322 遠い時間の人たちと繋がる瞬間
こんにちは。
またぬか漬けの話ですが。この時期になると柿が手に入るので、わっくわくです。
柿をぬか漬けにするわけではないのですが……いや、きっとぬか漬けにしてもそれなりに美味しいと思いますが、ぬか漬け自体を美味しくするものが柿なのです。
柿が手に入るこの時期にしか出来ないぬか床のメンテナンス。柿の皮やヘタをぬか床へ入れるのです。
これが、すごくおいしくて。甘味とコクがプラスされ、ぬか床の菌も元気になります。
もともと野菜や果物の皮だったり、芯と果肉の間というか「へそ」のような部分、葉物野菜の葉っぱが重なっている芯の部分などに、植物性の乳酸菌が豊富にあって、柿の皮を入れるのはその為。しかし柿の場合、柿自体の甘さがお漬物に加わって、本来の目的以上に美味しくなる。
大根、リンゴやみかん、ゆず、レモンの皮と色々試してはみましたが、どれも出しゃばって来る。特にリンゴ。ほんの少ししか入れていなくても、リンゴの香りが充満してしまって、なかなか無くなってくれない。存在感が半端ない。
大根は美味しくなるし、ぬか漬けには重要な味付けになるのだけど、臭くなりすぎる。大根の臭いって強烈で、どんな食材を漬けても「代々受け継いだぬか床で漬けた、お婆ちゃんのドボ漬け」になってしまう。おいしいけれど、それは別で大根を漬けるためのぬか床を持っている為、私には必要が無いのだ。柚子は塩味と混ざり、何となくスパイシーな香りになってしまう。柑橘系は基本的に向いていない気がする。食べる前に絞るのが一番いい方法だと思う。(と言いながら、時々ドライフードの柚子を入れるぬか床を使っていますが)
桃や枇杷も試してみたいと思いつつ、まだやっていない。産毛が気になってしまって。多分何も問題はないと思うけれど。バナナもまだやっていない。バナナの場合は果肉を漬けて食べるらしい。まだ勇気が出ない。あと、梨もあまり良くなかったというか、ほとんど変化を感じなかった。水っぽくなっただけ。水分が足りないぬか床だと、梨やスイカは良いと思います。水分と少しのフルーティーさが加わります。
と、トライ&エラーを繰り返し、柿にたどり着いたのです。
柿は驚くほどのステルススキルを持っていて、全く柿が入っているとは分からない。香りが少ないのが良いのでしょうね。そして、ぬか漬けに馴染む甘味を持っている。だから今のところ、柿が一番だと思っているのです。
この時期は柿を食べた皮は捨てずに冷凍です。出来るだけ長い期間、柿味のぬか床を楽しみたいので。
そんな話をしていたら、友達が彼女のお爺さんも同じように柿の皮を漬けていたという話をしてくれました。
柿の皮を入れる技は、私がぬか漬けを始めた頃にぬか漬け界の常識を知りたくて色々と調べた時も見当たらなかった。フルーツは圧倒的みかんの皮だった。他は煮干し・鷹の爪・焼き鮭の皮・昆布・干しシイタケ・ニンニクなど。柿は全然見当たらず。
でも同じように、柿が美味しいという事を見つけてやっていた人がいたんだなぁ~と思うと嬉しい。お爺さんもお漬物が好きだったそうで。漬物好きは考えることが一緒なんだなぁ~と思うと、なんだかおかしい。きっと、ぬか漬けの長い歴史で、柿に気が付いて入れた漬物好きは多いでしょうね。田舎に行くほど柿の木があるお宅は多くなるし。身近な秋の甘味ですからね。
ここまで柿の皮が、みかんの皮ほどポピュラーになっていないという事は、みかんの方が高級であっただろうという事(特別なものだし漢方でもあるから言いふらしたい)と、漬物作りを常備菜だから仕事の一環としてやっていたのではない、ぬか漬けを美味しくする事を楽しみにとしている漬物好きが、漬け方には興味が無い「漬物を食べるだけ」の家族にも柿の話題をふる事も無く、秘密にするわけではないけれど、ひっそりとほくそ笑みながらぬか床に柿の皮を入れて来たのではないだろうか?と。
そう思うと、色んな時代の漬物好きと繋がっている気がして、とてもおかしいく思えて来る。
みんな一緒だったんだなぁ~。食べる人は、作っている人の工夫なんてどうでもいいんだもの。それでも、柿を剥いて、柿の皮は捨てない。あぁ、みんな仲間だよ!って。みんな、それなりのトライ&エラーを繰り返して、柿が正解だと思ったんだよね。一緒っ一緒!
不思議に過去と繋がった気がして、そして、未来にもそういう人が出てくるはず。お互いに絶対に知り合わないほど遠い時間に生きている人たちなのに、ずっと繋がっている。
これから秋のぬか漬けは、悠久の時を感じながら食べる事にします。




