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三十歳から始める魔法少女  作者: 千夜詠
2/17

魔法少女三十歳②

 呆然としながら、ハッとショーウィンドウの硝子に映る自分を見た。


 ――色々とキツイ!


 まずこの歳になって、ツインテールがキツイ。


 メルヘンチックなデザインがキツイ。


 そして、サイズがキツイ。


「あの……、く、食い込んでくるんですけど」


 パツンパツンだった。どう考えてもこのサイズは――。


「はい、本来、ローティーン以下を想定していましたから。そのスカート丈もロングのはずなのですが、七原さんだとミニに見えますね」


「そこはまだいいわよ。う、動くと、これ……」


 生地が突っ張る。慎重に動かないと、更に股間に食い食い込むだけでなく――。


 ――破れたり、しないわよね? ぐ……、胸が……、胸が苦しい。


 せいぜいAカップの胸元に押し込められた乳房が完全に食み出して、横にひしゃげているのだ。


 しかし何故だろう? この圧迫感、嫌じゃない。


「それよりも、早く助けにいきませんと」


「そ、そうね。で、どうすればいいの?」


「七原さん、今の貴女は高い防御力と驚異的な身体能力を与えられています。さあ、自信を持って、欲望鬼に立ち向かうのです」


 そう言われれば、力が漲っているような気がする。この体の内から溢れてくるような温かさ――これが魔力というものなの。


 今なら、あんな気持ち悪い怪物だって、倒せる気がする。


「よし! 待ってて、後輩ちゃん、今――」


 ビリ――嫌な音が聞こえた。


 ブルブルと震えながら、そっと確認すると、コスチュームのお腹の辺りに確かな裂け目がある。


 ――破れた!


 駄目だ。テンションがダダ下がりである。


「あー」


「だ、大丈夫です。ほら、目立たない場所ですし、それに……、どうせ戦いになれば、攻撃を受けてボロボロに……」


「今、何て言った!? ボロボロって――」


 甲高い悲鳴が木霊した。


 聞こえた方へと視線を向ければ、巨人の手の中で、徐々に裸に剥かれていく後輩ちゃんが、必死で胸を腕で隠しながら、最後の一枚であるショーツをもう一方の手で守っていた。


「いけません。このままでは彼女のスッポンポンが、実況中継、動画は世界に拡散されて、もう外を出歩けない体に」


「く……」


 この程度で恥ずかしいとか思っている場合ではない。


 先輩として、後輩ちゃんを守ってあげなくちゃ――想いが力に変わり、道路を踏み込んで前に飛び出した途端、体は宙に舞い上がった。


「へ……?」


 一歩でビルを超える程に高く跳躍し、体は黒い巨人へと迫る。


 風を感じる心地好さとか覚えている暇はなく、急接近する巨体に焦った。


「うわぁあああ――っ!」


 反射的に、握った魔法のステッキをラケットのように振って打ち込んでいた。


 バッシ――ッ! 欲望鬼の頬を叩いていて、奴の頭が一撃で粉砕され、真っ黒な塵となって霧散する。


 ――嘘!?


 これが魔法少女の力。


 まだどんな能力を持ったのか、まるで把握していないのだけど――やれる――と確信した瞬間だ。


 そのまま後輩ちゃんのいる手の上に降り立ち、両手でステッキを握って、ちょっと不格好だけど、構えた。


 既に巨人の頭は再生を始めている。


「大丈夫、後輩ちゃん」


「あ、貴女は?」


 気付かれていない。変身しても顔は変わっていなかったはずだけど。


 頭に声が響いてくる。


『七原さん、魔法の力で、今の貴女を七原雪花だと気付かれません』


「高田川さん?」


『さあ、魔法少女のデビューです。思い切って、参上のキメポーズで、名乗りのあげるのです』


「はあ? そんなの必要なの?」


『お約束ですから』


 そんな恥ずかしい真似、できる訳がない。


「そ、それより、これから、どうやって、後輩ちゃんを助ければ」


 まだ巨人の手に握られたままなのだ。


『仕方ありません。今度、名前とキメポーズを決めましょう。キメポーズだけに!』


「オヤジギャクはいいから!」


『光の刃の魔法を使ってみましょう。イメージした通りに操れるはずです』


 ――イメージ……、イメージね。


 体から溢れてくる魔力が、ステッキの先端へと集まっていく。


 で、何をイメージしたらいいのか?


 小さい頃にみた魔法少女のアニメ? それとも昔付き合った事のある男が見せてきた比較的最近の深夜アニメ? それとも実写映画で見たアクションシーン?


「ああん、早くしないと……」


 こうしている間にも頭部の再生が進み、それが成されると反撃される事だろう。


「ええと、切る物……、切る物……」


 ステッキの先端が光る。光はそこから離れ、形を作った。


 気の抜けるようなポコっという音がして、現われたのは――。


「え? 安全カミソリ?」


 そろそろ買わなきゃいけないと思っていたせいか、無駄毛の処理に使う安全カミソリと同じ形状であった。


「ちっさ!」


『だ、大丈夫です。ぷ……、それを沢山出して、切り刻みましょう』


「今、笑っていなかった?」


『…………さあ、早く』


 些細な事を気にしている場合ではない。


 一度成功すると、まるで登録されたように直ぐに同じ事ができた。眼前に大量に光の安全カミソリを出して、それを操作する。


「分かる。私にも分かるわ。いけ!」


 旋風に乗ったように光の安全カミソリが巨人の拳の周囲を舞って、指を斬り、手首を切断していった。


『やりましたね。今の光の刃の魔法は、マジカル安全カミソリ、として登録されました。これからは、マジカル安全カミソリ、と叫ぶだけで、発動します』


 叫びたくない。


 後輩ちゃんを掴んでいた指が消滅した丁度その時、欲望鬼の頭の再生が終わって、妖しい光を放つ瞳がこちらを睨む。


「く……、後輩ちゃん!」


 手を差し出せば、ハッとした彼女が握ってくれた。


 ぐっと引き寄せ、お姫様抱っこをすると、


「跳ぶわよ!」


「え? ひぇえええええ――――」


 ショーツ一枚だけの後輩ちゃんの悲鳴を聞きながらジャンプして、幹線道路へと降り立った。


 ゆっくりと後輩ちゃんを立たせ、安堵の笑みを見せた。


 だが、戦いは終わっていない。


「さあ、ここから離れて」


「あ、あの貴女は……」


「早く行って!」


 状況を考えて、後輩ちゃんが離れていったが、途中で振り返り、一度頭を下げた。こういうところが、彼女が可愛い理由だ。


 ――後は、あいつをどうにかしないと。


 ステッキで殴っても直ぐにまた再生されるだろう。どうすれば、倒す事ができるのか。


『七原さん、欲望鬼を完全に沈黙させるには、封印の儀を完成させるしかありません。まずは、攻撃を続け、弱らせてください』


「わ、分かったわ」


 敵は巨体。対するこちらは向こうから見たら虫けら程度の大きさだ。


 なら、うざい蚊や蝿のように動き回り、ヒット&アウェイを続けるのが効果的であろう。


 先程高く飛んだ脚力を横に。加速は瞬時に最高点に到達し、奴の視界の外へ。


 巨人の腕が伸びて、掴みかかってくるが、のろい。


「よし、これなら」


 斜め背後に到達すると、そこから再び跳躍して、ステッキで殴りかかる。


 バシッ! 頭部を狙ったが、庇うように上げられた腕にヒット。


 道路に降り立つと、直ぐに移動を開始する。


 ――頭を潰せば、また動きが止まると思ったけど……。


 それでも腕の再生まで、敵の攻撃は半減するはず。


「体が再生する前に、次の攻撃を当てて――」


 ビリっと嫌な音が聞こえた。


 激しく動き回ると、それだけ乳房が揺れて、胸下の生地が裂けたのだ。


「ひい! あ、でもこれ……」


 胸元の圧迫感が少し緩んで、楽に感じる。


 動き回ると、合わせて巨人も追ってきた。背後に回りたいが、意外と素早く振り返ってくる。


「なら――」


 懐に飛び込むようにして、足元を駆け抜けた。


 で、脛にステッキを叩き込んでやる。


 衝撃音が響き渡って、片足を消滅させてやった。


 グオオオオ――、苦悶のような咆哮が聞こえ、片手を道路に付けて、片膝もつかれる。


 再生は始まっているが、その前にもう一方の腕と足も砕いてやろう。


「このまま――、う……、股が摩れる」


 股座にコスチュームが食い込んできて、デリケートな粘膜を擦り込んできた。これ、下着がない。恥毛が僅かに食み出て、肉裂の形状が浮き上がっていた。


 必死になっていて意識していなかったが、股座に鈍い痛みを覚えると、ヤバい状態に気付いてしまった。


「やだ、これ――」


 足が止まった。


 蟹股になって、覗き込めば、食い込み過ぎて土手肉が露出していたのだ。


「いや――っ!」


 真っ赤になる。そして、結構食み出てきた恥毛を見れば、両手で股間を押さえるのが、当たり前の女性であろう。


『何をやっているんですか、七原さん』


「だって……、だってぇ」


 機械音が聞こえて顔を上げると、そこにドローンが飛んでいた。カメラがこちらを向いている。


「ひいい――、と、撮られて……」


『ああ、先程から、ライブ中継されていますね』


「嘘……」


 反射的にドローンを叩き落とした。


「ハァ、ハァ、ハァ……、ハ……っ!」


 何台ものドローンが飛び交い、上空にはヘリが。


 両手で体を庇うように隠して、その場にしゃがみ込んでしまった。


「うう……帰りたい」


 涙目になったその時、


『危ない!』


 気配に顔を向けると、高速で迫る物があった。


 避けるとか、考える暇もなく、体にぶち当たる。


 ドスンと鈍い衝撃を感じると、体が吹き飛ばされてしまった。


「ぐ……」


 ビルの壁に背中から当たって、衝撃の強さを物語るように、へこんでは大きな罅が入る。


 ――い、今のは?


 普通なら一撃で気絶していてもおかしくないダメージだったが、痛みだけで済んでいる。これが魔法少女の防御力か。


 どうにか立ちあがったが、再び襲い掛かってくる物を見て、横に逃れた。


 それが壁を貫通するのを見れば、顔面蒼白になる。


「な、何なの、あれ?」


『触手ですね。ほら、また――』


 巨人の体から伸びてきた黒い触手が何本も迫りくる。本体の鈍さに反して、弾丸のような速度で撃ち込まれてきた。


「こ、こ、来ないでぇ!」


 とにかく逃げる。


『どうやら、触手を撃ち込む攻撃でも七原さんが死なないと分かって、本気を出してきたようですね』


「冷静に言ってないで、どうすればいいのよ!」


『落ち着いて。死なないと分かるまでは本気でなかったのなら、相手は七原さんを殺す気はないという事です。ほら、安心できるでしょ』


 確かにそうなのだが、


「でも、あれ、気持ち悪い。ヒッ!」


 迫ってきた一本を反射的にステッキで叩いた。


 すると、本体と同じように消滅する。


 ――そうか、これで叩けば……。


 逃げてばかりいては、勝てない。こうしている間にも本体は再生し続け、万全の状態に戻ってしまうのだ。


『もう少しです。頑張って』


「ええ……」


 真っ直ぐに、やや曲がりながら、数本の触手が高速で迫ってくる。


「このぉ!」


 全てを打ち落とすつもりで、腕を振るいながら、少しずつ前に進んだ。


 ――もう少し、あいつの体を砕けたら……。


 近付く触手から叩いて消滅させて、前へ、前へ。


「こう見えても、バッティングセンターでストレス発散させてるんだから!」


 一本、二本、三本――打ち砕いていく。


 三メートル、二メートル、一メートル――本体へと迫る。


 ステッキの届く場所まで到達し、振り被ったその時、


「ヒ……、嘘でしょ!?」


 目の前から更に無数の触手が伸びてきて、四肢を絡め取ってきた。


 足掻き、魔法少女となって得た常人の何倍もの力で引っ張るのだが、それ以上のパワーで拘束されてしまう。


「マ、マジカル安全カミソリ!」


 光の刃で刻んでも、それ以上に伸びてくる触手が拘束を維持してきた。


「ぐ……」


 この間に、巨人の手足も頭も再生して、ゆっくりと立ちあがるから、合わせて雪花の体が持ち上げられた。


 大の字の格好にされ、本体を自由に移動する触手が雪花を欲望鬼の眼前に持っていく。


 大きな真っ黒な顔がニタっと笑った。


「ちょ、ちょっと……、やだ……」


 他の触手が体を撫で回してきて、乳房の頂を突いたり、太股に巻き付いて、鼠蹊部に先端を迫らせてくる。


「な、何なの……」


『まあ、触手ですから、エロい事をするのが目的なのでしょうね』


「こんなのに、姦られたくない! ああん、犯されるとこ、撮影されちゃう」


 相変わらず、ドローンが近くまで寄ってきている。それを面白がってか、巨人はそちらを攻撃する事はなかった。


『七原さん、逃れる手はあります』


「なに? 早く言って!」


 喋っている間にも触手に体が弄ばれ、股座を擦られてしまった。


『魔法の力で、力を更に強める事ができます』


「そうなの?」


『ですが、強めた分だけ……、性感も上がるのです』


「はい?」


 ――何なの、その能力。え? このコスチュームって、ローティーン用って言ったわよね。って、事はローティーンの女の子にもその能力が?


 考えている間にも貞操の危機が迫っている。奴がその気になれば、いつでも挿入可能な状況なのだ。


 触手が乳房の裾野から巻き付いてきて、引き絞るようにしてくる。


「そ、そこは駄目……。ただでさえ、コスチュームサイズが小さいから――」


 ビリっと嫌な音がして、胸元の生地が破裂するように裂けた。途端に圧迫されていた胸の肉果が本来の質量まで膨らんで「おお」と唸るような声が聞こえてくる。


「へ?」


 眼下に視線を送れば、少し離れた場所から多くの人間がこちらを見ているのだ。スマホまで向けて。


「いや――――ぁ!」


 こうなったら、早く逃れるしかない。


 ――力を高める。えーと、またイメージすればいいの?


 ステッキが光り、魔力の熱が体中を駆け巡る。それはとても心地好く、性感が確かに上昇していくようで「ハァ」と甘ったるい吐息を吐いてしまった。


 黒い巨人の股間のロケット状が更に大きくなったように見える。


「んぐ……、こ、こ、この……、あっ、ああぁああ……」


 股座を擦ってくる刺激にビクビクっと身が痙攣してしまったが、渾身の力で触手を引き千切った。


 地上へと落ちていく。降り立てば、涙目で巨人を睨み付けた。


「ハァ、ハァ、ハァ……、ど、どうにか、逃れたけど……ぐっ」


 しつこく触手を放ってきて、またも自分を捕まえにかかってくる。


 ――い、今、捕まったら。


 性感が何倍も上がっていて、肝心な部分を刺激されたら、イク。今でもギリギリなのに、そうなったら十八禁だ。


 横に移動を開始した。


 スピードも上がっていて、触手は追いつけない。


 これならどうにかなると思った?


「お、おほ……、おおん……、こ、これぇ、まずい……」


 胸元の圧迫がなくなったから、激しく動くと爆乳がこれまで以上に大きく揺れて、タプンタプンとするだけならともかく、バチンバチンと自分の体を叩いてきた。


「ぁひん! お、お、お……、も、もう……やら……」


『七原さん、もう少しです。奴は躍起になって貴女を追い、放った触手の分だけ、サイズが小さくなっています』


「そ、それなら――、きゃ!」


 巨人の周囲を回っていたのだが、不意に正面に触手が現われ、こちらの速度も上がっていた分だけ、衝撃も大きかった。


 ぶつかった触手は消滅したが、尻餅をついて倒れ込んだそこに、迫った無数の触手が鞭のように叩き付けられてくる。特に胸を狙って。


 直ぐに立ちあがる。


 必死になってステッキを振るい、ことごとくを潰していく。


 ――こ、このまま続ければ……。きゃぁ!


 高田川が言ったように、欲望鬼の体は小さくなってきていた。だが、単調に思えた敵の触手攻撃だったのが、一本だけトリッキーに地面すれすれからライズボールのように先端が浮き上がり、爆乳を叩いたのだ。


 乳房への強烈なアッパーカットに。体が浮き上がり、そして濡れた。股間に食い込んだコスチュームに濡れ染みがはっきりと。


「ひぎぃ――」


 瞳が上向き、ドローンのカメラにアヘ顔がばっちり撮られる。胸元の生地が弾け、ちょっと垂れ気味の爆乳が左右別々の大きな揺れを見せた。


 それでも――。


「こ、このぉ――――っ!」


 膝を付かず、地をしっかりと踏みしめる。


『おお、これは……。ギリギリ、乳首と乳輪が隠れています。そうか! 乳首が勃起して、僅かに残った生地が、そこに引っかかっているのか!』


「解説しないで!」


『ですが、これで、準備は整いました』


「じゃあ――」


『はい、さあ、封印の儀を行います。さあ、舞ってください』


「舞う? どうやるんです? 自信ないんですけど」


 日本舞踊どころか、学生の頃にやったラジオ体操でも友人から笑われるレベルなのだ。


『仕方ありません。では、私が遠隔操作で、七原さんの体を動かします』


「そ、そんな事できるの? じゃ、じゃあ」


『まずは、ステッキの先端を欲望鬼に向けて』


「こう?」


 封印する――その意識が伝わって、巨大な光の魔法陣が欲望鬼の足元に描かれる。その瞬間、世界から音が消えたように感じた。


 まるで超重力が巨人を押さえ付けているように、奴は動けない。


『今です。いきますよ』


 緊張のまま頷いた。


 片腕が上げられ、もう一方が腹部の前に。片足が三角形を描くように上げられた。


「…………これ、シェーのポーズじゃ……」


『間違えました。え、えーと』


 今度は、ステッキの先端が顔の前にやってきて、舌を伸ばしてペチャっと舐める。


『エロ!』


「貴方がやらせてんでしょ!」


 それから、街灯のところまで走って、大きく股を開きながら、股間を擦り付けた。片足を絡めて昇り、上半身を仰け反らせながら、くるっと回る。


 完全にポールダンスであった。


「また、間違えた!?」


『いえ、これで合っているのです。封印の儀で行われる舞いは、それぞれの欲望鬼に合わせたものになるのです。ほら』


 巨人が両膝を付いて、全身を震わせている。


『今です。最後の仕上げ、ステッキで奴の股間から突き出ている物を思い切り叩くのです』


「や、やらなきゃ駄目?」


『早くしないと、封印の儀が終わって、欲望鬼が復活しますよ』


 もうここまで散々、恥を晒してきたのだ。


「うわぁあああああぁあああ――」


 涙目で叫びながら、巨人の股間に向かって、突進した。


 バッシ――ッ! 叩き付けると、グオオオオオ、と断末魔のような咆哮が聞こえ、魔法陣から更に強い光が発せられ、完全に欲望鬼を滅していく。


 幻想的にも見えた。ただ、美しいとは感じなくて、安堵だけが胸を締めている。


 巨人を構成していた黒いそれが、粒子となって上空に昇っていった。


 それを見詰めていると、高田川が近付いてくる。


「お疲れ様です、七原さん」


「終わったの?」


「ええ、欲望の塊だったものは、改めてネオ魔法ランドで管理されます」


「何なの、そのネオ魔法ランドって? ん……」


 ふらっと体が揺れた。相当に疲れたようである。肉体的にも精神的にも。


「その話はまた後で。まずはここから離れましょう」


「そう……ね」


 人が集まってくる前に逃げたい。


 それだけを考えていた。

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