第2話 デス・レアリティ
投稿第二回。未だ手探りでやっていますが、楽しんでもらえたら幸いです。では、本編どうぞ。
風も、光も、闇すらも、なにもない。
目を開けると、そんな空間が辺りに広がっていた。おそらく、どこまでも。
何だここは。どうしてこんなところに。
自分はいるんだ?
自分?自分とは。ここにそんなものは存在していない。
地面もない。浮いている?
足がない。見えない。とすると、多分、他も消えてしまっている。
じゃあ、この意識は何だ?
よくわからん、もっと他のことを考えよう。
他人ならまだしも、自分のことなんて、いくら考えたところで理解に至るはずもない。
例えば、どうしてここにいるのか、とか。それも大事なことだ。
確か、ここに来る前、自分は一度死んでいる。
そうだ、パンダに襲われて、崖から飛び降りたのだ。
少しずつ意識がはっきりしてきたぞ。
思い出したら、無性に腹が立ってきた。立つ腹も今はないのだが。
なんだよ、パンダが死因って。
パンダに遭遇するなんて、自分の人生で絶対無いイベントだと思っていた。
まして、それが死因になるなんて。
まぁ、いいや、パンダは悪くない。
あのパンダだって別に悪気があって襲ったのではないのだろう。生きるためだ。
今頃、飢えたパンダは、崖下に降り、我が肉体を糧としている頃だろう。
このダメ人間のたるんだ肉体が、すこしでも誰かの(人ではないが)役に立てたのだ。良しとしよう。
人生、何があるか分からないものだ。人生が終わってから気づいても遅いのだが。
となると、ここが死後の世界か、本当になにも無いな。
ノートパソコンとWi−Fiルータくらいは置いていて貰いたいものだが。
ここに時間という概念が存在するのか疑問だが、相当時間が経った気がする。
あれ、もしかして、ずっとこのままなのだろうか。
生前、天国とか地獄とか、信じていた質ではないが、このままずっと放置プレイは困るぞ。
困る?いや、意外と受け入れられるな。
永遠を恐れるのは、肉体があるからこその感情なのかもしれない。
朽ちるものがない今は、特にこのままでも困ることはない。すこしだけ、退屈なだけだ。
退屈。
それも、考えることをやめてしまえば、無くなる感情だ。
今なら、それが、できる。
目の前の無に、集中するだけで…。
「あぶなーーい!」
うわ、びっくりした。
突如、目の前の何も無い空間に、人型の物体が現れる。ぼやけているが、女性のように見えた。
「無に囚われれば、あなた自身も無に帰してしまいますよ。それくらい、不安定な存在なのです。魂とは」
そうか、よくわからんが、危なかった。
「お迎えに参りました。タカハシ ミヨシさんで合っていますか」
そうか、自分はそんな名前だった気がする。間違っていないと思う。
「はい」
「よし、それでは私についてきてください。道すがら、説明しましょう。義務ですので」
何の説明だろう。何の義務だろう。
前進しようとしたら、一応進めたので、黙って彼女?の後についていくことにした。
なにも無い空間を、彼女の後をついて進んでいく。
後ろ姿。目線下に見える、ぼやけながらも、確かにそこにある尻をずっと観ていたが、邪な気持ちは一切湧かない。そういうものは前世の肉体に置いてきたようだ。
少しペースを遅め、語り始めた。
「もうおわかりかもしれませんが、あなたは現世で一度死亡しました。ここは、魂の存在のみが許される、死後の世界。というような位置づけの場所です」
「みたいですね」
「あなたは特に生前、悪事は働いていませんし、通常でしたら、魂の記憶を消され、まぁ少し汚れているので、浄化されたあと、再利用され、輪廻転生の輪にまた組み込まれるはずでした。」
なんか失礼なことを言われた気がしなくもない。
「はずでした、とは?」
「えーと、そう、まずはそこから説明しなくてはなりませんね。面倒くさいな。どうせ記憶消すんだから、このまま異世界にぶち込んでもいいんじゃないかな。」
「え、ちょ。怖い怖い、ちゃんと説明してください」
「わかってます。仕事仕事。えー、まず、あなたの、パンダの傍らで投身自殺をする。という死因は、あなたが生きていた世界での、『初めての死因』だったのです。」
「ほう」
珍しい死に方をした。と我ながら思っていたが、まさか世界初だったとは。
「それと、あなたの肉体を介して、パンダがカルピスを摂取した。それもまた、あなたが生きていた世界での、初めてのことでした。」
「ほう、僕のおかげで、世界初。パンダの腸に乳酸菌が生きたまま届いたわけですか。」
「そう、それで、開いてしまったのです。世界の歪み。あなたがた人間風に言うと、世界のバグ。みたいなものをね。」
「はえ〜。」
神妙な面持ちで彼女は話すが、よく理解が出来ないので、とりあえずそれらしい相槌はしておこう。
「それにより、あなたは転生の輪廻から外れ、肉体と魂は、別の世界。厳密に言うと、あなた方の世界の時間軸から外れた、あり得たかもしれない、裏の世界。に転送される、ここ、アナワーヘヴンへとやってきたというわけです。」
なんか、壮大すぎて他人事みたいに聞いているが、つまり、ゲームで言うところのマップすり抜けバグ。みたいなものを現実世界でやってしまって、裏世界にリスポーンする。みたいなことか。
ちょっと何いってるかわからない。
「夢ですか、これは。こんな、現実で。にわかには信じられない。」
「夢でも、現実でも、あなたが知覚している世界が、あなたの現実です。そこにたいして重要性はないのではないですか?」
彼女は笑いながら怖いことを言う。
でもまぁ、そうかもしれない。よくわからないが、少し、落ち着いた。
いつの間にか、辺りは闇に包まれていた。
何も無い、無の空間だったので、暗闇でも、少なくとも見知ったものが見え、安心した。
彼女からはぐれないように気をつけなくては。
「ほら、見えてきました。終着点です。」
彼女の、闇の中でも確かにそこにある尻から目をそらして、前方に目を凝らす。
光だ。眩い、闇を切り裂く一筋の閃光。
こちらへと迫ってくる。
「これは…。」
もう、光の壁は、目前へと迫ってきている。もはや直視出来ない。
急に不安になってきた。
振り返り、光を受けた、彼女の青白い横顔を見る。いつの間にか半歩ほど後ろにいた。
「この光の中へ入ると、ここでの記憶は消去。あなたの魂は、あなたの魂が記憶している身体とともに異世界に転送され、そこで第二の人生を歩むことになります。そこで、ひとつだけ、特殊能力をここ、アナワーヘヴンが授けてくれます。」
うおお!転生ボーナスというやつか!一気に表情が明るくなる。
「特殊能力…。いまここで考えていいんですか!」
「いえ、もう決まっています。あなたが生前、夢見ていたことを、アナワーヘヴンが叶えてくれるのです。」
「そうか…」
自分の、夢見ていた姿。
そう、小さな頃は、世界を救う勇者になることが夢だった。
「まさか、なれるのか…この僕が。」
?、なぜか彼女が笑いを堪えているように見えた。まあ、気のせいだろう。
久々だが、馴染みのある感覚。いつの間にか、身体がもどっていた。
スーツを着ている。死んだあの日のままである。
「ここまで、送ってくれて有難うございました。最後に、あなたは何者なのですか。名前は?教えて下さい。」
「え?。私に名前はありません。ただ、頭の中の司令、本能に従い、あなた方を送り届けることを使命とする。それが私という存在ですよ。」
少しだけ、悲しい顔に見えた。
「そうですか、それでは、なにも無い所にいるので、ムー。ムーさんなんてどうでしょうか。」
「そんな胡散臭い科学雑誌みたいな名前をつけるのはやめてください。」
「あ、知ってるんですか」
「全知全能ですから。さあ、そろそろ定時ですので、早く。」
勤務時間があるのか。
「なんですか、それ笑。まぁ、世話になりました。」
目を細め、視線を前に戻し、眩い閃光へと歩を進める。
「ご武運を。タカハシさん。」
強い閃光に包まれた。光の奥底に目を凝す。
これから目を逸らしてはいけない。そんな気がしたからだ。
一瞬、眼球が光に紛れた魔法陣を捉えたが、すぐに耐えられずに目を閉じる。
刹那、生前の、すでにノスタルジックな思い出が頭を駆け抜ける。
人、場所、物。
だが、これらにはもう二度と会えない。
瞼を貫く鋭い閃光。ひとすじの涙。
意識が曖昧になってきた。全身を閃光が貫く。
意識は途切れ、浮遊し、光速移動していく。
「あっ、転送座標ミスった。」
ムーさんの不穏な言葉が聞こえた気がしだが、意識は急速に霧散。
暗転する。
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まっさらな気持ちで目を開けた。寝ていたのだろうか。悪くない目覚めだ。なにか夢を見ていた気がするが、思い出せない。
「ふぁ〜。」
目下には霞がかった山々が連なっており、どうやらここはどこかの山の山頂近くらしい。
「ど、どこだここ。酒でも飲んだのか。」
意識がはっきりしてくると、異常に視点が低すぎることに気がついた。
肩を回そうとするが、身体がびくともしない。
全身が固定されている?
「なんだこれ、ちょっと待て。」
覚醒から数分。そこでやっと高橋は自らの状態に気づくこととなる。
見の前の水溜りに映る姿。
全体像は見えないが、首から下が地面に埋まっているのが分かった。
「なんじゃこりゃぁああああ!」
高橋の絶叫が山々にこだまする。
絶叫した理由はもうひとつあった。
水溜りに映る高橋の、以前まで紆余曲折していた髪の毛たちは、そのすべてが天を向いて直立不動。形容するならば電信柱に変貌していた。そう、アナワーヘヴンは高橋の現在の、直毛になりたい。という夢を叶えたのである。
例えそれが本人の望まない形になったとしても。
高橋は、状況が飲み込めない。
なんだ?酔っ払って、モグラの気持ちを理解しようとしたのか。
それに、こんなファンキーな髪型にイメチェンした記憶も無い。
深呼吸。
周りの、緩やかに時が過ぎさる自然の空気を取り込む。
いますべきことはただひとつ。
「誰かたすけてええええええ!」
誰かに掘り起こしてもらうことだった。
つづく
なかなか、思うように文章が書けません。
小説とは難しいものですね。
次回もよろしくお願いします。