333 耳が良い
こんにちは。
とても頭の良い人に、色んな事を知っていてすごいですね、と言ったことがある。
彼は学歴や職業で、勉強が出来るという事は一目瞭然で証明されているのだけれど、勉強が出来るから頭が良いという安直な事では無く、難しい事を分かるように噛み砕いて説明してくれたりと、単純に難しい問題が解ける=頭の良さ、と言うわけでは無い人だった。
どんな話をしても知っている知識が深くて、私が聞いたことが無い様な単語もいっぱい出て来て、それはどういう意味かと聞いても、丁寧に答えてくれる。だから「頭が良くて、何でも知っている人」であながち間違いではないのと思うのだけど。
でも彼は、違うと言った。それは謙遜しているのでは無く、真面目に言っていたと思う。想像だけれど、彼の職場にはもっと……シンプルに言うと高学歴の頭のいい人がゴロゴロいたのだろう。世界は広いという事だ。でも彼が私を納得させるのに言った言葉が「自分が知っている話題になるように話しているだけなんですよ」だった。
会話を誘導されていた気はしないのだけれど。彼の話は続く。「詳しいジャンルの話題だったら、何でも知っているように見えるでしょ」と。まぁ、確かにそうなのだ。
前に書いたことが有るのだけれど、「耳が良い」は聞こえてる状況というよりも、聞こえた音や言葉を理解できる頭の良さの事を指しているのだと思っている。高齢になって耳が遠くなるのは、身体的な要素と処理能力の低下の合わせ技で耳が遠いのだと思うし、若い人でも、知らない言葉を聞いた時は聞こえているのに聞こえていなくて、すぐに復唱できないくて聞き返したりもする。又は、噂話しをチラッと耳にして、そこから散らばったピースを瞬時につなぎ合わせて状況を理解するというのもまた、「耳が良い」という頭の良さだと思う。
勉強が出来るという意味では無い、コミュニケーションの中で役立つ頭の良さを持っている人って「聴くことができる人」だろう。
相手に話された事を素直に聞いて理解して言葉を返す。これがなかなかに出来ない人が多いのだ。若い人でも結構いる。
すごく簡単な会話でも、自分で想像している「今から語られると思っている内容」や、自分がした質問に対する「予測される返答」に脳が支配されて、用意していた言葉意外を受け付けられず、脳が処理を拒んでしまう。「わけが分からない事」として安易に処理されて聞き返したり、最悪、気分を害してしまったりすることもある。
聞けない人はまず、会話中イメージが固まり過ぎていて、そこを壊すことが難しい。イメージを否定して、言葉を理解し、返答を考える事になる。イメージを壊す事が聞く一回目で、聞き返して二回目からが本番。
頭のいい人もイメージをもともと脳内に用意していると思うのだけれど、きっと展開されているイメージ種類が多いのだろう。だから瞬時に「この話はBパターンか……と思ったらAとFの混合だな」と受け止められる。この柔軟性が頭が良いという事なんだろうなと。
お年寄りになるほど、同じことを繰り返して話したり、こちらの話を聞いて答えるよりも、一方的に話したがるのは、聞くことは疲れる作業なんだろう。そして一時間くらい経ってから脳が処理を終えたのか、終わった話なのに、聞いてきたりする。その時に答えも出た話なのに。聞いているはずなのに。これは脳の老化の一つなんだろうか。
頭の良い彼は、どんな質問をしても答えてくれたから、本当に頭が良かったんだろうなぁ。彼は「聴ける人」だから私は頭が良いと思っていたのだ。
きっと、「会話をお得意の分野に持って行く」というのは照れ隠しだったのかもしれないな。
そんな事をふと思い出した。




