40歳OL、呆気にとられる
すわ乱闘か!?とはならず、肉を触った手で掴みかかろうとし、それを避けるという追いかけっこが始まった。本気で外まで走っていって笑いながら戻ってきたから何がなんだか。男の子のノリってこういうのなのね〜。
庭で巌さんが火起こしをしてくれていたので、肉を片付けた私たちは野営の準備に外に出た。……野営って……ワイルドそうだけど。
「わははは!マジギレした佳ちゃん久しぶりに見たー!」
「うるせぇ、笑ってねぇで動けテツ」
中学生ではなく高校一年生だったテツくんは匂いがつくからとジャージに着替えてきた。どうやら学校指定の体操着のようで「相原哲哉」と刺繍がしてある。汚れたら困らない?と聞いたら、ジャージは毎日洗えるから!だって。ああうん確かに丈夫だね。……しかし、吉田くんの口調が……
吉田くんと哲哉くんは納屋や台所からバーベキューの道具をせっせと運ぶ。私はすでに出されていた折りたたみテーブルの上に紙皿やら割り箸を運び、新しく出されたテーブルを拭いたりしていた。哲哉くんも人懐っこい子で、何かと話しかけてくれる。
「明さん、佳ちゃんて外面とギャップあるけど、こんなに荒いのうちにいる時だけなんで気にしないでくださいね。基本的に優しいんで口が悪いのは心配いらないッスよ」
「外面いうな」
「えー家の外だもん外面じゃん」
「それだと明さんに嘘ついてるみたいだろうが」
「えーめんどいな、あ!マサちゃんまた身長伸びたよ!」
「はあっ!?先月制服の裾伸ばししたばっかだぞ!?」
「体中痛いってジジイと整形外科行って痛み止めもらってきてた」
「あいつ、俺よりデカくなるなぁ……着る服なくなるぞ……」
「制服ね、今は八分丈みたいになってるよ」
「手首くるぶし丸見えじゃねぇか。んじゃ一式買い直しだなぁ……」
「マサちゃんはこれから夏だから七分丈になって逆に丁度いいんじゃね?ってさ」
「日本にそんな制服はねぇ」
「筋肉も付いてボタンできなくて、上半身だけ見ればバンカラだよ。ズボンもよく破れないなあって」
「ジジイ!先に注文しておけよ!パンツ丸出しで通報されたらどうすんだ!」
「あ〜?マサが部活忙しいらしくて店開いてる時間に帰ってこねえんだ、仕方ねぇだろ。体操着やユニフォームはまだ余裕あるから、仕立て直しは夏休み入ってからでいいって言うしよぉ」
「体痛いくせに部活やってんのか、あの野郎……」
「制服壊したら佳ちゃんに怒られるから、マサちゃん学校じゃほとんどジャージでいるよ」
「そういう問題じゃねぇ……」
「かっかっか!成長期はオメェも似たようなもんだったわ」
「うるせぇ、俺は既製品の範疇だったろうが!」
「ギリギリな」
「うちみんな服なんてテキトーだしー!オシャレなんて敵だー!」
「制服はちゃんと着ろ、そして社会人は必要最低限がテツが思ってるより高いからな。はぁ、成長期こわ……あ、テツ、お前も靴がキツくなったらすぐに言えよ」
「なんで?先月買ってもらったばっかだよ?」
「お前は足がでかくなるとすぐ身長伸びるからだよ」
「そうなの?」
「今までがそうだよ。そうな、マサが帰ってくるの遅いなら先に肉を焼いておくからあとで温めてやってくれ」
「りょーかーい!」
男同士の会話もポンポン飛び交って目まぐるしい。巌さんも普通にまざっているし。話だけ聞いてるとマサくんはのんびりした子かな。
しかし……バンカラって、まだ通じるのねぇ……