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恋なんかじゃない。  作者: おたくだが
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始まりの日 Ⅲ


六歳の頃、喘息が原因で東京から秋田に引っ越してきた。


知らない人たちばかりで正直怖くて、まともに人と話すことができなかった。目つきも悪い俺は周りから少し怖がられていた。


でもそんな俺にやたらとグイグイくるやつが一人だけいた。


「なぁおまえともだちいないの?」


橋本信也。


こんなに無神経なことを言うのはこいつだけ。


「…あっちいけば?それこそおまえもともだちいないんじゃないの?」

「いや!おれはいる!ほら!」

「おれはいいから!はなせ!」

「…おともだちいやがってるけど。」

「どこどうみたらいやがってるようにみえるんだよ。」

「どこからどうみてもいやがってるでしょ。あーもううっとおしい!」


俺は自分のクラスに戻った。


干渉されるのなんてなにも嬉しくないしあいつと友達になる気はない。ていうかしつこいやつ嫌いだし。なんなの本当に。


どうせいざとなったら助けてくれないくせになにが友達だよ。


当時の俺はかなり捻くれていた。


「わっ!」

「うわぁっ!?」


後ろからいきなり肩を捕まれおどかされた。俺が勝手に驚いたのほうが正しいかな。


後ろにいたのはもちろん橋本と少し後ろで吉竹が見ている。


「こえでっか!うわーんよしたけおれみみやったかもぉ!」

「へんなことするからだろ!」

「……。」

「うぉこえぇ…。」

「ほらもういくぞ、ごめんねすぎさきくん。」


睨みつけると吉竹は橋本をひっぱっていった。


橋本と一緒にいるあいつはなんなんだ。振り回されてるようにしか見えないんだけど。


思ったことはただ一つ。


『この保育園疲れる。』







「ただいま。」


保育園の時間が終わってバスで帰ってきた。


「おかえりー大丈夫だった?」

「うん。」

「お、おかえりなんか飲む?」

「おちゃがいい。」


俺には八歳離れた兄と七歳離れた兄がいる。そして下には二歳離れた妹が一人。


一番上の大地はサッカーをやっていて今からサッカーをやりに行くみたい。ユニフォームを着てボールを持っている。兄さんのスパイクは俺の憧れ。


次男の蓮斗はゲームが大好き。いつも家でゲームしてはやり過ぎで怒られている。よく教えてくれるから俺もゲームは得意な方。


「…陽菜は?」

「陽菜は友達の家行った。俺が帰り迎えに行ってくるから。」


陽菜は俺の妹。俺と正反対で友達もすぐできる社交的な妹。人形とかで遊ぶより外で体を動かして遊ぶ方がすきみたい。


この頃は可愛かったけど本当に今は生意気でなにも可愛くない妹だけどな。


「俺行ってくるから蓮斗、空良よろしく。」

「ん。」

「ばいばい…。」

「…早めに帰ってくるからな!」


そう言ってドアを閉めた。


秋田に来てすぐなのにもうサッカーチームに入ったらしい。早すぎる。


「…れんにいはなにもしないの?」

「うわ余計なお世話。俺はゲームできればそれでいいの。ほら手洗ってきな。」

「はーい。」

「あ、友達できた?」


絶対にされると思ったけどすごい答えに困る質問をされた。


普通の子ならここで『うん!できたよ!』って答えるんだろうけど俺は答えられない。でもここでできたって嘘つくのも…。


「…うん。できたよ!」

「そっかぁ、いつでも家連れてきていいからな。」


やってしまった。


まぁバレないようにすればいいだけ。友達は連れてこれないけど。


手を洗っているとき、ふと思ったことがある。


橋本って今日バスに乗っていたっけ。


バスに乗って帰るのがうちの保育園の一般的。この前はガヤガヤうるさかったのに全然橋本の声がしなかった。


別に心配とかじゃないし。ただずっとあの静かなままがいいって思ってるだけ。


そんなことを思いながらうがいをしているとインターホンがなった。そういえばお母さんが俺に靴を買ってくれていたんだ。


大地とおそろいのかっこいい黒のスニーカー。去年からおねだりしてやっと買ってもらったやつ。


蓮斗がはんこを持って玄関に行った。


「はーい、あれ…どした?」

「あの!ボールはいっちゃって!とっていいですか!」

「いいよ。」


宅配便じゃなかった。がっかり。


「…あの、うえなんですけど…。」

「うえ…ってあーベランダ入ったか。ちょっと待ってな。」

「ありがとうございます!」

「空良、この二人入れてあげて。」

「…げっ。」


家の前にいたのは橋本と吉竹。見るまで気づかなかった。ていうかなんでここにいるの。


「すぎさき!やっぱりここのおうち!」

「げ…っ。」

「にかいいった…。」

「なんでいんの…。」

「おれんちとなり!」

「は!?」

「おれのいえははしもとのななめむかい。」

「は、なにそれ…きも。」

「おまえがあとにきたんだぞ!」


いや知らなかったし。そういえば引っ越しの挨拶に行ったときはみんなは保育園の時間だからいなかったのか。


そうだったら知らなくてもおかしくないけど…だったらなんでバスにいなかったんだろ。


「…なんでバスにいなかったの。」

「いたっ!」

「いた?」

「あ、またかんだ!」


噛んだ?なに?


「いった!」

「みせて。…うわひどいねこれ。すぎさきくんみてみてこれ。」


なにかと思って見てみたら橋本の唇の裏に大きい口内炎ができていた。


「こいつこれでしずかだっただけでちゃんとバスにいたよ。」

「へ、へぇ…。」


まさかの理由に気が抜けた。


理由なんて考えてもいなかったけど口内炎なんてわかるわけがない。


「おーい、取れたぞ。」

「ほんとに!?」

「ほれ。」

「あ、ありがとうございます!」

「ありがとうございます!」

「気をつけてな。」


蓮斗がボールを渡すと嬉しそうな顔をして帰っていった。


「あ、まって!」


ドアをせっかく閉めたのに戻ってきた二人。


「すぎさき!あしたあそぼうな!」

「またあした。」


わざわざそれを言うだけのために戻ってきた。


いつもなら不快でムカつくのになぜかこの日だけは嫌な気がしなかった。


「あれが友達なぁ、へぇ意外。」

「…ちがうから。」


やっぱり友達って聞くとムカつく。


俺は冷凍庫の中のアイスを取り出してひとくち食べた。







友達なんかいらない。

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