冬の日。
「今日は本当にありがとうございました!すごい助かりました!」
「あーあーいいのいいの。」
「気にするな。」
ほとんど全ての生徒会の仕事が終わった。俺は杉崎の手伝いをしていたけど結構楽しかった。
「あーこれ明日筋肉痛だわ。」
「俺達四人の負担エグすぎだろ。」
「あ、お茶いります?」
「菊池気ぃきくぅ。」
「ありがと、貰うわ。」
「優稀くんはお砂糖たっぷりの紅茶ですよね?淹れたてどうぞ!」
「あ、ありがとうございます。」
生徒会室には生徒会メンバー持参のマグカップが置いてある。水は箱で常備して、生徒会室には小さなコンロもついていて、ポットもあるから聖くんがいろんな紅茶を持ってきて淹れてくれるらしい。
「へぇ、大人ぶってる割には舌はガキなんだな。」
「早く帰ったらどうですか。」
吉竹は遠藤くんをいじった。自分もブラックコーヒー飲めないくせにモテるために女子の前でブラックコーヒー飲んでたくせに。女子からの印象は悪かったけど。
荷物運びと本棚整理をしていた四人はもうクタクタでソファに横になっている。
ちひろくんが途中叫ばれてたけどなんだったんだろ。
「あ、空良さんそういえば…。」
「ん?なに。」
「…ちょっとこっち!」
菊池さんが杉崎を呼んで教室の外へ出ていった。足音を聞くとおそらく階段を登っていった。
そういえばそろそろ生徒会選挙だな…今は一年生もいるからその話かな。生徒会って大変そう。本当に入らなくてよかった。
俺は一年二年で推薦されて断り続けている。杉崎を見ている感じ俺には続けられそうにない。
「…おいお前ら。」
「あの二人についてなにか知らないか?」
松田先輩とちひろくんが険しい顔でそう言い出した。
「杉ちゃんと聖くんについてってことですか?」
「あぁ、どうも怪しい。なにかあるに違いない。」
「…なぜ。」
思わず言ってしまった。
なぜそうなるのかがわからない。結構な頻度で二人が一緒にいるのを見るけどお互い友達にしか見えない。
「…いや、なぜってそりゃあ、なぁ?」
「昨日の夜一緒に話してたまたま聖の話になったんだ。そこから空良の様子が変わったんだよ。」
「どんなふうに?」
「なんかこう…しおらしいというかなんというか。」
「要は杉ちゃんが菊池さんを好きってことですか?」
「……。」
「は?なんで黙るの。」
拍が聞くと二人は黙った。
「…も。」
「なに聞こえないんですけど!」
「は、反対かも…。」
「菊池さんが?杉ちゃんを?流石にないでしょ!あっはっはっ!元会長まじうけるんだけど!」
「菊池がなんで杉崎を好きになるんだよ。全く正反対だろあそこ。」
「……。」
「……。」
「二人して黙るな。ちゃんと話せ。」
「根拠はないけど絶対なにかあった。」
ないのになぜそう思うのかがわからない。
まぁでも確かに正反対だけど菊池さんはかなり杉崎に子犬みたいに懐いてるなとは思う。
最近も二人で買い出しに行ってるのたまたま駅前で見たけど、でも別にそんな特別な感じは一切しなかったけど。
「なぁ一年、あそこの二人どんな感じだ?じゃあ…涼!」
「えー…っと、熟年夫婦って感じしますね!」
「熟年夫婦!?あいつらが!?」
「はい!空良先輩が疲れて唸ってるとすぐにお茶持ってきて休憩しましょって言ってるんですよ!聖先輩!」
さっきは杉崎以外にも言ってたけど。
「優稀は!なんかある!?」
「あ、あと。」
「なんだ!」
「前に生徒会で焼き肉行ったときに、聖先輩が焼いた肉が真っ黒焦げでそれに聖先輩は気づいてないんですけど、空良先輩が自分の肉を聖先輩のところにサラッとおいて自分は黒焦げの肉食べてました。」
「うわうわこれどっちだ…っ!?」
杉崎それ俺達にもやるけど。橋本と吉竹以外に。
「てかお前今日静かだな。どうしたんだよ。」
「別になにもねぇよ。」
「あ?なに機嫌悪いの?」
「悪くねぇって。まじ賢佑うるさい。」
「はぁ!?なんだこいつ!お前の賢佑呼び初めて聞いたわ!」
「ま、まぁまぁ…。」
「……。」
なんだか橋本はさっきから一言も話さない。眠いのか疲れているのか。
それかこの手の話題が苦手…いやでもそんなはずはない。前にもクラスの人の恋愛事情みたいなのを聞いて一番盛り上がっていたし。
考えているうちに今狸寝入りを始めた。
「あの。」
「これ証拠になるかわかりませんけど俺二人が写ってる写真持ってるんですよね。」
「え、なになに。どんな写真?」
「絶対に二人には秘密にしてくださいね。言ったら先輩であろうと許しません。」
「言わないから早く見せて!」
「…景色を撮ろうと思ってたら写り込んじゃってたみたいで隠し撮りみたいな感じになっちゃったんですけど。」
遠藤くんはスマホに入っている写真を俺達に見せた。
「……え、これって。」
「嘘……っ。」
そこに写っている写真は一年の教室の窓から撮った校門から昇降口前までの道。
その木の下で杉崎の頬に手を寄せている菊池くん。二人とも顔は見えないけどすごい距離が近いのはわかる。
でもこの写真は思春期の男子からしたら…。
「キスしてるぅぅううう!?!?」
でしょうね。
案の定すごい盛り上がっている。特に松田先輩。
「は、拍すごいよこれ…!キスなんて初めて見たよ!」
「なんで少し嬉しそうなの…?」
「進みすぎだろ…。」
「いやこの感じはどこからどう見てもキス…。」
「ここからしか撮ってないからわかりませんけどね。」
「やっば…え、じゃあここ二人って付き合って…。」
「悪い俺帰るわ。」
「え!?いきなり!?」
「用事とかあった?」
橋本はいきなりスッ立って帰ります宣言をした。いつもこういうの最期まで残るタイプなのに珍し…って。
あー…なんか俺わかっちゃったかも。
「…まぁな、大した用じゃないけど時間決まってるから俺先に帰らせてもらうわ。」
「そっかぁ、ここからが面白いとこなのに残念。」
「後で話詳しく聞くから。ちひろくん、後で荷物取りに行くから俺の荷物家に置いてて!」
「わか…った。」
「じゃあな。」
「お疲れ様です!ありがとうございました!」
橋本は荷物を持って生徒会室から出ていった。
なんでわかっちゃうんだろ…これ多分皆はなにも気づいてないんだろうな。話の流れからしたらそれが普通なんだろうけど。
「…帰っちゃった。」
「用事あるなんて聞いてないけど。」
「…あ、ごめん皆、言い忘れてたけど俺店の手伝いしなきゃいけなかったんだよね。」
「えぇ!?黒川も!?」
「なんだ帰宅ラッシュかよー。」
「橋本と黒川いないとかつまんねー。」
「えー…どうしたの二人して。」
「たまたまだよ。じゃあ俺バス乗って帰る。ちひろくん、俺荷物明日でいい?」
「全然いいぞ。」
「ありがと。また月曜日ね。…あとさ。」
俺は荷物を持ってドアを開けた。
「憶測で話すのは勝手だけどそれを聞いてよく思わない人もいるから、そういうデリケートな話題は特にね。あんま色んな人に言わないほういいよ。気をつけなね。」
そう言って俺は上着も着ないですぐに橋本を追いかけた。靴だなを見ると橋本の靴がなくなっていた。
絶対に走って帰ったな。
どうしても本人に俺の思っていることがあっているのかを確認したくて、俺もすぐに靴を履いて雪道をガムシャラに走った。
角を曲がると橋本の後ろ姿があった。なるべく雪の積もっていない氷のところを走って追いかけた。
「はっ、はっ、はっ……橋本…っ。」
「は!?黒川!?なんでお前ここにいるんだよ?」
名前を呼ぶと橋本は止まって俺が自分近くに来るのを待ってくれた。
久しぶりに全力で走って疲れて息切れをしている状態で橋本の目の前に着くなり膝に手をおいた。
「橋本…足はや……はぁっ、はぁ…っ。」
「だって俺もう9年バスケやってるし…っておい質問に答えろ。」
「…勘違いだったらごめん。」
橋本は俺の頭から雪をほろいながら頷いた。
聞いたら橋本怒るかもしれないし俺の読みがあってるかどうかなんてわからないけど聞かなきゃなにもわからない。
「……もしかして橋本ってさ。」
「なんだよ…。」
「…杉崎の事好き?」