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三十歳から始める魔法少女  作者: 千夜詠
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押したい少年②

 少年の体から、真っ黒な物が噴き出していく。


「いけません、欲望鬼が顕現します」


 高田川の声を聞いて、雪花は後ろに飛び退いた。


 真っ黒なそれが、形を形成していく。霧状であった物が圧縮され、肉体のようになって、足ができて、胴がはっきりとして、腕が作られた。


「これが……欲望鬼になる瞬間」


 瘴気が舞って、口元を押さえる。


 ただそれは刹那に収まり、代わりに欲望鬼は完成した。


 極めてアンバランスな体であった。身長は先程の舌の欲望鬼と同じ位であったが、胴も足も細く、頭も小さいが、拳だけが異様に大きい。


「押したいぃいいいい!」


 真っ直ぐに胸の膨らみにあるポッチに視線が送られてきた。


「えーと、思春期って訳じゃないようだけど……、うわ!」


 まだ距離があるかと思っていたところに、奴の腕が伸びて、人差し指が体を突いてくる。


 咄嗟にガード。両手で持ったステッキを横にして、そこに真っ黒な指が押し込まれた。


「うぐ……」


 踏ん張って、押し合いになる。


 ――やばっ、なんて力……。


 さっきの舌の欲望鬼と同じように一気に決める事は難しそうに感じる。


 全身が汗ばんできて、食い縛る表情もまた男性の妄想力を掻き立てた。


「七原さん!」


「高田川さん、何か、いい手は?」


「いえ、その……、腋……」


「へ?」


 腋汗、どころではない。漆黒の園があった。


 カーと顔が熱くなり、真っ赤になる。


「生やしてらしたんですね」


「ち、違うの! こ、これは、その……」


 暫く彼氏もいなかったから、ズボラになっていた。未処理である。


「私は、嫌いじゃありませんよ」


「いやぁ――」


 気にしている場合じゃなかった。


 もう一方の手が伸びてきて、明らかに指先は乳首を狙ってきている。


「ひいい!」


 体を傾け、それはどうにか避ける事ができた。


 ところが、一度体の側面を抜けた腕が、後方でUターンするように曲がり、背後から迫った。


「え、え、え?」


 ビュンと風を切って襲い掛かってきたそれが、


「うぐ!」


 ズボッとぶっとい指先が、お尻を抉り、突き刺さった。


 何処に?


「な、七原さん……」


「か、浣腸……なんて、言ったから……、お尻は、初めて……」


 直腸の深いところまで、強い異物感があった。


 力が抜けて、どさっと前に倒れ込んだ。上半身は道路に、お尻を高く突き上げるような格好になってしまった。


 ズポっと指が抜かれると、たわわな尻肉と尻肉の合間で、コスチュームの底の中心が、ぽっかりと空いた孔の形を浮き上がらせている。


「うう、これじゃあ、押せない」


 欲望鬼の両手が、雪花を起き上がらせようと迫った。


「いけない!」


 高田川が飛び込んで、雪花を起き上がらせて、肩を貸す。


「高田川さん、私、汚れちゃった」


「今更、何を。一度、撤退します」


「今更!? ねえ、今更って言った?」


 雪花を連れて、高田川が魔法少女にも負けないような跳躍を見せた。


 ――――


 魔法少女の格好のままマンションに戻った。


 ズンっと落ち込むような雰囲気で、両手を床に付けていると、高田川が扉を開けて戻ってきた。


「七原さん、お尻の薬、買ってきました」


 こういうのって、魔法で治せないのね。


「あ、ありがとうございます」


 受け取るとトイレに入って、お尻に手を伸ばし、そっと塗っていく。染み込む。


「はぁああああ……」


 と、どんよりした溜息をつきながらトイレから出た。


 ――もう、いいよね。一体倒したし、十万入るし。


 クイズ番組でも貰える物があったら、ラストのチャレンジはしないタイプである。


「どうやら、あの欲望鬼ですが、住宅街を徘徊しているようですね」


 テレビで中継がされていて、ライブの映像が流されている。


「あ、この弁護士好きなんですよ」


 コメンテーターに注目。


「現実逃避しないでください、七原さん」


「う……」


 ドローンが捉えた映像であろう。住宅街を黒い異形が歩いていて、その前後を警官隊が距離を置きながら監視していた。


 お昼の情報番組では、その前の謎の戦う女性の姿も――視聴者投稿らしいが――映像として流され、その正体にも言及している。


 放っておいて欲しい。無理か。


「胸の先にモザイク処理がされてますね」


「いや――」


 むしろ、その方が有り難いの?


「おっと、動きがあったようです」


 現場の中継に切り替わり、欲望鬼が映し出される。


 黒い異形が民家に振り返って、ドアに向かって手を伸ばすと、ピンポーンと鳴って、少し速足で去っていった。


「え? ピンポンダッシュ!?」


 番組内でも困惑している様子である。


 これだけで済むなら、そんなに人間に迷惑をかけない?


 と、思っていたら、遅れてドガっと派手な音がした。


 ピンポンダッシュされた家の扉とその周りが一斉に崩れたのである。


 ――ああ、そうか、あの力で押したら、ねえ。


 しかし、分かってきたのは欲望鬼とは、その元となる欲望に忠実なのだ。


「彼、押したい、って言ってたわ」


「はい。きっと、押したいんでしょうね」


「…………」


 だから?


 ――うーん、何かその習性を利用できそうな気がするんだけど……。


 同じ事を高田川も考えたのか、一つ唸った後に言った。


「一つ、手があります。あの欲望鬼が厄介なのは、あの何処までも伸びる腕。二本の腕での連携の様な攻撃がされると、まだ戦闘経験の少ない七原さんでは太刀打ちできません」


「ま、まあ、そうなんだけど」


「そこで、奴の長所、とでもいうべき、腕の伸びを抑えます。その為にはちょっと準備が必要なのですが、私の指定する場所まで、欲望鬼を誘い出して欲しいのです」


「誘い出すって、どうやって?」


「あるじゃないですか、あの欲望鬼がとても興味を示した物が、そこに」


 高田川の視線が胸元へと向けられる。


 そっと手で隠した。


「セクハラ……」


「さ、さあ、早速、向かいましょう。こうしている間にも、あの欲望鬼によって、幾つも家庭の出入り口が破壊されているのですから」


「まあ、そうね。うちの扉が同じ目に遭ったらと思うと、かなりの被害額よね。でも、ちょっと待って」


「何か、ありましたか?」


「…………腋の処理をしてからじゃ、駄目かしら?」


「七原さんが腋毛を剃っている間に、何処かのお家の扉が破壊されているのですよ。さあ」


 手を引かれる。


「ああん、お願い、高田川さん」


 魔法少女のままだから、力はこっちが強いはず。


 なのに、ズルズルと引かれてしまうのだった。


 ――――


 跳躍を続けながら、屋根を伝い、現場に到着する。欲望鬼が何処にいるのかは、飛び交うヘリコプターの動きを見れば大よそ分かった。


 大きな拳をした欲望鬼の前に降り立った。


 住宅街の狭い路地だから、ここで戦うと被害が増えそうで、無茶はできない。


 尤も、そのつもりはなく、計画通りに欲望鬼を誘い出す手筈だが、さて、上手くいくのか。


 背後にいた警官隊がざわついて、困惑気味なのが伝わってくるが、強烈に背中からお尻にかけて視線を感じる。


 ――うん、まあ、そうでしょうね。


 私、乳だけじゃないんです。


 魔法少女史上、最も尻がデカいと思います。


 相変わらず、近くまでドローンも飛んで、どうにか現場を撮影しようとしているし、それが報道なのか素人なのか分からないが、鬱陶しい。


 こちらに気付いた欲望鬼がじっと見てきた。


「さあ、いくわよ」


 恥ずかしいけど、思い切り目立つように、胸を揺らしてみる。


 反応がない。欲望鬼は一度じっと見て、それから退屈そうに欠伸をした。


「なんで!?」


 高田川の声が聞こえてきた。


『どうやら、胸のポッチの勃ち方が、弱いのかと』


「はあ?」


『さっきは住民もいる前で変身したので、きっとそれで興奮していたのでしょう』


「ちょっと待って! それって、私が、ろ、露出狂みたいじゃない」


『はは、今も変わりないじゃないですか』


「誰のせいですか!」


 コスチュームのサイズ調整をしてくれたのは仕方がない事とはいえ、誰かを怒らないとやっていられない。


『とにかく、乳首を勃ててください』


「ここで?」


「はい」


 涙目にもなる。


 ――意外と鬼ね、高田川さん。え、まさか、これでハァハァとかされていないでしょうね。


 後で顔バレしないと覚悟を決めて、自分で乳首に触れてみた。


「うう、仕方ないからやってるんですから!」


 周りにまずはアピールしておく。


 これはもうエロ小説とか、エロ漫画では?


 戦うヒロインが、人質とか取られて、仕方なく衆人環視の中、エッチな事を強要されて、侮蔑と好奇の目の中を向けられ、恥辱の中、本当に感じちゃうアレだ。


「ああ、ハァ、ハァ、何やってんの、私……」


 コスチューム越しに乳首を自分で摘まんで、ギュッと強く刺激を加える。そんな様子がカメラに捉えられたり、警官隊にも見られているのだ。


 ――これで十万じゃ、安いってば。ああん、やだ、本当に、ハァ、ハァ、き、気持ち良くなって……。


 見られ、きっと報道の電波に乗って、お茶の間にまでこんな痴態が届いているかと思うと、消えたいくらいに恥ずかしいのに、それが乳首を膨らませてきた。


「あっ、やだ、ハァ、ハァ、こんな事して、私、ああん」


『あー、七原さん』


「やあん、ああ、イ……イイ……」


『えーと、七原さん』


「もう、何よ、いいところ――」


『いえ、もう充分なので。ほら、欲望鬼が興味津々』


「へ?」


 大きな拳をした欲望鬼の瞳が血走ったように、真っ直ぐに乳首に視線を送ってきていた。


 なんだろう、この残念な気持ちは。


「…………押したい」


「来た!」


 一気に走って迫ってくる。猪の突進のような迫力に刹那、ヒッ、と小さく悲鳴をあげたが、足は動いてくれた。


 逃げれば腕を伸ばして、拳を飛ばしてくる。


 対峙するのではなく、逃げるだけなら、どうにかこれを躱す事はできた。


「ほら、こっちよ」


 完全に逃げきる事も可能。


 でも、それでは意味がない。


 大きな跳躍はしないで、角を曲がっても、欲望鬼の視界からは外れないようにする。


 そうやって誘導していくと、警官隊も追ってきて、代わりに進行方向の住民が逃げていく。


 ――これ、事故が起きちゃうんじゃ。


 奴は胸のポッチを押す事だけに意識が集中していそうだ。


「こ、これから、近くの高校に向かいます。その方角の方、えーと……」


 どうしたらいいの?


 その時、警官隊が動いてくれた。


 一台のパトカーが脇道から前に出て、サイレンを鳴らして、先導を始めてくれたのだ。


「嘘!? うん、これなら……」


 こんな訳の分からない女の為に、きっとこれが事件を解決する事になると信じて、彼らはやってくれた。


 ――絶対に、成功させなくっちゃ。


 向かっているのは、この近くにある公立高校。


 そこに何があるのかは、雪花も知らない。


 ただ、この辺りで一番広いのはそこのグラウンドだから、被害が最小限に抑えられるのも確かだろう。


 ――って、今日は平日だから、授業中? 大丈夫なの?


 あの伸びる腕の限界が何処までなのかよく分からないから、下手に避けると校舎に穴を空けかねない。


 それも警察を信じて、生徒や先生を非難させるか、できるだけ安全な場所に移動させておいて欲しい。


 というか、今の自分の格好を健全な男子には見せてはいけない気がする。


「あそこ……」


 先にパトカーが正門からグラウンドに入っていった。


 それを見て、欲望鬼が付いてきているのも確認して、高校の敷地に飛び込んだ。


 緊急の校内放送が流れている。「窓際は危険です。全員、離れて、机の下に隠れてください」と。


 だが、若い彼、彼女らは興味津々で、大勢が窓に張り付いていた。


 ――めっちゃ、見られてる。ひえ、スマホ向けてるぅ。


 パトカーからも発せられたが、一人でも見ていると、自分もまだ大丈夫と動かないのである。


 グラウンドの中心に、高田川が用意したと思われる丸い印が描かれていた。目指すべき、目印だ。


 端に止めたパトカーから警官が敬礼をしてくれた。


 一度頷き、目印の上に立って、迫ってくる欲望鬼を待つ。


「で、これからどうすればいいの、高田川さん?」


 脳内に声が戻ってくる。


『ネオ魔法ランドから、魔法のトラップが送られてきます。それを実行するには、登録した魔法少女の名前を叫ぶ必要があります』


「まだ決めてなかったわよ」


『急遽、私の方で、登録しておきました。いいですか、奴が接近したら、叫ぶのです。――――と』


「恥ずかしい!」


『言ってる場合ですか。さあ、来ます』


 足は決して速くはない欲望鬼が真っ直ぐにこちらに向かってきた。


『まだです。充分に引き付けて……、今です!』


 やけくそ、である。


「うわあああ、オーダーっ! トラップ発動。依頼者、魔法少女……フェチ・ティッツ!」


 上空から光が差し込み、雲が回転を始めた。


 台風の目のようになったそこから、更に眩い光が降りて、雪花のいる場所を中心に巨大な魔法陣が描かれる。


 迫りくる欲望鬼に対して、ガードの体勢を取った雪花であったが、確かに見たのだ。


 光の檻が形成され、戸惑うような欲望鬼を囲っていく。


 ――これが、トラップ……。そうか、閉じ込めてしまえば。


 一秒にも満たない刹那のうちに、魔法の檻はできあがり、欲望鬼を囲った。これなら、あの大きな拳は格子に阻まれ、遠くまで飛ばす事はできない。


「や、やったわ、高田川さん。これなら……、あれ?」


 自分も檻の中にいる事に気付いた。


 猛獣の檻に一人閉じ込まれた状態?


『気を付けてください。その檻の光の格子は触るとビリビリしますから』


「有刺鉄線爆破マッチだったぁ!」


 冗談じゃない。


 二人きりだね――とニタニタ笑っていそうな欲望鬼が、早速と指先を向けてくる。


「く……」


 これでも戦い方は考えていた。


 片方の腕が伸びてきてそれを一旦躱す。


 勢いをつけた欲望鬼の手が、モロに光の格子にぶつかって、ビリビリッ、ドカン! と派手に爆発したのだ。


「ひいいい……」


 顔面蒼白になった。


 ――あ、あんなのに体が触れたら、死ぬ。


 とにかく、真ん中へ。


 単に光の格子が怖いだけではない。


 そこは欲望鬼の懐である。


 もう一方の手が掴みにかかってきたが、


「悪いけど、直ぐに終わらせる」


 でないと、こんな嫌な緊張感は耐えられない。全身が冷や汗で濡れていた。競泳水着っぽいコスチュームの所々に染みが浮かぶ程。


 ステッキの先端を欲望鬼の腹に押し付け、


「行けぇ! マジカル安全カミソリ!」


 無数に発生した光の安全カミソリが、欲望鬼の腹から刻んでその身を削っていく。


 真っ黒な体が震え、どうにかこちらを掴もうとしてくるが、その前に大きな拳を支える体を消していくのだ。


 背後から腰が握られる。


 けど、その力は抜けていき、苦し紛れに再生したもう一つの拳を叩き付けてこようとしたが、振り被った上には光の格子があって、再び爆破されるのだ。


「グガ、ガガ……」


 呻きが聞こえ、奴は膝をつき、体が倒れ込んでくる。


 慌てて、背後に飛んだ。危うくお尻が光の格子に触れそうだった。


『七原さん、今なら、封印できます』


「よし! それじゃあ――」


 封印の儀の舞い――略。


 粒子状になって、欲望鬼だった穢れた欲望が天に昇っていった。


 雪花はがっくりと膝と掌をグラウンドに付けている。


「うう……、あんなに恥ずかしい踊りをしたのに、略された」


 それはかえって、良かったのでは?


 元気づけるように歓声が聞こえてきた。


 振り返ると、校舎の窓から高校生らが手を振ってくれているのだ。


「あ……」


 ――そうか、私、期待に応えられたのね。


 色々と恥ずかしい事はあったけど、報われた気持ちになった。


 やっと笑顔を見せて、校舎側に振り返ると、雪花は大きく片手をあげる。手を振り返そうとした。


 その時「おお」と歓喜に満ちた唸りと、どよめきが混じって聞こえた。


 あれ?


『な、七原さん、腋、腋!』


 高田川からの指摘に、腋の下に視線を向けた。


「へ?」


 気付いて真っ赤になる。そして、悲鳴をあげた。


 未処理の腋の下が全開で、健全な男子高校生らに披露されているのである。


 この瞬間、いったい何名の男子高校生が特殊な性癖に目覚めたのであろうか。


「いやぁ――――っ!」


 報道陣が集まる前に、涙目で逃げた。


 ――――


 達成感と羞恥心をどうにか心の中で消化できたのは、もう日が沈んだ後だった。


 マンションの部屋では、高田川がテレビを確認している。


「謎の女性の話題ばかりで、穢れた欲望に憑りつかれていた少年に関しては報道されていませんね。関係を警察が事情聴取しているはずですが」


 それは確かに気になるが、今はテレビを見たくなくて、雪花はリモコンで消した。


 高田川の前に座る。


「どうにか、欲望鬼の情報を匿名で流す事はできないんですか? そうすれば、憑りつかれた被害者も助かるっていうか」


 ネット社会。関係が取りざたされれば、その少年が誹謗中傷を受けてしまうかもしれない。


「伏せても直ぐに特定されますからね。ちょっとネオ魔法ランドに相談してみます。募集広告まで出せるのですから、何とかなるのではないかと」


「そう、それなら良かった」


 何処まで魔法が便利か分からないが、善良な罪のない人間を助ける物であって欲しいと願うのだ。


 気になった事を高田川に聞く。


「そうだ。あの魔性少女名……、フェチはまあ、分かるんですけど、意味としてはですけどね、ティッツって……」


「……ググってみてください」


 スマホで確認してみた。


「オ……オッパイって……。変更を希望します」


「できない事はないんですけど……」


 リモコンを持って、高田川がテレビをつけた。


 すると――。


『昨晩から現われ、謎の黒い存在と戦った女性ですが、どうやら、魔法少女フェチ・ティッツと名乗ったようです』


『魔法……少女ですか?』


『少女かどうかはともかく、フェチ・ティッツ……成程』


『フェチティッシュ?』


『いえ、ティッツ、つまり、乳房ですね』


 雪花はリモコンを奪い返し、テレビを消した。


「…………」


「とまあ、もう世間に広まってしまっています。まあ、きっと少女かどうかの論争の方が、激しくなりそうですが」


「どうでもいいです、そんな事!」


 また泣きそう。


「ま、まあ、夕食は私がおごりますから。これからここでお世話になる訳ですし、家賃の半分も払いますよ」


「そうね、そうしてくれると助かりま……ん? ここで、お世話になる?」


「はい。ここに引っ越してきますから」


「何で!?」


「そりゃ、マスコットは常に魔法少女と共にあるものでしょ」


 こういうの、男と女が逆じゃない?


 親子ほど歳の離れた男性と同棲、いや同居する事になって、愕然とする雪花であった。

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