表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
茶うさぎから白うさぎへの手紙 2022  作者: メラニー
4月
105/365

105 再びの知らせ

 こんにちは。


 なんでなんだろう。どうしてこんなことになったんだろう。何も手に付かず、どこかに感情を置いてきてしまったようだ。


 今日の夕方、友達から電話があった。

 通話なんて珍しいな、と思いながらも嫌な予感がよぎる。前にもこんな事があったから。

 電話に出るとスマホの向こう側で友達が泣いていた。

 瞬時に色んな事が頭の中を駆け巡る。不幸があった?トラブルがあった?仕事で傷つけられた?……もし知り合いに不幸があったのなら誰?共通の友達で何かありそうな人は心当たりがない。


 そして彼女の口からまた同じ言葉が。

「あんね、落ち着いて聞いて?」その言葉、一年前にも聞いた。もう「誰か」が「そう」だという事はこの時点で確定してしまった。そして嗚咽に混じって言葉が続く。共通の友達のHが亡くなったと。

 

 信じられない。

 いや、H……彼女とも最近トークルームで複数で話したのだ。クリスマスには私が石をはめた指輪を送った。ハロウィンの頃にはマスクを送ってくれた。

 知り合ったのはもうずいぶん前。詳しくは思い出せないけれど、2000年には知り合っていた。ほぼ24・5年の付き合いだろうか。

 あぁ、なんて長い。


 ……なのに、私は現在に至るまで一粒も涙が出ない。電話の向こうで、友達の言葉にならない嗚咽が聞こえる。また友達は私の代わりに泣いてくれている。

 現実味が無くて、いや、有ったとしても心に鍵がかかっていて、どこかに自分の中身を半分落としてきたような、そんなガランドウ感があって、どうしようもなく空しくてフワフワしていて。

 明日のお通夜で翌日が葬儀らしい。そこに行けば私は受け止められるだろうか。


 別の共通の友達がこれはマブイが落ちている状態だよ、と言った。

 マブイとは沖縄の言葉で魂を意味します。くしゃみをしたり、ショックな事があったり、扱けたり事故を起こしたりすると、魂が体から飛び出てしまう。それを「マブヤー、マブヤー、ウーティキミソーリ」(魂よ、私を追ってきてください)と呪文を唱えながら、自分の中に魂を戻すのだ。

 確かに私は今、魂が半分無いような感覚があるから、きっとマブイグミ(魂を戻す儀式)をしないといけないんだろう。でも、もう自分では戻せそうにない。本格的にユタ(沖縄のシャーマン)にサンという道具で体に叩き入れてもらわないと固定できない……そんな気がする。

 

 訃報を受けてから何も手に付かず、コーヒーとお菓子を食べて過ごしてしまった。あとは友達から転送してもらった訃報を知らせる文章をスマホで眺めては閉じる事しか出来なかった。

 私がコーヒーを飲むときに使っているスプーンは彼女からもらったお土産。いつも毎日のようにそれを使っていたのにな。確かに使う度に思い出していた。なのに連絡をとる事は無かった。

 彼女は長い間息をひそめる期間が周期的にあって、そういう時、私と交わらない趣味に没頭している可能性や、誰かと繋がる事もストレスに思う様な時期かもしれない事もあったりして、出来るだけそっとしていた。

 去年の10月にマスクを送ってくれた時も、他の友達は繋がっていたかも知れないけれど、私的にはその行動が沈黙を破って繋がってもいい時期だ、という解禁の知らせのように感じて12月に贈り物をした。

 でもいつも、その沈黙の間ですらスプーンを使う度、毎日のように思い出していた。


 あとから言っても仕方がない事ばかり。後悔とは違う。後悔ももちろんあるけれど、後悔とは微妙に違う現在の自分への悔い。


 懺悔をするけれど、彼女には近い匂いを感じていて、怖くて近づきすぎないようにしていた節がある。いや、明らかにしていたな。

 今となっては私とはかけ離れてピュアだったのかもしれない。きっとそうだと思う。私は汚いからなぁ。

 似ていると感じる所は、人の感情や無意識の行動から、いろんな事勘ぐってしまう所。お互いに見透かされたくないところまで見透かされそうって思っていたかも知れない。傷つきやすいところや隠したいところが似ていたのかもしれない。

 そして私は殻が分厚く、彼女は繊細だった。だからこそ、私の方が踏み込み過ぎないようにバランスを気にしていた。あまりディープすぎる話をしないように。


 もっと話しておけばよかっただろうか。でも、きっとお互いにわかり過ぎる分、微々たる「分かってもらえない部分」にストレスを感じる……そんな感じになりそうで。そして知られたくない部分もお互いに突きそうで。

 

 こんな風に感じて、今書き起こしている事自体が今となってはすべてが不毛なのだけれど。




 もう誰も亡くなって欲しくない。病気でも事故でも寿命でも。

 悲しすぎる。


 ごめんね、置いて行かれるほうの愚痴ばっかりで。置いて行くほうだって、辛いのにね。



 明日は通夜に行ってきます。




 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ