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恋なんかじゃない。  作者: おたくだが
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ヒーロー。


「それぞれの教室って言ってたから九クラスだけだと思ったら次は図書室の本棚整理だってよ。運ぶだけならすぐ終わったのに。」


各教室にものを置いたあと俺達は図書室の本棚整理を任された。借りた本を返却したあとの本がそのまま大量にあるから戻さなきゃいけない。


「てかこんなの図書委員の仕事だろ、なんで俺達が…。」

「多分菊池が頼まれて引き受けてるんでしょうね。」

「そういえば俺達も頼まれたことあるな。ていうか定期的に片付けとけよな。」

「…文句言うならなんで来たんですか。」

「だってこんなことまでやるなんて聞いてないもんな。」

「ちゃっちゃとやらせて終わらせましょ。」


図書室の貸出口の中に入るとそこには山積みの本が大量にあった。


え、なにこれ全部返却したあとの本?嘘でしょ。


「…この量ちゃっちゃと終わる量か?」

「うひーなんだこの量。どんだけサボってたんだよ…。」

「うわ見て予約表びっしり。これは本見つけられないのも無理ないわ。」

「苦情まで書かれてるし…置き手紙してかないと気ぃすまないな。」


【早くしろ!】

【本まだですか?流石に遅いです。】

【早く返却させろよ。】


かなりキレられている。確実に予約表の何冊かはこの中に絶対あるしなぜここまで言われているものを無視しているのかわからない。


「まず楽に済ませられるようにジャンルごとに分けよう。ここにあるやつとりあえずそこのテーブルにおいて。」

「はーい。」

「横のシール見て分けて。それ分け終わったらちゃんと返しておいて。」


松田先輩を主体として本わけ作業に入った。ジャンルもサイズもバラバラで嫌になる。


うわきつ見るだけで終わる気しないんだけど。


「これ予約って取り置きしてたほういいんすか?」

「そうだね。橋本くん予約表持ってきて。」

「うっす。」

「ねぇぶっちゃけ橋本くんってちひろのことどう思ってんの?」

「はっ!?な、なに言ってんだよ!」

「彼氏としては気になるんだよね。」


この人ほんといきなりだな…普通急にそんな質問中々できないけど。


正直なところ俺もよくわかってないし気になるは気になるけど絶対にタイミングは今ではない。いや兄貴がいない今か?


「…あの先輩。」


俺は一年生に肩をポンポンと叩かれて振り向いた。


「ん?…遠藤だっけ?なに。」

「OBのお二人って恋人なんですか?」

「そうだよ。」

「ほえぇ…。」

「なに羨ましいの?」

「そんな事あるわけないじゃないですか。学生の本分は勉強です。」

「それ実際に使うやついるんだ。」


君も一先輩好きなんじゃないの?と言いそうになったけど橋本の話が聞けなくなりそうだからやめておいた。


自分でも性格悪いと思うけど杉崎に詳しく聞くのが一番手っ取り早い。


「なーんか彼氏からしたら正直おもんないんだよね。自分の恋人が他のやつからきゃーきゃー言われてんの。」

「きゃ、きゃーきゃーなんて…。」

「自分はしてないつもりかもだけどこっちからしたらそう見えるってこと。」


橋本が予約表を持って戻ってきたところで物理的な距離を詰めた。


いつもの松田先輩じゃない。これは若干キレてる。


でも確かに会うたびに自分の恋人にベタベタされるのは嫌。それが溜まって兄貴のいないちょうどいい今爆発しているんだろ。


でもなんで今…?兄貴の話なんてなにもしていないのに。


「ねぇ、はっきりしてほしいんだけど。」

「……っ。」

「橋本くんってさ普段うるさいのにこーゆーとき静かになるよね。俺さ本当のことを聞きたいんだけど。」

「…俺、ちひろくんを恋愛対象としてみたことは一度もないです。」

「…へぇ、じゃあなんなの俺とのあの対応の差。」

「憧れっていうか…なんというか。」


橋本は下げていた顔を俺たちの方へ向けた。


「俺保育園の頃から、吉竹と家が近いっていうのもあってちひろくんにほぼ毎日遊んでもらってて、でも俺すごいドジでよく怪我とかしてたんですけど泣いてる俺をちひろくんがすぐに手当してくれて。」


あーそんなことあったかも。


年少の頃は杉崎は秋田にいなくて、黒川と旭と拍も違う地区だから俺達三人で遊んでいた。


当時の橋本はすぐ怪我をし、すぐ泣く子だった。今じゃ想像がつかないぐらい弱くて年上にいじめられたりもしていた。


そこを兄貴が助けるってことが今思えばすごい多かった。


「すぐに駆けつけてくれる人ってかっこいいなってずっと思ってたんです。でもそんなちひろくんに恋人ができたって知って、なんかちひろくんが離れていっちゃったような気がして。」

「どんなやつか知りたくて見てみたら金髪長髪のピアス六個開けた怖い男だった。それでちひろを変えたのが許せなくてきつくあたってるってことな。」

「別にそこまでではないし。確かに嫉妬はしましたけど俺別に松田先輩のこと嫌いじゃないです。」

「ほんとかよ…。」

「前は俺のために駆けつけてたちひろくんが今はもう違うんだなって…そう思ったら、なんか……。」

「…なにが違うの?」

「え?」

「俺がちひろと付き合ったからってちひろはもう橋本くんが困っていたら駆けつけてくれないの?」

「……。」


意地悪な質問の仕方をされて橋本はまた下を向いた。


要は兄貴の気を自分に引きたいために甘えたりしていたってわけか。それで兄貴の顔を見ると緊張してしまう、と。


恋じゃねぇか。とは思っても言わないことにした。


「はぁ…ちょっと橋本くん来な。優稀くんその辞書二冊貸して。」

「え、はい?」

「橋本くんここに手を置け。」

「は?」

「いいから置け。」


この見た目で言われるとガチのいじめっ子みたいに見えて見てられないものがある。


松田先輩は分厚い辞書を思いっきり上に上げた。


「ふぅー……えい。」

「があ゛ぁっ!?」


そしてなぜかそれを橋本の指の上にぶん投げた。


バコッという鳴っちゃいけない気のする音がなったし橋本の様子が悲惨すぎる。


橋本は叫びながら床に転げ回っている。その様子を見た遠藤は隣でドン引き。


「橋も…。」

「ちひろぉぉぉおおおっ!橋本がっ!!!」

「……っ!」


橋本のところへ行こうとしたら松田先輩が耳がキーンとするくらいでかい声で兄貴の名前を叫んだ。


俺は松田先輩がなにをしたいのかをすぐに理解できた。


やっぱりこの人ただのおかしい人じゃないんだ…。ちゃんと生徒会長だ…。


「信也っ!」

「ちひろ、くん!?」


すぐにドタドタという足音が聞こえ兄貴が走って図書室まで来た。


「うわお前指赤くなってんじゃん…今すぐ保健室…って言っても先生はいないし鍵もらうしか…。」

「大丈夫!少し本落としちゃっただけ!」

「少し本ってなんだよ。まぁ確かにでもこれくらいなら…。お前が大丈夫ならいいけど気をつけろよ。信也になにかあったのかもって思って心臓止まるかと思ったわ。」

「え…っ。」

「なにちひろ走ってきたの?」

「当たり前だろ!すぐに駆けつけないでもし大変なことになったらどうすんだよ!」


兄貴はなにも変わってないということを橋本に教えるためにわざわざ…ほんと策士だなこの人。


やることが普通の人じゃない。やり方は悪いけど。


「ていうかなんでお前俺呼んだんだよ。」

「え?」

「なんてお前がいるのに一階にいる俺をわざわざ三階まで呼んだんだって言ってるんだよ。もしいざとなったらお前だって対処できるだろ。」

「ちひろのほうが頼りになるんだもーん。」

「なんっだそれ…。はぁ…でも信也が大丈夫そうで安心したわ。じゃあ俺戻るから。」

「ん、じゃーね。」

「ちひろくん!」

「んー?」

「…いつもありがとう!」

「いつも…?お、おう!」


そう言って兄貴は走って生徒会室へ戻っていった。


それにしてもいつもありがとう!?やばいおもしろい。母の日かよ。


でも今まで言えていなかった感謝を今まとめて言ったんだな。兄貴は理解してないみたいだけど。


こんなことまでしないとわからない橋本も馬鹿だけどね。世話が焼けるってこういうことを言うんだろうなと思う。


「言っておくけどちひろは昔から何も変わってない。優しいままだから。わかったら勝手に今のちひろを頭の中で変えるのはやめて。」

「…はいっ!」


自分の悩みが晴れた橋本は満面の笑みで返事をしていくつかまとめた本を持って本棚へ戻しに行った。


きっとなにも変わっていない昔のままの兄貴が見れて嬉しかったんだろう。すごく幸せそうな顔をしていた。


確かに一緒にいる時間も少なくなっていたし、仕方ないのかもしれないけど。


「…しんどかっただろうね。」

「え?」

「憧れてる自分のお兄ちゃんみたいな存在の人が自分知らない人にとられてるんだよ。さみしいでしょ。」

「俺は思いませんけど。」

「君とは話が違うの賢くん。」

「…あの思ったんですけど。」

「別にちひろさんを呼ぶだけなら辞書を信也先輩の指にぶん投げる必要なかったのでは。」

「あ…。」

「…馬鹿。」

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