40歳OL、会話する
「いらっしゃいませ。こんばんは」
「こんばんは」
最近、いらっしゃいませの他にも挨拶が付くようになったらしい。客の年齢層が他のスーパーに比べて高いからだろうか?
私もその対象かと思うと少し複雑ではあるが、会社以外での会話もないのでアルバイトくんでなくともつい返してしまう。ただの挨拶だと思えば特別恥ずかしいこともない。何時間勤務かわからないが、その間ずっと声掛けをしているのだからレジ係も大変だ。
そうして会計を済ませた品物をエコバッグに詰めていると、また「あ」と聞こえた。
「しまった5分遅かったか。おつかれさまです」
声の方を見やるとアルバイトくんがカゴを重ねているところだった。どうやら彼は今から入るらしい。
「今からなの?頑張ってね」
「はい、頑張ります」
そう言ってにこっとしたアルバイトくんは他のレジ係に挨拶して1番のレジに入った。すると隣のレジに並んでいた客達がアルバイトくんの1番に流れて行く。
やはり他にもファンがいた……なんてね。
「いらっしゃいませ。あれ、今日は遅いんですね」
「同僚が風邪で二人同時に休んじゃって、みんなで残業したの」
挨拶どころか、客がすいている時には会話までできるようになってしまった。でもアルバイトくんはお年寄りにも人気があるので、よくお婆ちゃんに話しかけられていたりする。
……彼の中で私のカテゴリーはどうなってるのかしら……?
「それはおつかれさまでした。もう帰ったんだと思ってましたよ」
「ねー。だから今日は鍋焼きうどんよ。遅くなったからなるべく消化のいいもの食べないとね、ふふ」
「俺もそうしようかなー。まだ残ってましたか?」
「1個は。あとは蕎麦だったかな」
「上がりまでうどんか蕎麦か残ってますように! はい、レシートになります。ありがとうございました。帰り気をつけてください」
「ありがとう」
自分の息子でもおかしくない歳のアルバイトくんに「気をつけて」なんて言われて嬉しいなんて、やっぱり私って安いわぁ。
四十九日の法要は葬儀の時に済ませたが、四十九日までの一週間ずつの墓参りは日曜日にずらした。葬儀含め規定より長めに会社を休んだので、その振り替えだ。社長も同僚も気にしないでと言ってくれてるが、それこそ母も仏壇でいいわよと言ってくれると思う。
親戚は少し遠くに住んでるので、墓参りは私一人。一応暗めの色の服にはしたけれど、鏡の前でいつもと変わらない色味に笑ってしまった。もう少し落ち着いたら、少し明るい色の服を買おうかな。
色々を車に積み込んでいつものスーパーの開店時間に合わせて寄る。ここは生花も売っていて助かる。
「いらっしゃいま、あれ!」
このパターン多くない?
でも珍しく昼間にレジにいたアルバイトくんは、期待していた通りの反応をしてくれたので嬉しい。
「おはよう、今日は早い時間からなのね」
アルバイトくんは菊の花束をスキャンすると、手際よく専用の袋に入れてくれた。
「おはようございます。昨日急に時間代わってくれって頼まれて交換したんですよ、2,200円です」
「あらま、おつかれさま」
あ、悔しい、小銭が192円しかない。仕方ないので千円札を三枚トレイに置く。
「いやでも帰りにどっか寄れるので良いんですよ。いつもはコンビニしかあいてないですし」
「ここら辺は田舎だからねー」
「でもゲームセンターがあったらバイト代つぎ込んじゃうだろうから、逆にいいんですけどね」
「あら、最近の主流のスマホアプリじゃないの?」
「クレーンゲーム好きなんですよ」
「あー、それはつぎ込んじゃうわね」
「そうなんすよー。はい、お釣りとレシートになります」
「ありがと。じゃあ頑張ってね」
そうかクレーンゲームが好きなのかと、じゃらりと小銭をしまうと「あの!」と続いた。ん?
「俺今日14時までなんですけど、午後は暇ですか」
…………んんん?