明日ね。」
「…うん。」
黒くんはマフラーに顔を埋めて帰っていった。黒くんの白い息が空気中に上がっていくのがわかる。
「…また明日、ね」
僕はその場にしゃがみこんだ。
雪も降ってて寒いはずなのに顔だけなぜか熱い。
…やっぱり嫌いだ。