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茶うさぎから白うさぎへの手紙 2022  作者: メラニー
4月
107/365

107 葬儀

 こんにちは。


 当たり前と言うべきか。何も手に付かない。

 ただただ、他界した友達との共通の友達とネットでやり取りをしたり、彼女の画像を見てはため息をついて呆けている。

 だからこそ、この文章は書かねば……と動くのは良い事なのかもしれませんが。


 朝。今日も晴れていた。駅で友達と落ち合い、葬儀場に向かう。

 この葬儀場が近づくというのが……足が重たくて。私が行こうが行くまいが時間は流れて、何も変わらずお別れになるのだけれど。


 葬儀の間、インコの時も書いたけれど体に触れる事が出来なくなってしまう、肉眼で見る事が出来なくなってしまう、目の前から居なくなってしまう……それが一番辛くて、刻々と迫る出棺までの間、お経を心が震えないように、じっと聞いていた。

 目を瞑って関係ない事も、彼女の事も色々と考えていた。そのうち眠くもなったり。終いには頭の中が朦朧として何を考えているのか分からなくって。

 でもそうしているうちに、彼女の短くも長い人生、いろんな事があって辛い事もたくさんあって、心底死にたいと思ったこともたくさんあったと思うのだけれど、最後まで生ききったんだなぁと。そう思ったら、少し心が軽くなった。

 不思議なもので、死にたいと願っている人が死ぬときと、まだまだ生きたいと願う人がこの世を去る時、どちらも辛いのだけれど、後者の方が残された物は気持ちの負担が軽い気がする。

 もっと生きたいという人の願いがかなえられない事の方が安心するなんて、おかしな話だけれど、何と言うか……捻じれていない気がするのだ。最後までその人でいてくれたというか。

 もちろん病気から来る激痛や苦しみで死を医療行為の延長として死を欲する人もいるだろう。そういう人はこの話の流れの中には入らないというか……私はその意思を否定できないのだけれど。


 友達に当てた、彼女の最後に近い時期のメッセージにも「生きるのが楽しいし、生きたいと思っている」というような言葉があって、そう思えるまでに生に輝いていたんだなぁって。

 ひぃちゃんもそうだけど、生が輝いているんだよなぁ……。素敵な事探しやキラキラした力。


 人はこの世でやるべきノルマや役目があって、それは人それぞれに種類も量も違うのだけど、それをやり切れた人から解放されるのかもしれないなぁ……とぼんやりと考えていた。

 優しく、出来過ぎなくらい出来た友達ばかり早く行ってしまう。神さまがそばに呼んでしまう。

 そういう意味では私はまだまだ大丈夫そうだ。


 そういうば、彼女は心理学を専攻していた事もあり……私も専攻では無いものの学科は受けていたり、もともとの相手の無意識の部分を、これまたこちらも無意識に感じ取って理解しようとしてしまう方なので、お互いが見透かされている感があったのかなと考えていました。

 心理学の話、私の前ではしなかったもんなぁ。まぁ他の方の前でしているのかは知らないですが。一度心理テストで何を知るためのテストか、答えを知らなくても分かってしまう、みたいな話をしていたのが唯一かな。私もわかるなぁ~と思ったけど……あの時何と答えただろう。言葉を濁して話題を変えたかもしれない。


 出棺に際し、棺の中をお花で埋めたのだけど、彼女は生きたいと思えるまで(言えるまで)になって、立派に自分の意志で生き抜いたのだから、と思ってからは泣かなかった。

 よくやった。すごい。尊敬する。そんな感情でいっぱいで、やり切った成功者を送り出すような、そんな心持ちで。桐の軽い蓋をみんなで持って閉める時「ありがとう」と唯一声をかけた。

 そりゃ「置いてかないで」「寂しい」「なんでいっちゃうの?」なんて恨み節も無いことは無いけれど、送り出す気持ちの方が大きかった。


 最後に閉められた棺の上にお母さんが最後のブーケを置いた。


 さすがにその瞬間、その場の空気がズンと重くなったのだけど、咄嗟にお母さんが拍手をされて。

 気丈なその振舞いに、会場はワーと盛り上がって拍手をして。そして切なくて心が潰されそうだった。

 このお母さんあっての彼女だったんだなぁって。人の気持ちを優先してしまう優しさ。


 そのままあわただしく、お父さんが言葉を詰まらせながら最後のご挨拶をされ出棺となった。


 スケジュールが詰め込まれていて、ご家族とお話が全くできなかったなぁ。

 本当は昨晩、彼女の画像をネット上でまとめてURLをお父さんに送ったのだけど、見る事が出来たのかなど色々聞きたかった。

 昨日、見たいと仰っていたので送ったのだけど、ガラケーからスマホに変えたばかりで使い方を彼女に教えてもらい始めたばかりだったそうで。ラインもダウンロードを彼女にやってもらったところで止まっているらしい。……時間が止まるとはこのことなのだなぁ。私がその場でやってあげることは簡単だったけれど、心の問題はそう言う事ではなく、次に進もうって思った時にやるべきことなんだろうと思って、何もしなかった。


 出棺後、コロナの事もあって火葬場は人数制限しているらしい(前にちらっと聞いた)し、友人たちは取り残され(デラックスコースだと、火葬場に行って、帰って来て初七日の法要をして精進おとしがあって、ご家族に故人との交友を話したりして終わる、みたいな感じかな?)誰ともなく、彼女とのつながりや画像の見せあいやエピソードの共有が始まった。

 彼女からしたら止めてー!とアタフタしてそうだけど、そんな事を考えるのも楽しい。時系列が繋がって、だれが最後に会う事が出来たかとか、会えている人がいて良かったとか。

 優しい世界で、彼女がどれだけみんなに愛されているのが知れてよかった。ご家族にも聞かせたかった。


 

 私たちは早い目にお暇させてもらって、お昼ご飯を食べに行って、また彼女やひぃちゃんや他愛もない話をして……そして会話が途切れると小さなため息を吐きだして。また頭の悪い話で笑って。

 そうやってみんなで話している間は楽しい気持ちでまぎれていたのに、帰宅するとまだ夕方でもないのに驚くほどの疲れで動けなくなっていた。少し昼寝をして……まだ体は怠い。


 弔辞でもあったのだけど、彼女はとあるアーティストのファンの指針になっているような所もあって……彼女ほど記憶力に優れ、ライブのMCや動きや表情の詳細などを覚えてレポートできる人はいないのです。 

 ライブの度に人混みの中に彼女を探してしまうんだろうなぁ。


 あぁ、長くなってしまったので。

 とにかく私が今彼女に言いたい事は「最後まで生きてくれてありがとう、生きたいと思ってくれてありがとう」って事です。

 キラキラしているよ。また会ったら色々謝るよ。



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