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40歳OL、写真を撮る



 日曜のこの時間は空いているのか、老夫婦が一組と、カウンターで文庫を読む男性だけ。昔のビルの店舗は広い。店の中にでっかい柱があるけど、席の配置がいいのか、オブジェのひとつに見える。ただ、そこには色んなポスターが貼ってあり、昔からのお店なんだと再確認。商店街の地図のようなポスター、スポーツ少年団の紹介、猫や犬の里親募集、学生劇団の公演案内、タクシー会社や病院の一覧。雑然としてるはずなのに、そういう模様のように馴染んで見える。

 シックな雰囲気の店内ににぎやかな一角。面白い。ふと見れば、吉田くんの視線がキョロキョロと店内を見回している。吉田くんの歳ならファミレスの方が馴染みがあるだろうなぁ。


()いてて良かった……」

「日曜のこの時間は空いてるのよ。はいお待たせしました」

 ひとりごとに返事があってドキリとしたら、お婆ちゃんがジョッキパフェとケーキを置いた。

 ジョッキパフェは本当にジョッキで、私が想像していたより小さくて拍子抜け。そうか、昔居酒屋で頼んだあれはピッチャーだったと認識を改める。そして日替わりケーキは苺ソースのかかったレアチーズケーキだった。ラッキー!

「この時間は平日だと休憩時間でお店を閉めているから、常連さんも来ないことが多いのよ。それに日曜は孫の世話に忙しいんですって。じゃあごゆっくり〜」

 なるほど、このお店は常連さんが多いのか。納得。

「あ!あの、パフェとお店、SNSに載せてもいいですか?」

 吉田くんがお婆ちゃんを呼び止めると、お婆ちゃんの顔がぱあっとなった。

「あらあ!いいの?」 

「あんまりフォロワーいないんで宣伝にはならないんですけど、俺らネットで見てここに来たんです」

「あらあ!私たちそういうのに疎くて、常連さんが写真を撮って息子さんや娘さんに頼んだって言ってくれたことがあるのよ〜」

「へー!常連さんすごいですね!」

「助かるのよ〜、うふふ」

「あった、この写真です」

 お婆ちゃんは接客業だから会話に慣れてるだろうけど、吉田くんもなかなか。お婆ちゃんは吉田くんのスマホを覗く前に、首から下げていた眼鏡を掛けた。その姿にやたらと和む私。

「わあ!うちのパフェだわ!でもこれ誰が撮った写真かわからないわね!うふふふふ」

 私も見せてもらうと、目の前のパフェと同じものがあった。背景はたぶんカウンター。映えとか気にしない無骨な写真。そしてお婆ちゃんは素敵に撮ってねと笑って戻って行った。

「明さん、その日替わりケーキも一緒に写していいですか?」

「いいわよ」


 そうして。逆光だスマホのライトをこっちからだコーヒーとの配置は、と、私も一緒にかなりにぎやかにやってしまい、最後にはカウンターにいた男性客と老夫婦にまで写真を確認してもらって、多数決で決定した一枚を投稿。

 やり切った感があったが、皆さんに頭を下げてから、吉田くんはやっと念願のスイーツにありついた。その顔を思わず隠し撮り。というか、パフェに夢中の吉田くんは私がスマホを構えても全然気づかなかった。

 男の子も美味しそうに甘いものを食べるのね。私が二十歳くらいの頃はスイーツ男子は少数派だったから、時代を感じるわぁ。

「明さん、来月も一緒に来ましょうよ」

「ええっ」

「次はランチか夕飯で」

 まさかのお誘いがグイグイ来る。でも来月か。来週って言われるよりは気持ちに余裕がある。

「いいわよ。私オムライス頼もうっと」

「俺、次はビーフシチューにします」

 ビーフシチューもメニュー表に写真が載っていてとても美味しそうだった。

「俺、常連になって、メニュー全写真載せたメニュー表を作らせてもらうんだ……!」

 マジすか。

「明さん、協力してくださいね。二品ずつ撮ったら早く作れますし」


 しっかりしてる。しかし……その笑顔に弱いことを見抜かれている気がしないでもない……








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― 新着の感想 ―
[一言]  うにゅう。  なかなか策士な兄ちゃんだけど、その根源はどこから来ているのだらう。
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