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三十歳から始める魔法少女  作者: 千夜詠
10/17

三人目①

 人事異動。それは会社務めの人間にとって、必ずといっていい程、訪れるランダムイベントである。


「えっ、私が社長秘書ですか?」


 突然、部長に呼ばれたかと思うと、寝耳に水。青天の霹靂だった。


 現、社長秘書がお笑い芸人になる為に退社が決まった事は人事部にいる雪花は早くから知っていたが、まさか後任に自分が選ばれるとは思ってもいなかった。


 だが、ここで雪花は疑問を覚えた。


「ところで、社長って、どんな方なのです?」


「さあ?」


 部長も知らないって――そう、我が社の社長は謎。


 社員の前に現われた事って、ほぼ記憶がない。


 いつだったかリモートでモニター越しに見た記憶はあったが、その時の事もよく覚えていない。小柄な女性であったような気はする。


 その曖昧さ、何処か魔法少女のようで――。


「まさか、ね」


 とりあえず、社長室へと挨拶に向かう。


 緊張感を覚えつつ、扉を叩いた。


「どうぞ」


 その声、聞いた記憶がある。リモートで聞いた時だったか?


 扉を開き、一礼して「失礼します」と中へ。


 できれば断りたいと思っている。


 ねえ、秘書って何をするか誰か知っています? 具体的に。


 一般的なイメージはあったが、経験がある訳でもなく、専門の勉強をした事もない。


 とりあえずは、言われた事を一つずつ熟して、仕事をしながら覚えていくしかないのだろうが、最大のネックは魔法少女との両立だ。


 これまで以上に忙しくなりませんように。


 それだけを願う。


 社長室に入ったのは初めてだ。


 正面にデスクがあり、その向こうに全面のガラス張り。


 小柄な女性の姿が、背を向けて、外を眺めていた。


 ――彼女が、社長?


 くるっと振り振り返られる。


「来たわね、七原雪花」


 金髪縦ロールが揺れた。


「…………あ」


 思い出した。というか、忘れようもない。


「新幹線の中で、スカートの中に顔を突っ込んできた小学生!?」


「誰が小学生だ!」


 慌てて、頭を下げる。


「し、失礼致しました」


 床を見詰めながら考える。


 ――えっ、どういう事? あの時の女の子が、社長。いや、社長のお嬢さんって、可能性もあるし。


 とりあえず、小学生ではないらしい。


「まっ、座りなよ」


 ソファについた。


 彼女の方はデスクで社長の椅子に座るのだが、背が低くて、角度的に顔が見えなくなった。


「えーと、社長で宜しいので?」


「そうよ。私が社長のローリー馬塲よ。三十六歳って事になっている」


「事に……なっている?」


 段々と怪しくなってきたぞ。


「日本の社長としては、若い方だと思うけど、おかしい?」


「い、いえ……、随分とお若く見えるので……」


「そう? 実年齢より、かなりサバを読んだのだけど」


「ホントは十歳?」


「違うわよ! 逆よ、逆!」


 雪花は閃いた。


「ハッ、パンツの臭いを嗅いだだけ、若返る妖怪」


「誰が妖怪か! 妖怪じゃなくて、一種の妖精ね。ネオ魔法ランド、副総帥、それがもう一つの肩書よ」


「………………はあ!?」


 理解した。


 あの顔が曖昧な記憶。それは魔法少女の正体が隠される事と同じ。


「ふふん、驚いた? まあ、まさか、うちの会社に魔法少女の才能を持つ者がいたとは、灯台下暗しってやつね」


「じゃ、じゃあ……、人間じゃない?」


「ええ、人間じゃないわ。大きなお友達らの妄想から生まれた存在、それが私よ。ある意味、貴女も、そしてこの会社の従業員も、大きなお友達によって、給料を得ているといって、過言じゃないわ」


 知りたくなかった。


「え、ええと、それで私を秘書にしたのは……」


「その方が活動しやすいでしょ。これで、いつでも欲望鬼が現われたら、出動できるわ」


「いえ、今まで通りのペースで、のんびり現場に行きたいんですけど。ほら、それに、高田川さんのフォローなしに、行く訳にはいかないでしょ」


 自分はいつでも現場に駆け付けられるとして、それが就業時間中なら、高田川は仕事をしている事になる。


「あら、問題ないわ。来週で、高田川は退職するもの」


「えッ!? うちの会社、定年は六十五にまで伸びたはずじゃ」


「セカンドキャリアってやつね。ユーチューバ―になるらしいわ」


「は?」


「魔法少女フェチ・ティッツ関連の動画が溜まっているらしいから、それで再生回数稼げるらしいわよ。R十八にするか、悩んでいたようだけど」


 あの、ジジイ。


 十八禁って、どんな映像を持っているの?


 よし、後で絞めよう。


「と、いうわけで、これから宜しくね」


「…………はい、社長」


 一月後「うちの会社の社長秘書にフェチ・ティッツのコスプレをさせてみた」の動画で、高田川、バズる。


 ――――


 女子高の教師なんて、決して羨ましいものではない。


 よく聞く事ではあったが、それはなってみて、真に実感ができるというものだ。


 田所佳弥は眼鏡の似合う、理知的な大人の男である。生真面目さとクールさが滲み出る自他共に認めるイケメンだ。


 こういうタイプには、大人しい進学クラスの女子の方が合っていたかもしれない。


 だが、彼が受け持つ事になったのは、学内、周辺校も含め、最も偏差値の低いクラスであり、教室内は化粧臭かった。


「おい、聞いているのか?」


 表情を変えないようにして、佳弥は教壇から生徒らを眺めた。


 ほぼ、こちらを見ている生徒はいない。


 携帯を見ているのが七割。寝ているのが一割。残りの約二割は、勝手に席から移動して、クラスメイト同士で喋っていた。


 はあ、と溜息をつく。


 怒る気力も湧いてこない。


 一人だけ、こちらを見ている女子がいる。


 立浪寧々亜(たつなみねねあ)。長く伸ばした少し癖のある髪を派手に金色に染めて、浅黒く焼けた彼女は、ちょっと冷えてきたこの時期でも、制服の胸元を開き、ブラウスもボタンを一つだけ止めて、下着が覗け、豊かな膨らみの谷間が完全に露出していた。


 で、ウインクしてきたのだ。


 元々、目のやり場にこまるような娘なのに、そんな事をされては佳弥は真っ赤になってしまった。


「先生、可愛い」


 ニヤニヤされてしまう。


「はあ、アンタ、田所の事、好きなん?」


「揶揄ってるだけっしょ。だって、田所、もう直ぐ三十だってさ」


「あはは、おっさんはないわ」


 ぐっと拳を握るが、眼鏡の位置を直し、ふんっと鼻を鳴らして、


「これで、ホームルームを終わる」


 教室を出ていった。


 十代の女子。こんな厄介な連中はいない。


 体はもうしっかり女であるのに、精神的にはまだ子供で、礼節ともかけ離れている。


 やはり大人の女性がいい。


 ――いかんな、そういう基準で、生徒を見ては。


 精神的に未熟であるが故に、教育が必要なのだ。


 そう思ってはいるのだが、自分はちゃんと向き合えているのか、と自問自答する日々だけが過ぎて、ここまで来てしまった。


 この学園の教師であるだけ、まだ恵まれている。


 充分な教員の数を揃え、最新のシステムを積極的に採用して、仕事の簡略化がされていた。他の学校の教員が残業を重ねているのに比べ、余程力を入れている部活動を担当していなければ、夜も七時で帰る事ができる。


 テストも外部委託でオンラインであるから、もっと生徒に寄りそう時間があってもいい。


 ――さっきは、ちょっと素っ気なかったか。


 愛想を振り撒くのは苦手だが、自分なりの接し方があるはず。


 模索して、やってみなければ、成功も失敗もないのだが、もしも失敗した場合、その生徒の人生に関わると思うと、なかなか踏み出しにくい。


 それでも放課後の教室は見ておこう。


 授業に集中できないのはまだしも、苛めなどを見逃す事だけはしてはいけない。その為には、できるだけ生徒のいる場所にいる方が抑制にもなるはずだ。


 あいつらに囲まれるのは苦手だが。


 茜色が小さくなって、夜闇に迫りだし、廊下はもう暗くなってきている。


 ――もう、皆、帰ったか?


 グラウンドではナイター照明が点灯し、熱心な部活は続いている。


 教室の扉を開けた。


 目に飛び込んできたのは尻だった。


「…………」


 女子が一人、極端な前屈みで、短いスカートが上がって、丸くて瑞々しいお尻と、それを包む薄桃色の下着が完全に覗けている。


 つい、じっと見てしまって、それから、真っ赤になって、顔を背けた。


 勃起してしまっている。


「うーん、やっぱ、短パンじゃ分からないか」


 その声、立浪寧々亜。


「な、何をしているんだ」


 声をかければ、こちらに振り返ると思って、顔を戻した。


 寧々亜は顔だけをこちらに向けて、下半身はそのままだった。


「あっ、先生」


 さっと、また顔を背けると、寧々亜もどういう状況が気付く。


「ははん、見た、先生? 寧々亜のパンツ」


「い、いや、それは……」


 ニヤニヤしながら、寧々亜が近付いてくる。


「バレバレじゃん。勃ってるよ、先生」


「な――」


「ねっ、もしかして、先生って、童貞?」


「ぐ……」


 経験者でも勃起する。それくらいのエロさはあった。が、そう反論もできない。


「あっれえ、もしかして、図星だった? マジ、三十で童貞とか、キモ」


「そ、そんなのは、どうでもいい。立浪、お前、何をやっていたんだ」


「いや、ちょっとアルバイトでさ」


「アルバイト?」


 とりあえず、話題が変わったのは助かった。


「あー、何て説明すっかな。ほら、私って、可愛いじゃん。だから、マスコットやる事にしたの」


「訳がわからん。それ……、山本の短パンだろ」


「うわ、一発で、誰の短パンか分かるって、ヤバくない?」


「さ、さっき、山本の机の傍にいただろ」


「あっ、そっか……」


 ジーと、寧々亜が顔を見てきた。


「な、何だ」


 ――こ、このドキドキはなんだ。ガキ相手に……。


 実際、寧々亜は美少女だ。これで色白で黒髪のきちんとした格好をしてくれたら、ちょっといいな、と思ってしまうだろう。それはもう別人だが。


「いや、これまでの魔法少女って、BBAばっかだから、先生もありかな、って思ったけど、流石に男はないわ」


「何の話だ?」


 ぐっと近付かれる。


 すると、乳房が体に当たってくるのだ。


「ねえ、先生、二人っきりだよ」


「だ、だから……」


 体温と柔らかさと弾力が感じられ、股間がきつくなってくる。


 クンっと寧々亜が鼻を鳴らした。


「あはは、冗談だって。そんじゃ、先生、また明日ね」


 寧々亜が教室を出ていくと、佳弥の体から力が抜けていった。


「くそ……、揶揄いやがって」


 勃起はしたまま。下着の中では、棒状の先端から滲み出ているものがあった。


 田所佳弥、明日で三十歳。童貞である。


 ―――


 結婚したい。


 そう思っている人間は多い。


 自らの子孫を残したいのは生物としての本能であり、誰もが一度は持つ欲求。


 知性と理性を持つ人間の現代社会においては、結婚はその第一歩であり、終着点であるとも言える。


 時に対象は一人に絞られ、強い執着となる事があった。


「ああ、あの人と結婚したい」


 結婚をするにはどうすればいい。


 正しい手順を踏むなら、告白して、お付き合いが始まり、お互いを知り、一生を共に過ごす気持ちが固まり、となる。


「今直ぐ、結婚したい!」


 異常に膨れ上がった欲求は、冷静に相手の気持ちを計算できなくなる。


 どうすれば、お付き合いできる?


 その段階をすっとばし、


 どうすれば、結婚できる?


 と、考えた。


 既成事実。


 一度、思い付いてしまえば、もうそれ以外に方法はないように思えた。


「ああ、田所先生……、早く、子作りをしましょう」


 スマートフォンの待ち受け画面にあった彼を舐め回した。


 ――――


 またいつも通りに一日が終わる。


 今日が誕生日とか関係なしに、いつも通りだ。


 そう、特別、誰かが祝ってくれるという事もない。


「はあ……」


 放課後の廊下で、溜息をつきながら自虐的に笑っていた。


 ――今日で、三十か。


 二十代ではなくなった。二十九と三十では、まるで印象が違って感じる。周囲よりも自分だけが、より強く感じてしまうのだが。


「あっ、いた」


 振り返ると、寧々亜が悪戯な笑みを浮かべている。


 気持ちを教師モードに変えるのだ。


「立浪、お前、また残って……。部活もやっていないんだろ。早く帰れ」


「ひっど。せっかく、先生の誕生日、祝ってやろうって、思ってたのに」


「え……」


 同僚の教員の中でも知っている者はいないだろう。


 ――まさか、こいつ、俺の事……。い、いや……。


 案外、気遣いができる生徒だ。勘違いして、手を出したら、教師生命が終わる。


「ほら、こっち」


 手を捕まえられて、他に誰もいない教室に引っ張られてしまう。


 どうなんだ、特定の生徒と二人きりとか。


 いやいや、学校の中なのだ。進路の相談とかでもよくある事だ。意識し過ぎだろ。


 もしも、本当に祝ってくれるなら、普通に感謝をすればいい。


 教え子に誕生日を祝われるなんて、これまでは一度もなかったし、そんな経験をする教師はほぼいないのではないのだろうか。


「ねえ、先生」


「な、なんだ」


「誕生日のお祝いに、ブラとパンツ、どっちがいい?」


「は?」


「だから、今、私が身に付けているやつ、ここで脱いで、そのままプレゼントすっから」


「はあ!?」


 誕生日を祝うとか言って、揶揄ってるだけか?


「いやさ、童貞の先生に、何がいいかな、って考えたら、これが一番かな、って。処女は、えーと、卒業してからだから、三十二歳の誕生日にあげるよ。そん時、私に先生の童貞ちょうだい」


「お前、処女だったのか!」


 驚くところ、そこじゃないだろ。


 いかん、混乱してきた。


「えー、酷くない。私の事、ビッチだと思ってたでしょ」


「あっ、いや……。すまん」


 寧々亜が距離を詰めてくる。また胸が当たってきそう。


「あっ、でもぉ、やっぱ、ビッチかも。毎晩さ、先生の事、考えてぇ、オ・ナ・ニイ・してっから」


「こ、こら、か、か、揶揄うのもいい加減に……」


「えー、揶揄ってないってぇ。迫ってんの」


「や、やめ……」


「先生、勃ってんじゃん。あっ、処女はまだ駄目だけど、手で抜いてあげよっか?」


 落ち着け。


 冷静になれ。


 仮に、寧々亜が本気であっても、教え子にそれはまずい。非常にまずい。


 けど、こんなチャンス――。


 ガラっと教室の扉が開かれた。


「何をやっているんですか、貴方たち」


 振り返ると、そこには同僚の先輩教師がいた。


 眼鏡をした寧々亜とは正反対に地味で、年上の女性である。


「え、えと……、これは、ですね……」


 ――何て、言えばいい? そう、進路相談。それでいこう。


 寧々亜がぎゅっとスーツを掴んできた。


「先生、あの女に近付いちゃ駄目」


「おい、先生に向かって、あの女とか――」


「違う。アレは……、やばい」


「はあ?」


 先程までの、色香を演出してくるような表情から一変し、緊迫感のある顔を寧々亜が見せている。


「ん……」


 しっかりと振り返り、生徒を守るように、寧々亜の前に立って、女教師に向き合った。


「何か、ご心配をなさっておいでのようですが、何も問題はありません。相談を受けていたまでです」


「先生、カッコいいよ。勃起してっけど」


「う、五月蠅い」


「けど……、逃げよ。アレ、ホントにヤバいんだって」


 寧々亜の言う事も分かってきた。


 女教師がぶつぶつと小声で何かを呟いている姿が、異様。


 確かに、そんなに明るい女性ではなかったが、今の彼女は、それを通り越し、不気味さが溢れだしている。


「…………したい」


「はい?」


「結婚したいぃいいい! 子作りしましょう!」


 女教師の体から、真っ黒な煙のような、ヘドロを気体にしたような何かが大量に吹き出してきた。


「欲望の顕現化……、聞いちゃいたけど、初めて見た」


「え、何だって?」


「い、いいから、逃げて、先生!」


 黒いそれが、一つに集まり、形を成していく。その後で女教師が気絶していた。


 集まった黒い物がはっきりとしてきた。


 ――こ、これって……、テレビで報道していた……。


 欲望鬼――ネオ魔法ランドなる怪しい団体からの情報が広まって、今ではそう呼ばれている何か。


 まるで、大きな蛞蝓のように見えた。真っ黒ではある。だが、ヌルヌルした質感はリアルで、鎌首のようにあげられた先端がこちらを向く。


「こ……、ここに……入れて……」


 くぱぁと一部が開き、女性器のような形状を見せてきた。


「ヒイぃ!」


 寧々亜が机を投げた。欲望鬼に当たる。


「先生、逃げて! 私が食い止めるから」


 足が震える。


 逃げたい。逃げたい。逃げたい。逃げたい。逃げたい。逃げたい。逃げたい。逃げたい。逃げたい。逃げたい。


 けど――。


「生徒を置いて、逃げられるか!」


 寧々亜の手を掴んだ。


「え、せんせ……」


 走る。何処に向かって、どうすればいいか、分からなかったが、寧々亜を連れて逃げる。


 追いかけてくる欲望鬼。


 ズルズルと這う動きは遅く、だが、執念のようなものが伝ってきて、体に纏わりついてきそうに感じた。


 階段を下りる。


 寧々亜は運動神経がいいようで、途中で追い越して、


「先生、こっち」


 三階から二階に至った直ぐに、別の教室に入った。


 で、入り込んだのが、掃除道具の入ったロッカーである。二人で。


「狭いな」


「いいじゃん、密着できて。あっ、やあん、先生の硬いのが当たってくるぅ。いけないんだ、生徒に欲情して」


「そ、そんな事、言ってる場合か」


 押し付けられる乳房の柔らかさと弾力。体温が感じられ、露出した褐色の胸元から、瑞々しい肌のいい匂いがした。


「ねえ、先生……」


 顔が近い。寧々亜の唇に視線が向いてしまった。


「な、なんだ」


 ドキドキしてしまった。


「パンツの臭いを嗅がせて」


「は?」


「いいから、さあ、脱いで、嗅がせろ」


 ベルトが外されている。抵抗する間もなくて、ズボンが下ろされた。


「ま、待てぇ、立浪……」


 声が上ずった。


「脱がしにくい……。んじゃ、こうして、手に臭いを擦り付けて……」


「ま、待て……、あっ、そ、そんな、擦ったら……、あ、ああっ!」


 ドビュ――。


「…………これだから、童貞は。えと……」


「うう……、って、お、おい、何して」


「だから、臭いを嗅いで……、うわ、掌ベトベト……、クンクン……」


「嗅ぐなよ」


「んー、舐めてみっか。ぺろ……。ふむふむ、変な味……。こ、これは……」


「あー、何だよ、変態女子」


 なんか、穢された気分だ。


「どーてーには言われたくないっつの。それより、先生、契約して」


「はあ?」


 胸元の谷間に手を入れた寧々亜が、そこから紙を取り出してきた。


「どこに入れてた」


「いいから、ほら、ここに名前を書いて。ボールペン、ほら」


 勝手に上着の中に手を入れてきて、内ポケットからボールペンを取りやがった。


「名前を書く? おい、変な契約書じゃ――」


「ほらぁ、私の胸を机代わりにしていいから」


 書いた。ボールペンの先で、乳房を押すと「あっ」とか声をあげられる。出したばかりだが、まだギンギンだ。


「書いたぞ」


「よし、じゃあ、これを握って」


 また胸の谷間から、棒状の物を出してきた。こいつの胸の谷間は四次元ポケットか。


「お、お前、これ……。ふぅ、ふぅ……」


「うわ、キモ! ははん、使ったこと、あったりしてぇ」


「こ、これを、立浪が……」


 ガラっと教室の扉が開いた。


 ズルッ、ズルッ、と這うような音が聞こえてくる。欲望鬼の強烈な気配に、鼓動が破裂しそうだ。


「どこ……、ああ、分かる。はあああ、ここっ!」


 ガタンっとロッカーが揺れた。


「ヒイぃっ!」


「先生っ、それを掲げて! 上、上に」


 追い詰められた状態で、これでどうなるのかも分からないまま、その棒状を持って、腕をあげると、ズガンっとロッカーに穴を空けて、先端が突きでた。


 その後、何かが降り注いでくる。


 この瞬間、彼の日常が変わった。

読んでくださる皆様、ありがとうございます。

明日、「おちぶれ悪魔貴族に転生したので馬鹿にされ続けたけど、牝天使を変態プレイで堕天させて、最強軍団を作ってみた」の公開を始めますので、そちらも宜しくお願い致します。

こちらは18禁になります。

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