40歳OLと叔母と叔父
葬儀の間は母の弟妹である叔父や叔母たちが色々と助けてくれたので、私は葬儀場と自宅の往復だけで済んだ。
人手があるうちにと、ホームに置かせてもらっていた母の荷物も全部引き取ってこられた。手伝ってくれた叔父と叔母二人の三人分のお茶を出しただけで、いつもがらんとしている家がとてつもなくにぎやかだ。
「色々とありがとうございました。遠くからせっかく来ていただいたのにビジネスホテルですみませんでした」
「いいわよ~。ホテルが葬祭場に近かったから私らも楽だったもの」
「それより、明ちゃんに全部任せっきりにして悪かったね」
「そんな!施設代も補助してもらえてとても助かりましたし、何かの折りには寄っていただけて母はとても喜んでました。あ、形見分けは今日していかれますか?」
「そうだなぁ。四十九日の法要も済ませてしまったし、早いけれどさせてもらおうかな」
「私も今日させてもらうね。昔旅行先でお揃いのネックレスを買ったんだけど、あるかな?」
「アクセサリーは鏡台にまとめてあります。どうぞ見てください」
「あ!私もアクセサリーを見せてね」
「俺は、姉ちゃんの習字道具をもらっていいかな?」
「もちろんです。私はしないのでぜひ。墨もたくさんありますよ」
母の妹である叔母たちは面影が似ていて、少し切なくなる。末っ子の叔父もやっぱりどこか似ていて、「きょうだい」っていいなぁと思う。
それは父もそうで、三兄弟の末っ子だった父は可愛いがられたようで、二人の伯父も父の命日には毎年来てくれる。今回の母の葬儀にも来てくれて、ホームからの荷物運びも手伝ってくれた。姉弟だけで積もる話もあるだろうとすぐに帰ってしまったけれど。
「明ちゃん、この珊瑚のネックレス、もらっていいかしら」
ちょっとぼんやりしてる間に叔母は選び終えたらしい。
「あ、はいどうぞどうぞ。そういえばそれがお揃いでしたね」
「そうよ~、お姉ちゃんが結婚する前に買ったのよね」
「そうそう、沖縄もあれっきり行ってないわ~」
「俺は何回か行ったよ」
「「 あんたお土産くらい寄越しなさいよ! 」」
「はあ?お取り寄せしてるだろう?」
「「 それはそれ!これはこれよ! 」」
「面倒くさ」
母が元気な時に四人が揃うととても賑やかになったが、ホームの個室の壁が震えた時には少し引いた。
「私はアクセサリーじゃなくてお姉ちゃんの服をいくつか欲しいな。最近手芸を始めてね、端切れを集めてるの」
「どうせまた三日坊主だろう?」
「黙らっしゃい。まずはお姉ちゃんの服で壁飾りを作ろうと思って。小さくても可愛いデザインのがあるのよね!」
「どうせ「黙らっしゃい」」
叔母が言うのはパッチワークだろう。ずるずると服を処分できずにいるならそうしてもらった方がいいかもしれない。父の時はなかなか処分が進まなくて結局虫食いになってしまったっけ。
「生地が薄い夏服がいいですよね。今持ってきますね」
「結局明ちゃんを動かしてばっかりじゃないか……」
「あら本当だわ、ごめんなさいね」
「いいんですよ。こんな時じゃないと片付かないですし。あ、ついでに向こうに仕舞ってある筆を持ってきますね」
叔母が叔父を肘でつついていた。
一段落した時に叔母の雰囲気が改まった。あ、この空気は。
「明ちゃん、今さらだけど何度でも聞くわね。今いい人はいないの?……いないならお見合いはどう?」
両親の事故の後、叔母も叔父も、父方の伯父も、何度もすすめてくれた。でも母の世話をするのに精一杯で、恋人の相手をする時間が惜しかった。
当時付き合っていた彼は結婚をほのめかしてくれたけれど、会う時間が減ってお互いに少しずつ気持ちが離れていったのを冷静に分析していた自分がいた。はっきりとプロポーズしてくれればまた違ったかもしれない。私からなどなお言えなかった。それでも、事故直後にそばにいて支えてくれたのには今でも感謝している。それ以来、恋人はいない。でも。
「すみません。これからも一人でいるつもりです」
年齢的に開き直ったところもある。まずは出産。そして相手の親の介護。叔母たちや伯父たちなら話は別だが、また介護をする日々が始まるのかと思うと憂鬱になってしまう。
この話は母がホームに入所した後から何度かした。
花嫁姿を見せたい、孫を抱かせたい。そう思わないではなかった。だが。
『明がそばにいてくれて嬉しいわ』
母に他意はなかったと思う。慈しむように微笑んでくれたから。
叔母と叔父は、それ以上は何も言わないでくれた。