お別れの時。
ルンルンの足取りで、お父さんの
所に行くと、声の出なかった
お父さんが、笑顔で
「聖菜」
と声は小さいが、呼んでくれた。
「えっ!声が……」
聖菜は嬉しくて、思わず泣いて
しまった。
(ひょっとしたら、良くなるのかな?)
なんて、淡い期待を抱いてしまう程
聖菜にとっては、嬉しい出来事だった。
(こんな毎日が、続きます様に!)
聖菜は、そう願った。
その3日後、お父さんがどうしても
お肉が食べたいと、言い出した。
流動食しか食べれないので
主治医の先生に聞いてみた。
「本当は駄目だけど、お父さん
厳しい状況だから1度だけなら
良いよ!」
(やっぱり、良くならないんだ!)
聖菜は改めて、現実を突き付けられた。
お父さんに、お肉を小さく切って
食べさせた。
お父さんは、笑顔で嬉しそうだった。
(毎日でも、食べさせてあげたい。)
と思う聖菜。
「じゃあ、お父さん帰るね。
明日、又来るからね!」
「うん」
「うん、おやすみなさい。」
毎日の帰る時の、挨拶だった。
(明日は又、流動食か~
お父さん、辛いな~)
と、考えながら帰る聖菜。
朝目覚めて、又、何時もの1日が
始まる。
英語の授業中に、ダッシュが入って
来た。
「谷田、直ぐに病院へ!」
その言葉だけで、全てが分かった
聖菜。
大急ぎで、病院へ向かった。
お父さんとは、最後に一瞬目が
合っただけで、逝ってしまった。
(昨日迄、お肉が食べたいと言って
たのに、今日は、もう死んじゃうんだ!)
聖菜は言葉が出ない。
それから、初七日迄は片付け等が
有り、学校を休んでいた。
葬儀には、お母さんも、おばあちゃんも
来てたけど、何を話したのかも
分からない。
落ち着いて、やっと学校に行った。
みんなが、声を掛けてくれた。
でも聖菜は考えていた。
(お父さんが、死んだ以上もう
私は、ここにいれないんだ!
帰るって、約束して来た以上
帰らないと。)
でも心は揺れる。
(杉村先生と、もう会えなくなるんだ
どうすれば……)
ただ、ただ悩む聖菜。
そんな時、学校にお母さんから
電話が掛かって来た。
「聖菜、お父さんは、もう居ないんだから
約束通り、帰って来ないと!」
「うん、分かってる、少しだけ
待って!」
「何を待つの?」
「必ず帰るから、こっちから電話
するから!」
「分かった、電話待ってるからね!」
)うん、ありがとう。」
職員室から教室に、戻る聖菜を
ダッシュが追い掛ける。
「谷田、お母さん何て?」
「お父さんが、亡くなったら帰る
約束だったから、早く帰って来なさい
って。」
「谷田、帰るのか?」
「迷ってます!」
「杉村先生か?」
「はい!」
「だよな~谷田の事だから先生は
何も言えないけど、良く考えて
後悔しない様に、しろよ!」
「はい!」
(ダッシュは、本当に良い先生だ、
余計な事は、言わないし、無理強いも
しない、良い先生だ、ありがとう!)