40歳OL、誘われる
一緒にと言いながらも、どうせ友達と行くだろうと思っていたのに、吉田くんは本当に一ヶ月待ったらしい。
喫茶店に入るとお婆ちゃんに「ひと月ぶりねぇ!」と言われていた。無駄に優越感を持ってしまいそうで、自分の浮かれ具合にちょっと呆れる。
月命日に半休をもらい、吉田くんと休みを合わせた。今度は平日だから夕飯をと思ったが、さすがに混んでいた。駅に近いと平日の方が忙しいようだ。これは写真を撮るのは難しいか?と心配すると、吉田くんは連射でサラッと撮ってしまった。
「夜だと暗いですけど、帰ったらスマホの修正機能を駆使します。このままの方が雰囲気出てたりするんですけどね」
素人ですし、正直全然注目されてないんでお気楽写真ですよ、と吉田くんは笑った。フォローして少し眺めてみたけど、素人なりに素敵な写真ばっかりだと思うけどなぁ。まあ、そういう気楽さがSNSがこれだけ流行ってる理由なんだろう。
「一口でいいの?」
吉田くんのプレートについてきたスプーンに私のオムライスをこんもり乗せて、吉田くんに渡す。
「はい。写真を撮り終えたら次はメニュー制覇するんで、今は一口で」
目の前にあると食べたくなるのがひとのご飯である。私も吉田くんのビーフシチューをスプーンで一口分もらった。
「明さんこそ、それだけでいいんですか?」
「私もいずれ全制覇するもの。次回頼んじゃうかもしれないけど。ビーフシチュー美味しいわぁ」
「うわ!そこは付き合ってくださいよ〜」
「しょうがないなぁ、ふふ。いいけど、お会計は割り勘ね」
「え、何でですか?」
「だって吉田くんアルバイトでしょ。いつも奢ってもらったら悪いわ」
「いや。付き合ってもらってんのは俺なんで、もたせてください」
「やだ格好良い……!」
「……複雑な気がするのは何でですかね」
薄給だとはいえ正社員の私がアルバイトくんに毎度奢られるのは罪悪感が半端ない。24歳でフリーターなんてどういう事情か気になるけど、まだそこまで突っ込んで聞けていない。面倒を見てしまいたくなりそうなのが我ながら不安要素であり、聞いてしまったら、この関係が崩れてしまいそうな気がしてる。
知り合い以上、友達未満。その頼りない関係が心地よいのも事実だ。
そのための割り勘提案である。
「今日も俺に払わせてくれたらデザート一品付けますが、どうしますか?」
「うわあ!」
卑怯な手を……!年齢的に小さくなったとはいえ別腹持ちの私になんという悪魔の囁き!しかもこの喫茶店、ディナー時間のデザートは小ぶりで、追加するのにとてもいい量なのだが、私個人としては明日の朝の胃もたれになるかどうかが壁である。だが。
「……ひ、一口、食べたい、かも……」
「わっかりました〜!」
せめてもの抵抗としての一口なんだけど、吉田くんの笑顔にまあいいかと思ってしまう。
「そうだ、明さん、この後俺ん家に来ませんか」
…………は?
「この間言ってたシリーズ物の映画、今日一挙放送してるんですよ。食べ終えた頃に明さんが見逃してた分が放送されそうなんですけど、観に来ませんか」
わー、よく覚えててくれたわね、私の方が言ったことを忘れていたわ。うわ、思い出したら観たくなってきた。
ていうか、これ、どうするべき!?




