序章 自我崩壊
「ピピピピピ..」無機質な機械音につられ、ゆっくり体を起こした。時計は確かに2時30分を指している。
俺はそれを視認して密かに立ち上がった。そして静かに寝室のドアを開けて周りを確認した。
「よし、起きていないな。」
俺は何も持たずに辺りを一瞥して外に出た。
橋の前に着き、冷たい手すりに手を置いて深い青に煌めく水辺を見下した。
一瞬恐怖に煽られたが、ゆっくり深呼吸をして決別した。
手すりから手を外し、その深い青へ飛び込んだ。
瞬時に視界が闇に覆われ、精神が自分の体から遠のいていく感覚を覚えた。
「ああ、俺は死んだんだな。」
ゆっくりと体が朽ちていき、目を閉じた。
あれから暫く経ったのだろうか。
全身が暖かい感触に覆われている。
体の力が入らない。
だけど力が入らなくてもいい気がしてきた。
気持ちがいい。
俺は、「ここが天国か。」と悟ったように達観していた。
しかし、それも束の間の喜びで、俺はある違和感に気づく。
「意識がある…!?」
俺はすぐさま布団から飛び起きた。
すぐ近くには見慣れた時計があり、9時12分を指している。
「何が起こったんだ....!?」
俺は帰って布団に戻った記憶はない。
目の前にある事実を受け入れることが出来ずにただ困惑していた。
『自分の身に何が起きたのかわかっていないみたいだね』
「…………!?」
体の内部から直接響いたような声がした。
『まぁ無理もないか』
その声は少し嘲笑うように内部から囁きかけた。
一体何が起きていてこの声は何なんだ。
俺は混乱していた。
『そうそう、私が誰かしらないよね』
そしてその声は続けて囁いた。
『私は前の世界線の君の双子だよ』